セクハラ常習犯

 翌週、カレンが社内のカフェスペースに飲み物を取りに行って、スマホでニュースサイトを確認しながら部署に戻ろうとしたら帰り道に飴田課長と遭遇した。


「青山。お前、スマホで副業なんかしてないだろうな?」


(まだそのネタ引っ張るの、この人。いい加減しつこい! それに……)


 人がスマホで何を見ているかまで言及するようになった。

 ついに監視までするようになったと知り、ぞわわっと鳥肌が立つ。


 そして庶務課に戻るなり、こう言われた。


「休憩に行くならスマホをデスクに置いていくように」

「は? 断固拒否します」


 この上司のいる庶務課のデスクにスマホを置きっぱなしにするなど、危なくてできるわけがない。


「………………」


 飴田課長はカレンの拒否にうんともすんとも言わず、不機嫌そうな顔をして庶務課の部屋を出て行った。




 こうなってくると、さすがに同じ部署の面々も課長の異常さに気づき始める。

 固唾を飲んでカレンと課長の話を聞いていた周囲も、心配そうな表情で声をかけてきてくれた。


「だ、大丈夫? 青山さん。課長、ほんとどうしちゃったんだろうね……」

「あの人、あんな頭おかしいのに何でこの会社にいられるんだろ?」

「何か会長の姪っ子の息子らしいよ。縁故採用」

「あー……」


 となると、会社側に訴えても泣き寝入りの可能性がある。


「てことは、うちの部長、そういう事情があるならやっぱり飴田課長に注意なんかしてないわね」


 これはもう一度、社内カウンセラー経由で相談したほうがいいかもしれない。




 デスクのパソコンで社内カウンセラーの予約可能日時を調べていると、とんでもない情報がカレンの耳に飛び込んできた。


「ねえ。聞いた話なんだけどさ、あの飴田課長、セクハラで部下に訴えられかけた前科があるらしいんだよね。しかも2回」

「2回!? え、ちょっと待って、ということは私も狙われてるってことー!?」

「………………」


 一同、無言。


「可能性はあるかも」

「カレン君、わりと可愛いし」

「聞いた話だと、ああやって脅しみたいなことするのが女が喜ぶって思い込んでるらしいのね」

「ひいいいっ、気持ち悪い!」


 本格的に気持ち悪い!


「それ結局、セクハラされた相手はどうなったんです?」

「会社側が無理やり示談に持っていったって話。でも実際は、強引に辞めさせたみたいね。訴えるとかしないよう念書まで書かせて」

「………………うわ」


 何やら嫌な予感がした。


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