自作アクセのサークル活動

 区民会館での、地元住民によるサークル活動「レジン樹脂で作るかんたんアクセサリーの会」は、カレンの勤め先のある地区で活動されている。


 講師は義明君といって、カレンより三つ年上の地元民だ。

 全体的に欧米人の血が入っていると言われても違和感がないほど、色素の薄い茶髪と琥珀色の瞳を持った、全体的に品の良い青年だった。


 というより、ハッキリクッキリ、とても麗しい容貌の青年だった。

 カレンは芸能人なんて目じゃないくらい、鑑賞に耐えるイケメンが実在することに感動したものである。


 どこかの中小企業の御曹司らしく、ここ中央区の支店勤めらしい。


 たまに幼馴染みの和明君という青年が差し入れを持ってやってくる。

 こちらは義明君とは対照的に髪も目も今どき珍しいくらい真っ黒で、とても日本人的な端正な顔立ちの男前。


 二人とも独身らしいが、まだ結婚はしていないらしい。

 彼女もいないなら狙ってみたいなーと思うイケメンたちだが、サークル会員のおばちゃんやおじちゃんたちの人気者でもあるので、変な手出しをしにくいのが難だ。


 サークル活動の帰りに皆で、近所のカフェでお茶したり、レストランでご飯を食べるのが精々だった。




 カレンは週に2回のサークル活動時、会社で上司からアクセサリー作りが副業だと文句を言われたことを講師の義明に相談してみた。


「商業活動はしてませんって、オレが一筆書こうか?」

「いえ、何かちょっとおかしい人なので、下手なことすると逆効果になりそうで……」


 それに、この大切な趣味の場をあのクソ上司に知られたくなかった。

 ただでさえ、会社に近い区民会館なので。


 胃の辺りを押さえながら言うカレンに、義明君は心配そうな顔をしている。


 心配ごとがあるせいか、今回の活動日のレジンアクセサリーの出来は散々だった。


 LEDライトでレジン樹脂を硬化する時間を間違えてベタベタな出来になってしまったり。


 中に封入した貝殻が飛び出てしまったり。


 金具を付けようとして固めたレジンを砕いてしまったり。

 これではリカバリもできない。


 しまいには、ネイルサロンで綺麗に整えてもらったばかりの指先のジェルネイルをうっかりペンチで挟んで爪ごと破壊してしまい、泣いた。


「ああああ、最新ネイル8千円があああ……!」

「うん。カレンさん、今日はもうそこまで。後は終わりまでレシピ集でも読んでたほうがいいね」


 これ以上の失敗をする前に、レジンアートのレシピ本を渡されてしまった。




「あ、これ最新のやつ」


 ちょっとお値段が張るので、給料日まで待とうと思っていた本だった。


『最新レジンアクセサリー』


 ここ数年の間に活躍し始めたレジン作家の作品や技術をまとめた本だ。


 他の人たちの作業の邪魔にならないよう、教室の端に移動してペットボトルのお茶を飲み飲み、ページをめくっていく。


 最近はレジンに天然石や金箔、銀箔、ネイルでも使う貝殻をパールの光沢加工したフレークなどを混ぜる他に、金属や木材と組み合わせた加工も流行ってきている。

 たとえば木材と組み合わせたレジンアクセサリーはウッドレジンといって、そういう分野が確立されつつある。

 レジンだけだと、プラスチック感が強くてチープな印象になりやすいが、よく磨いた家具にも使われる堅めの木材と合わせると、ぐっとシックな雰囲気が出てくる。




「あれ、これって」


 見開き2ページに、ファンタジー小説やアニメに出てくるような、キラキラ光るレジン製の西洋剣があった。

 レジン製だから基本は透明で、けれど柄や刃の一部分に色を入れ、中にLEDライトを入れて派手に光らせている。


「聖剣、Yoshi-AKI作……ってこれ義明君が作ったやつ!?」


 紹介文には『新進気鋭の幻想ファンタジー作家』とある。


「あはは、たまたま投稿したら採用されちゃったんだよね」


 講師義明がバレちゃったか、という恥ずかしそうな顔で笑っている。


「義明君、こういうの好きだったんですねえ」

「ファンタジー系の世界観、好きなんだよね。聖剣の勇者みたいなやつ」


 まんまオタク趣味な嗜好なわけだが、本人は楽しそうに笑っている。


 カレンもつられて笑っていたら、また胃の辺りがツキンと痛んだ。


「カレンさん、大丈夫?」


 胃の辺りを押さえたカレンに、義明はまた心配そうな顔になった。


「だ、大丈夫、ですけど……今日は先に帰ったほうが良さそうです。この後のお食事会は」

「それは平気。義務じゃないんだし。駅まで送って行こうか?」

「いえ、さすがに申し訳ないです。本、ありがとうございました」


 これはかなりヤバい。

 会員たちに手早く挨拶して、慌てて帰宅して胃薬を飲んだらようやく一息つくことができた。


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