煙草と真夜中の死に別れ
水依レイ
ほんのちょっとしたこと
都心から少し離れた、下町とは言えない若干繁華の、六畳半の二階建てアパートのベランダで、私は煙草を吸っていた。
二階から見下ろす景色は、特段と絶景とは言えない。薄汚れた路地裏が、眼前に映る。
外で喫する理由はそうでは無い。ただ……こう真夜中であっても、街の生活音の繁っている様相が、私を自分に浸らしてくれた。
このような習性も、ここ数十年生きてきた人生で数ヶ月程前からやってきたもので、しかしだからといって直ぐに飽きて終わってしまうものでもなかった。
同居人が死んだ。
といっても猫だ。それも私と同い年程であった猫。長生きも長生き、死を知らないとさえ思っていた。
両親は未だに健在だが、私の上京により寂しがるのを恐れ、私のもはや半身である猫を、私と同行させたのだ。
煙草は、元々興味がなかった。
味も微妙なもので、二十歳になった半年前、大学の友人の勧めにより一度試した程度で、それ以降吸うことはなかった。
前述にもあったが、死因は老衰だった。
二十歳の誕生日をお互いに迎えたのが、奇跡だったとも言える。
だから、仕方がなかったんだ。
猫が死んだことで、出費が少し減った。
その埋め合わせをするように、私は煙草を買った。
煙草は、一本吸うだけで五分半の寿命が縮むらしい。
ほんと、ただの比喩だってわかってるのに。
「あー……早く来ないかなー、寿命」
煙草と真夜中の死に別れ 水依レイ @zerohuit
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