願ってもない追放後からのスローライフ?

シュガースプーン。

プロローグ

第1話 計画的な人生設計も思うようには進まない

 今日は一世一代の大勝負の日である。

 高校から付き合って来た彼女へのプロポーズである。


 将来が心配ないように色々と準備してきた。

 辛いことも色々とあった。

 高校1年から冒険者としてバイトをはじめて死に物狂いで努力してランクを上げて将来困らない様に稼いできた。勿論運にも恵まれていいスキルを所持していたのもある。

 しかしランクが上がるほど冒険者は危険な職業でもある。

 冒険者は金遣いが荒くその日暮らしの人も多いが俺は堅実にに貯めに貯めて、もう引退してもいい位貯めたし不労所得の為にマンションなんかも建ててみた。

 危険な冒険をして早死にしてつれあいを悲しませる事もない。

 家も買ったし指輪の準備もバッチリだ!

 後はプロポーズのみ。


 予約した夜景の見える最上階の高級レストランに今日の為に用意したスーツで向かう。


 彼女は後から来るそうなので先に席に着いて待つ。

 彼女にドレスコードのあるいいレストランだと伝えてあるし、事前にレンタルドレスも借りられるように手配済みである。

 彼女のドレス姿を想像するとついつい顔が緩んでしまう。


 しばらく待つと彼女がウェイターに連れられてやってきた。

 レンタルで用意したドレスでは無く、自前なのか更に似合っている紫のドレスに身を包み、黒の艶のあるミニバックをもっている。

 ついつい見惚れてしまった。

 貸切にしてある為に周りに人はいないが、きっと人がいれば周りも目を奪われた事だろう。


 ウェイターが椅子を引いて着席を促すが、彼女は席に着かずに俺を見下ろしながら言った。


「あんた、こんな所に呼び出してプロポーズでもする気?冗談も程々にしてよ。あんたなんかと結婚なんてするわけないじゃない」


「え?」


「何ほうけた顔してるのよ。当たり前でしょ?冒険者なんて安定しない仕事してるあんたと結婚してどうするってのよ?

 大学まで出てるのに高校のバイトからでもできる学歴関係ない仕事してるし社会人になって一年経つけど学生の時と同じようなデートコースって、センス無いのかしら?

 まあ、今日は無理して頑張ってるみたいだけど。

 確かに学生の時は冒険者やってる彼氏なんてカッコイイと思ったし飲食店のバイトより稼げるみたいだからデートも周りよりいいとこ行けたけどいつまで経ってもいいとこ連れて行ってくれないし、ランクアップもそんなにしてないんでしょ?

 将来性ないの分かりすぎ。そんな人と結婚するわけないじゃない。

 それに私、この前別の人にプロポーズされたの。

 デートに誘われるようになって半年くらいなんだけどね、あんたと違って大人のデートよ。

 いいお店に連れてってくれるわ。

 ギルドの職員なの。しかもエリート。

 冒険者と違ってギルド職員は国家公務員で安定してるし、しかも私達の二つ上なのにもう役職付きなのよ。

 あんたなんかよりも将来性あるし、受けることにしたの。

 だから今日はお別れを言いに来たの」


「か、香織?」


「君、しつこい男は嫌われるよ?」


 そう声をかけてきたのはビシッとスーツを着こなしたイケメン


「外で待っていたのだけど中々帰ってきてくれないものでね。心配になって来てしまったよ、申し訳ない。

 しかしフィアンセが元彼に絡まれているかもしれないんだ。理解してくれるだろう?」


 そう言って男は俺を見下した目で見下ろした。

 そしてため息をつくと続きを話し始める。


「これ以上付き纏われる事がないようにこちらの力を見せておく必要があるね。粗暴な冒険者に大事なフィアンセが襲われたらたまらないからね。

 君、冒険者カードを出したまえ、登録を抹消する」


 ガタッと椅子を引いていたウェイターが音を立てたがしまったとばかりに直立不動に戻る。高級店のプロはすごい。


「え、いいんですか?」


「僕にはその権限がある。問題ない。端末も持って来てある。ほら、出したまえ」


 本来男に与えられているのは引退を申し出た冒険者や違反冒険者に対しての登録抹消に審査の後に認証許可を出す権限なのだが、過大解釈している男は意にも介さない。


 俺の差し出した冒険者カードを奪い取ると名前を確認してカードを端末に差し込んで操作を行う。

 そして名前に横線の引かれたカードを俺に放り投げた。


「これで君の冒険者としての権限は無くなった。もうクエストの受注はできない。」


「貴方も大学まで出てるんだから将来性のある仕事に転職したら?その道を作ってくれるなんて彼、優しいでしょ?

 まあ、頑張ってね」


 そう言って2人はレストランを出て行った。

 彼女の腰に回された男の手に嫉妬してしまった。


「笑ってくれて構わないよ?」


 沈黙を破ったのは固まったウェイターに俺がかけたそんな言葉


「は、春風様、よ、よろしかったのですか?」


「ん?冒険者登録?それは構わないよ。そろそろ引退しようと思ってたのに引き止められてただけだからちょうどよかった。

 それより振られちまったよ。笑ってくれ!

 ああ!とりあえず酒!

 それに君も、一緒に飲もう!支配人呼んできて。せっかく貸切にしたんだから手の空いてる給仕係とかみんなで俺のやけ酒に付き合ってよ!」


 その日はレストラン始まって以来の賑やかな日になった。


 そして次の日、冒険者ギルドに激震がはしる。

 日本最強のSSSランク冒険者、ゼロの引退に。


 

___________________________________________


あとがき


今年もドラゴンノベルス小説コンテストに参加中です!


新作

《ある日、世界に出現したダンジョンは、開門前にバカスカ敵を倒した僕のせいで難易度が激高したらしい。》


https://kakuyomu.jp/works/16818093073378423466


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