第8話 巡る時間と無情な理

「彼は逃したようだけど、君は逃す訳にはいかないな。まさか時を操れるだなんて、夢にも思わなかったよ」

 エルドリヒは例の合図を出す。

「そうはさせない……」

色鮮やかで透明な岩が彼女を包み、攻撃も妨害も防ぐ。

「愚者め……どこまでも小賢しいな」

「愚者はお前」

 急に彼女は澄ました顔になって、声を荒げることも無くなった。

「成程、感情を代償にしたってことか……正に愚者の所業だ」

 徐々に彼女も上空の穴に吸い込まれていく。

「そして、記憶も時間遡行の生贄の代わりになる。つまり結局結果は変わらない!何度やっても私の勝ちだ!」

「必ずお前を倒す……!」

 無表情で淡々と宣言し、裂け目に吸い込まれ、その直後それは何事もなかったかのように閉じた。


 


目覚めた世界は灰色の世界。

 空は鉛色で塗りたくられ、海はくすんだ青。山は白い靄がかかっている。

 

 ここはどこだ?僕はここの住人ではない。

 

 その悲惨な光景を前にして、そう考えた。

 

 何も思い出せない……

 腕の十字と一文字の傷を見つける。何の手掛かりにもならない。きっと木の枝に引っ掛かれたんだろう。


 遠くの空でピカリと何かが閃いた。

                *

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忘却の騎士と欠落の大賢者 四季島 佐倉 @conversation

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