第9話 冬二 馬になる。
今まで 彼女は どんな人と日々を過ごしてきたのだろう。
誰と触れ合ってどう過ごせば こうなるのか。
いったいどんな愛され方をしてきたのか。
とっておきのスイーツを食べる時の 満たされた時間。
赤ん坊の全身でするくしゃみを 見守る母の眼差し。
日向に寝転ぶネコの無防備な あくびの平和さ。
愛に満ちた時間。
愛するものを愛おしく見つめる眼。
愛おしいものに触れる時の 慈しみ溢れる手。
今 想像できる限りの しつこい程のその愛に僕はどうしようもなく嫉妬する。
僕は彼女の所業を 全て躊躇なく喜んで受け入る。僕にそれをさせられる理由は 何だろう。彼女は僕を盲目にしてとことん喜ばせ虜にする。彼女に出会い 僕は 人を愛することで 自分が満たされていくことに気づく。
聞いて呆れるようなくだらない事も 僕と彼女の2人の間では輝くエピソードになる。
僕は 今 馬になり彼女を背中に乗せている。彼女は何も着ていないが 僕はその美しく愛おしい体を 見ることができないでいる。
「歩って……」
リビングの床を 僕は四つん這いで歩く。
彼女が背中に触れる。背骨のくぼみや肩甲骨の形に沿って 指先でそっとなぞる。
「やめてください……」
思わず全身に力が入り 足が動かなくなる。
「ちゃんと歩くの」
そう言って彼女は これ以上 大きくも硬くもなれないペニスを 踵で軽く蹴飛ばす。
「うっ……」
思わず声が漏れ 昇天しそうになる。それでも目をつぶって唇を噛み締めていると いくらか落ち着いてきて 少しだけ体の力を抜くことができた。
僕はまたゆっくり歩き始める。
四つん這いで歩く彼の背中にまたがり 私は腰を前後に少し動かしてみる。とたんに溢れ出た愛の証は 私の腰が何の抵抗もなく動き続けられるよう 最大限に見方をする。彼の背中に擦り付けられたクリトリスが すぐに勃起して 体が熱くなる。彼の両肩を掴む手に力が入る。このまま腰を振り続け 彼の肩に爪をたてながら 一度召されてしまいたい衝動にかられる。
今 この瞬間 私に火をつけるのも彼 そして燃え上がるのを止めることが出来るのも 彼だけ。
(彼の顔が見たい……あぁ どんなに可愛い顔になっているかしら……)
私は努力して腰の動きを止める。彼の背中に裸の胸を密着させて顔を覗き込む。力なく開いた彼の下唇から唾液が床に滴り落ちる。美しい顔はこの上なく無防備で 切ない吐息を漏らす。そして子犬のような期待いっぱいの瞳を ゆっくりと私に向ける。
私は彼が可愛くてたまらない。
彼女が背中から降りる。向かい合わせに正座をする。僕と彼女の膝頭がピタリとつく。白い太腿から続く丸くて細い腰 縦長の可愛いおへそから僕は目が離せなくなる。
(ここにも落とし穴がありましたか……)
向かい合ったまま 彼女は僕の体を抱えるようにして 背中に手をまわす。そして薄手のタオルを使って 僕の両腕を背中できつく縛る。
彼女の鼻先が 僕の胸に触れる。彼女の息が僕の乳首にかかる。そして僕はまた吐息をもらす。
「何するんですか(泣)」
「そんな顔しないのよ。嬉しいくせに。好きでしょ こういうの(笑)」
彼女がペニスを掴んだだけで せがむように僕の腰は前に迫り出す。
「冬二君は動かない。私が良くしてあげるから」
彼女の手の動きは躊躇がない。
「はあ……はあ……おねがい……もういかせて……」
とたんに彼女はペニスから手を離す。僕の目を見つめて両手で僕の頬を挟んでえくぼを見せる。
(ああ いとおしいほっぺの落とし穴。僕は自ら飛び込もう)
たまらなくなり 手が不自由な僕は夢中で彼女の唇をを奪う。彼女の口の中に舌をいれる。僕の舌は彼女の舌との再会に大喜びだ。だけど どうやら僕は またいけないことをしてしまったらしい。仕返しに彼女の猛烈に激しいキスが降ってくる。口の中の空気が無くなり 僕の舌は囚われの身に。昂る気持ちは もうめまいがする程に。
(今 頬を掴むその手で 僕の体を触って……。
僕に 僕に触れて欲しい。手を少し下げればすぐそこに僕の乳首があるから それをつまんで……お願い。潰れるほど強くつまみ上げて。そして僕の胸を思い切り引っ掻いて……触って……僕に 僕に触って欲しい……)
「!!?……」
脳天に突き抜ける程の衝撃が僕に襲いかかる。
朦朧とすると頭の中 しばらくの間 何が起きたのか僕は全くわからなかった。
ただ ほったらかしの僕のペニスは逝ってしまった。誰にも触られることなく ビクビクと震えながら。飛び出した精液は僕はの胸だけでなく彼女の胸とあごの下までを汚した。
僕が逝った理由は 何のことはない興奮した彼女が僕の舌を思い切り噛みついたのだ。
何が起きたかわかると 僕はたまらなくなる。
「ううぅ……」
彼女が唇を離すとピンクの唾液が僕の唇の端からあごにつたう。
「痛い?」
僕は首を横に振る。今 痛みは本当にない。
彼女が僕の唇にそっとくちづけると薄いピンク色の唾液が また糸を引く。
「……痛くないの?」
手が使えない僕の唇に彼女が優しくタオルをあてる。真っ白なタオルがピンクに染まっていく。それを見て 射精したばかりのペニスが小さくピクついた。
まだ僕の奥の方が混線しているみたいだ。僕の体は一体どうなってしまったんだろう。
そんな事 どうでも良いと思った。
しばらくして
(あ 舌が痛いな……)
今は間違いなく痛い。普通に痛いことに気づく。
痛みは彼女がくれた愛の証。まだ僕の感情は混線したままだ。何が正しいのか
彼女が優しくしてくれるから 手はまだ縛ったままでも良い。
僕は彼女のためなら何でもする。そして何をされてもきっと大丈夫だ。
continue
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