俺③

「あ!ボス〜!」

 


脳天気な声。


「ちょ!無視しないで下さいよ〜!」


構わず歩き続ける。


「ねぇ!ボスってば〜!」


殴りそうなのを必死に我慢する。八つ当たりになるから。


「ボス〜聞こ「ボス今お時間よろしいでしょうか?」」


「…………」


通り過ぎようとして出来なかった。仮面越しに目の前に立った奴を睨む。


「どけ」


「すぐ済みますので」


「どけ」


「すぐ済みますので」


「………………………チッ」


「ありがとうございます」


こいつのしつこさを考えると許可した方が早い。


(とっとと一人になりてーのに……)


あれからずっと怒りが収まらない。


「君の用事は何でしたか?」


「え?あぁえっとですね〜」


二人の会話を無視して部屋に向かう。


「あ、部屋に行く前にお風呂に行って下さいね」


構わず進む。が、また目の前に立たれた。


「今のボスはとっても埃っぽいですから」


また睨む。すごくいい笑顔を返された。


「………………」


殴りそうなのを必死に我慢する。八つ当たりになるから。







「で?」


風呂に入って少し落ち着いた。気がする。


「どこに行っていたのですか?」


「……用は?」


「どこに行っていたのですか?」


「…………おい」


「どこに行っていたのですか?」


「…………………………」


「どこに行っていたのですか?」


マジか。


「…………何で言わなきゃなんねーんだよ」


「気になりますので」


「……別にどこ「それに最近避けられてますよね?」」


「………………」


「避けられてますよね?私のこと」


「……………………」


溜め息を吐く。長い長い溜め息を。



「なぁ…………









……定期的にやんなきゃ駄目か?このやり取り」


呆れ過ぎて怒りがどっかいった気がする。てかいっそ冷静になったわ。


「そんな頻繁にやってないでしょう?」


何言ってんだって顔された。いやこっちがしたいんだが?


「二・三日にいっぺんやってりゃ頻繁だと思うが?」


「じゃあやらせてるボスが悪いですね」


マジか。


「お前それ本気で言ってんのか?」


「何がですか?」


すっげぇ不思議そうにされた。何でだよ。おかしな事は言ってねぇはずだよな?


「………………お前は俺にどーしてほしいわけ?」


「あなた様のお好きなように」


「…………じゃあ何でそんな事聞くんだよ」


「心配は心配ですし、把握しておきたいじゃないですか。



あなたのとしては」



「………………」


溜め息を吐く。長い長い溜め息を。




「自称が抜けてるぞ」




また、溜め息を吐く。長い長ーい溜め息を。何でかって?


「それはあなたでしょう?それに人の部屋を訪れる時にはノックをするのがマナーだと何度言えば分かるのですか?」


「相変わらずうるせぇお坊っちゃんだなぁ。別にいいだろ?オレとボスの仲なんだから」


「毎回言ってると思いますが、仲良しアピールやめてもらいます?迷惑ですし困るでしょう?ボスが」


「お前こそ毎回毎回嫉妬してんじゃねーよ。ウゼェんだよ。あと、ボスの威を借んなよ。腰抜け野郎が」


「はぁ?それはあなたでしょう?」


「あ"あ"?何だって?聞こえねーんだよ。声も肝も小ぃせぇから!」


「あなたの耳が悪いのを私のせいにしないでくれます?それとも言った言葉が理解出来なかったから難癖つけたんですか?だったらすみません。馬鹿でも分かるように言えなくて」


「んだとてめぇ!!!」


拳を振り上げ殴る姿勢に入る奴。


それに対してカウンターを入れようと身構える奴。


勝ったのは。











「喧嘩なら外でやれ」





その場で蹲る二人を見下ろす。


「聞こえてるよなぁ?」


微かに頷いたから、一応手加減出来たんだろう。


「俺今すげぇ虫の居所が悪りぃんだわ」


二人して身じろいだ気がするが、それがどういう感情なのかは分からない。てか、もうどーでもいい。すげぇ面倒くせぇ。


「今すぐ出てけるか?」


頑張って動こうする二人を見下ろす。全く感情が動かないのはもう仕方ねぇと思う。ホント無駄だと思うこのやり取り。


「毎回毎回いい加減にしてほしいんだがなぁ…………お前ら二人ともに言ってんだからな?」


本当にそろそろやめてほしいこのやり取り。



「はぁ……………………………」



溜め息が出る。長い長ーい溜め息が。



「動けるようになったら出てけよ。それと今日はもう戻ってこねーから」


二人して必死に動こうとして、出来なくて突っ伏する。

それを無視して、部屋を出る。


「ん?」


遠くでこの場所に似合わない洒落たオルゴール時計の音がする。


(……少しでも考える時間が欲しかったんだがなぁ)


また、溜め息が出る。


(何か今日は戻って来てから溜め息すげぇついてる気ぃする)


ん?それはいつもか?


「はぁ…………」


また出た。もういい。気にしねぇ。てかもうそれすら、


(面倒くせぇ…………)


もう意識するのも面倒臭くなった溜め息をまた吐いて、歩き出す。


(……また自分に腹立てんのかね……)


そんな気がしてしょうがない。


(気付かれねぇようにしねーと……まぁでもそれは大丈夫か?)


『お前はほんっとーに分っかりにくい奴だなー!!』


(ってよく言われるし……いやでも気を付けるに越したことはねーか?)


何て事を思ってたら目的地付近に辿り着いた。


(…………何はともあれ、あの怒りはマシになったか?)


あの二人を殴ったから?


(いや、あれはアイツ等が悪かったし、いつもの事だったし)


だからあれは、八つ当たりじゃない。




八つ当たりにしちゃいけない。







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