ストーカー再び

 Facebookのカレンの投稿には、友人たちからのいいねが毎回20前後付く。本名で運用するSNSなのでTwitterやInstagramに比べると数が少ない。


 あるとき、ふと「誰がいいねをくれたかな」とユーザー名を確認したところ“飴田”の苗字に心臓が大きく飛び跳ねた。


「え、えええっ!?」


 去年、解雇された会社のクソ上司だ。本人も東銀座の老舗菓子会社から地方の関連会社に飛ばされたと聞いていた。

 彼がいいねしたカレンの投稿記事は、留学して滞在するアパート近くのレストランだ。


 慌てて元上司飴田をブロックして、すぐ日本の恋人セイジに連絡した。LINEにメッセージを送るとすぐ通話が来た。


「ブロックしたんだろ? カレンは今アメリカだし、変なことにならないと思うけど」

「う、うん。ごめんね、そっちは夜中なのに。ちょっと動揺しちゃって」

「気にすんな、寝てても気づいたらすぐ電話するからさ」

「……うん」




 嫌な出来事は続いた。

 カレンは渡米中の新聞は止めていたが郵便物などはセイジや彼の母親に回収をお願いしていた。

 今はだいたい週に2回ほどセイジの母が買い物のついでにアパートを通りかかったとき、ポストから回収してくれている。


 ところが夕方、地元スーパーの特売帰りにアパートに寄ったところ、見かけない男の姿がカレンの部屋のドアの前にあったらしいのだ。

 スーツ姿の男は配達員にも見えないし、営業にしても大抵は昼間来るもので、夕方はおかしい。


「あら、何かご用ですか?」


 部屋の鍵を預かっている彼女が声をかけたところ、しどろもどろになってすぐ逃げていったそうだ。

 だが、セイジの母が不審に思って、買い物袋を抱えたまま近くでしばらく貼っていると同じ男がまたアパートのカレンの部屋の前まで戻ってきた。


 セイジの母は念のためと思って、道路を挟んだコンビニまで移動して、目隠しのため店内に入ってからスマホで男の姿を拡大して写真と動画で撮影した。

 このコンビニはイートインスペースがあるので、日本にいたときはカレンはカフェ代わりによく使っていたところだ。


 その写真がセイジ経由で送られてきて、文字通りカレンは卒倒しそうになった。


「飴田ーっ!」


 まさかのご本人様だ。遠い地方にいたはずの人間が、なぜ東京のこんな駅から離れた住宅街にいるのか。


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