おっさんたちの余計なお世話

 そして年末、弁護士事務所の仕事納めの日の翌日。

 夕方にカレンとセイジは連れ立って小料理屋ひまらやへ、団塊さんご自慢の芋煮を食べに行った。


「わあ。芋煮って里芋のお汁なんですねえ」


 団塊さんが所属してる東北の県人会の芋煮会から、鍋ひとつ分の芋煮をジップ袋に分けて入れて土産に持ち帰ってきてくれたのだ。


「重かったんじゃないですか? 大変だったでしょう」

「はは、まあね! でも駅からはタクシー使って持ってきたから大丈夫」


 自宅から保冷剤入りのクーラーボックスを持参して持ってきたとのこと。

 本人は少し前に店に着いて、早々にビールとつまみを摘んでいた。


「団塊さん、そういうとこマメだよね」

「子供たちが小さかった頃、海やキャンプ行くのに使ってたんだよ。久し振りに出してきたけどまだ使えて良かった」


 芋煮は店主のオヤジさんが温め直して、少しだけ醤油を足し直して小口ネギを散らしてのご提供。


「芋煮って味噌汁の一種かなって思ってました。お出汁きいててお醤油味も美味しいですねえ!」

「味噌味でもいいんだよ」

「最初に材料全部煮込んだ後で、半分ずつ醤油味と味噌味とかやるぞー」


 バリエーションは豊富らしい。

 今回の芋煮は、里芋、ニンジン、ゴボウ、コンニャク、油揚げに豚肉を入れたものだった。


「大鍋で大量に煮込んでるのもあって、家で作るより美味いんだよな。芋煮会の芋煮」

「あ、テレビで見ましたよー郷土料理の芋煮の風景! 学生が田植えの手伝いの後に自分たちで作ってるの楽しそうでした!」

「採れたての里芋は口の中で溶けるんだ。ああいうの東京の人は知らないだろうなあ」




 今日はもう芋煮が酒のつまみ状態だったが、年末で正月も近いということで、店主のオヤジさんが作ったお節料理を少しずつ味見させてもらって早いうちに解散となった。


「年末は今日でおしまい。年明けは4日から再開ね」


 お正月用にお節料理のお裾分けまでいただいてしまった。


「オヤジさん、ほんと大好き。伊達巻き入ってたりしますか!?」

「あと黒豆と紅白なます、クワイの煮物ね。冷蔵庫入れておけば日持ちするから」

「元旦に食べ尽くす自信ありますー!」


 そして見送られて、カレンとセイジは自宅方面へのバス停へ。


「おおい、セイジ君」

「はい?」


 店主のオヤジさんや常連さんたちが、ニヤニヤ笑いながらセイジを呼び止めた。


 親指を立てたり、片手の親指と人差し指で作った輪の中にもう片方の手の親指を突っ込んだジェスチャーをしたり、わりと露骨な応援を寄越してきた。


「男見せろよー」

「そうそう」

「もう、おっさんたち、余計なお世話ですって!」


 ムキになるセイジに、親父どもは無邪気に笑っていた。


「何の話?」

「なんでもないよ!」


 ちょうどバスが到着して、慌ててICカードを取り出して搭乗した。


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