第一章拾った一番弟子

第3話 公園でリストラ社員と間違えられる

 公園のベンチ。水を片手に二日酔いに痛む頭に苛立ちながら酔い覚ましのカップ麺が出来上がるのをまっている。

 回復魔法で治してもいいのだが、昨日の事を思い出すとそれはそれで落ち込むので二日酔いに立ち向かう事を選んだ男、春風黎人。


 昨日ビシッと着こなしていたスーツはシワを付け、ネクタイを緩めた状態で出来上がったカップ麺をすすった。

 朝の風を心地よく感じながら何も考えずにぼうっとしていた。


「ねえ、おにーさん、ご飯奢って!」


「え?」


 気づけば目の前に制服の少女が立っていた。

 今も昔も変わらない。ギャルっぽく着崩した改造制服


「あたし朝ごはん食べてないんだよねー。

 こんな可愛い子が頼んでるんだよ?奢って?」


「いや、奢らないけど?」


「しけてんねー。おにーさんリストラ民?こんな朝から公園いるし、家帰れないとか」


 ノリの軽い少女がクスクスと笑う。

 黎人はこういうノリには慣れている。冒険者やってればいろんな性格の人間と出会うし、元カノの友達にこういうギャルも結構いた。


「違うわ!お前こそ。学校サボってこんな所で食料たかるなよ。学校行け!学校!」


「学校辞めたんだ!あたし明日死ぬかもしれないし、誰でも少し覚えてくれる人が居たらって声かけてんの!

 何言ってんだろ、おにーさんが話しやすいからかな」


 そうやってぎこちなく笑う少女の顔は、食糧をたかりに声をかけて来た時とは違い、消えそうな笑顔に見えた。

 黎人はこの顔をたくさん見て来た。

 切羽詰まった時に見せるから元気。

 無茶をして死んでいく奴の顔だった。

 自然と、口から言葉が出ていた。


「何があったんだ?俺なんて昨日プロポーズしようとしたらフィアンセが居るからって振られたわ!高校から付き合ってたんだけどなー」


 ハハハと力なない笑をする黎人に少女はクスリと笑返す


「何それ!浮気されてたの?だっさーい!

 私はね、パパとママが借金残してどっか行っちゃった。

 …学費も払えないし、こんな事、ダサくて友達にも言えないし、家は解約されてて帰れないし、生きてく為に出来ることなんて私には冒険者位だから。だからもしかしたらあたし明日にはモンスターにやられて死んでるかもしれないんだ」


 かなり重たい内容だった。明日死ぬかもは言い過ぎかもしれないが、親に捨てられたショックで半ば自暴自棄になっているのかもしれない。


「冒険者登録の要らないGクラスダンジョンなら死ぬ危険はほとんどないからそこで自信を付けてから冒険者登録したらいいと思うぞ。

 不安なら、ついて行ってやろうか?」


「えー、おにーさんナンパ?私体は売らない主義なの!だから冒険者くらいしか無いんだけどね」


 少女くらいの年齢だとアルバイトをするにも親の許可が必要になる。

 それさえ要らないのは違法な売春や冒険者なんだろう。


「ちげーよ。一応これでも元冒険者だからな、お前みたいな理由で死んでいった奴を何人も見てる。だから、ここで知らんふりしたら後味が悪いだろ?まあ自己満の偽善だよ」


「なにそれー!でもまあお願いしよっかなー。

 1人で死ぬのは怖いし!」


 今までも、手の届く範囲でこういう事はして来た。

 冒険者は自己責任。そう言われても放って置けないのが俺だった。


「ほら、行くぞ?腹減ってたら戦は出来ないからな。クリームパンくらいは奢ってやるぞ?」


「えー、けちー!」


 少女は笑ってついてくる。

 コンビニでパンを買った後、1番近いGクラスダンジョンへ向かうのだった

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