また来たよひまらや

 今日は週に一、二度の区民会館でのレジンアクセサリー作りのサークル活動の日だったが、連日の上司からの副業疑惑で責め立てられているカレンにはさすがに参加する気力がなかった。


 講師の義明にはスマホのメッセージアプリから事情を書いて送信しておいた。

 会費はもう来月分も支払ってしまっていたが、サークルまで飛び火しては申し訳が立たない。

 しばらく参加を見合わせることにした。




「あーあ。せっかくの楽しい趣味の時間が……」


 美青年の講師や、東銀座の品の良い参加者たちとの穏やかな時間がとても気に入っていたのに。


 今日はもう自宅アパートに帰って、近所のスーパーのお惣菜ディナーだわとカレンが電車に乗っていたら、スマホのメッセージアプリに着信が入った。


 見ると差出人は同級生セイジからだ。


『今日、ひまらや行かない? オヤジさんが栗のおこわを蒸すんだって』


(行く! 栗は大好き、行くしかない!)


 すぐ返信すると、セイジは小料理屋ひまらや近くに仕事があって店に直行するらしい。

 カレンは最寄駅からひとりバスで向かうことにした。


「こんばんはー。わあ、今日はお客さんいっぱいですね!」


 小料理屋ひまらやは、国道4号線沿い、埼玉県に近い場所にある小さな店だ。

 中はカウンター席のみ。定員は8名だが全員座ったらもう店内はぎゅうぎゅう。

 奥にお座席もあるようなのだが、大抵はカウンター席のみ稼働している。


 入口近くの席にはセイジがいて、カレンを待ってくれていた。


「おう、若い女の子が来るなんて珍しいね、オヤジ」

「セイジ君の同級生の子らしいですよ」


 先にビールで赤ら顔になった六十後半くらいのおじさんが、店主のオヤジさんとお喋りしている。


 今晩はカレンたちの他に三人の常連客がいた。

 奥の席から、話好きのおじさんは、この店の近くにある大手自動車会社の支店で管理職を務め、定年を満喫中で通称『団塊さん』。

 ちょっと無神経なところもあるが、基本的に大らかで気の良いおじさんだ。


 その隣に、茶のベレー帽を被った、近所の病院の院長、通称はそのまま『院長さん』。

 年齢は団塊さんと似たり寄ったりだ。


 更に手前には、二人より更に年上らしいが、バシッと髪を白髪染めでしっかり黒く染め、お高そうなグレーのスーツのおじいさん。

 彼はカレンも知ってる有名な調味料会社のお偉いさんだそうで、店主のオヤジさんと大学時代からの友人だという。

 通称『ソースさん』で、たまに会社から運転手付きの車で駆けつけては、軽く飲み食いして帰っていくそうな。


 店内はカレンたちを含めカウンター席に五人。まだ数人入れるが、結構キツキツだ。


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