4話: 革新的BOSS狩り

 

「――なぁジェル人間……俺と勝負しようじゃないか」


 へばりつけた嘲笑で煽りの言葉を接ぐ。

なるべく目の前のそれを煽る様に、馬鹿にするように。

 そして静かに目を閉じる。


――――さぁ食らいつけ、食らいつけ、食らいつけ喰らいつけ。


 これは勝率3割の賭けだ。

内容は至ってシンプルかつ単純明快、目の前のバケモンが勝負に乗るか、俺を喰うかである。


「まぁ勝率3割も俺の願いだったんだけど……」


 目を閉じて一秒、いや、既に数秒は経過しただろうか?

静かにまぶたを開く、そこには充血した目玉から大量の血が噴出しているバケモンの姿。

 激しく身を震わせ、充血した無数の目玉が全て己を見つめている。


――――その姿はまるで、激しく憤怒するかの様に


「で?お前は勝負に乗るって事でいいんだな?」


 したり顔で憤怒するジェル人間に問いかける。

 自らの血で真紅に染まったバケモンが頷くかの様に身を震わせる。


「そうか、勝負はシンプルに俺VSお前で死んだ方が負け。本番一本真剣勝負、ただし他の奴らに触れない。これでどうだ?」


 返答とばかりにジェル人間が己に溜まったドス黒い血色を吹き出す。 

 黒く染まりゆくコンクリートを見つめ一つ頷く。


「うし、決定だな。ま俺が勝つけどなw」


『星月夜と𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇による勝負が管理者により認められました。ルールに従い正々堂々とした勝負を行って下さい。』


 Search恩師と似て非なる声が耳に流れる。


「誰か知らんが、恐らくこれがSearch恩師が教えてくれた管理者のとやらの声か?」


 まぁ誰だっていい。勝負が認められたんだとしたら、実行すべき作戦は只一つ。

この対面で俺が勝つ方法はこれしかない。


「あばよ」


 そう、全速力でこのバケモンから逃げることである。


◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 この世には基本勝てない勝負というものが存在する。

所謂“負け戦”、己でどう足掻こうが喚こうが勝てない勝負。


 例えば、Lv1の勇者が一人で裏ボスに挑む様な。

 例えば、人類がAIに知識で勝負するような。

 例えば、俺が……ジェル人間に挑む様な。


 こんな無謀ともいえる場面が訪れた時。自分に何ができるのか?


結論なんて分かっている“俺は何もできない”

 俺には、ゲームのセンスも、AIに勝てる知識も、ジェル人間を倒すせる様な特殊能力も【𝖐𝖆𝖗𝖒𝖆】君やSearch恩師に頼れない現状、何も持ち合わせていない。よって俺は何もできない。

 話の本筋を戻そう。俺は何もできない、つまり勝負に敗北するのか?少なくとも俺はそう思わない。何事にも裏ワザや抜け道というものは存在する。


 例えば、チートやバグを利用してラスボスを倒すような。

 例えば、過去にジョン・フォン・ノイマンというIQお化けが存在した様な。

 例えば、俺以外がジェル人間を倒すような。


プライドを捨て、ルールの裏を搔き分け、倫理観をゴミ箱に放れば。勝ち筋は実は∞に存在する。


「別に俺は正々堂々なんていってないぜ」


市民から、警察から、消防士から、害虫駆除業者から、色々な有名人から、騒ぎを聞きつけた野次馬から石を投げられ、BB弾を撃ち込まれ、催涙ガスを打たれ、火を放たれ、滅多打ちのボコボコにされ弱り果てていくジェル人間を薄く笑いながら見つめる。


「あばよ、ジェル人間。もう会うことはねぇと思うけど。」


ジェル人間へ別れの口上を告げる。

 その刹那、全ての眼球が潰され、少しずつジェルが弾け飛ぶ様に体が飛散し、まるで塩を振りかけられた蛞蝓の如くジェル人間はコンクリートへと溶けていった。


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の絶命を確認しました。勝者である星月夜さんに2057の経験値が移行されます。少々お待ち下さい』

【 14:12 . 2023/ 09 /11】



◇  ◆  ◇  ◆  ◇



【 9:38 . 2023/ 09 /11】


「……はぁはぁ糞ッこんな事なら普段から運動しとくんだったな。」


 後方のジェル人間を確認して、軽く悪態。

まぁ、アイツの粘液には油断しなければもう二度と捕まらない筈、多分。


 勝負開始数秒後、俺は絡みつく粘液を靴を脱ぎ捨てる事で緊急回避し、靴下でコンクリートの地面を力の限り走った。

――だが俺は普段運動してないわけで


「――まぁ振りほどくことは出来なかったか。」


 思いのほか高速でジェル人間が移動して来る為、撒く事は出来なかった。

本当は今撒けるのが一番良かったんだが……まぁいい。


「トリマ、時間稼ぎtime。兎に角持ってくれよ俺の足。」


 俺の見立てだと後、数分か、数十分かで状況が変わるはず。それまで少なくとも捕まらなければALL OK、がんばれ俺。


「さ、休憩終了また走り出しますか。」


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



「さてと、情報に信憑性が出始めた頃か。」


―――――――――――

JAPANのトレンド 


1. 多谷選手 最高得点更新

 3,2421件のツッオット

2. SXGS 契約終了

 9087件のツッオット

3. 人参ケーキ屋 新設

7201件のツッオット

4. 東京近辺にジェル状の謎の生物

 5921件のツッオット

5. …………

 …………


 あなたのツッオット

(+_+)深淵を見てるとき深淵を見てる者


「緊急」東京○○市にて今ジェル状のバケモンに追われてる。

今全力ダッシュで逃げてる。俺を見かけた人は警察でも消防でも良いから連絡頼む。

バケモンは下記の写真の様な見た目をしてる。人を喰うのを見た。近づく際は十分気を付けてくれ。




#拡散希望  #ジェルバケモノ東京発生 #警察連絡  #消防連絡


12:22 . 2023/ 09 /11 .  2821万回表示

💬 32072 ♻ 37.1K ♡ 50.6K  TL 28210232


――――――――――――


 数時間後、俺が勝負数分後に投稿したツォットが指数関数的にインターネット上で拡散 していた。勢いは留まる気配がなく、現在進行形で加速し続けている。 

 ここまでとは思ってなかったが、当然といえば当然の話。


 なにせジェル人間は俺以外の人間にも目視できる為、俺が逃げてる間、誰かが必ずその姿を見つける筈。

 そしてその姿を見た人間が新たなツォットを投稿し、それを見た近辺の人が、俺を追いかけるジェル人間を発見し新たな投稿をする。


 その様なループが出来る事により情報が光の速さで伝達していた。

 現在では有名人等が俺のツォットを引用リツォットをしたおかげで更に爆速で情報が拡散している様だ。


「よし、想定より状況は良し、欲しい駒は揃ったな。」


 俺がどうしてもどうしても欲しかった駒、それは俺の出した情報を鵜呑みにする大衆、ジェル人間という異質な存在が真実であると人々へ刷り込めたからこそ出来る最後の一手。

―――――――――――――――


あなたのツッオット

(+_+)深淵を見てるとき深淵を見てる者


「緊急」皆拡散ありがとう

見てる人に依頼を要請する、あの化け物を倒してくれ。

攻撃方法は投石でも催涙弾でもBB弾でも何でもいい。報酬はあの化け物の死体を プレゼントする。偶然の産物で出来たバケモノだが数十億位の価値はあるだろう。

俺に力を貸してくれ、頼む。

  


#拡散希望  #ジェルバケモノ東京発生 #化け物討伐  #協力要請


10:22 . 2023/ 09 /11 .  606万回表示

💬 10921 ♻ 17.1K ♡ 28.6K  TL 60630032


――――――――――――


 所々含みを入れた嘘を混ぜた情報を投下する。

 一つ前の情報は既に世界トレンド4位という驚異的な数値を叩き出している為か更新するたびに数千の♡が増え続けている。


 さぁこの状況でこの情報を投下したらどうなると思う?

 

 情報が噓にせよ本当にせよ有名人達は絶対にこの流れに乗りたがるだろう?


 じゃあ例え一人でも有名人が乗っかったらそのファンはどうすると思う?


 簡単さ有名人を見るために群がるだろう?

 

 暴動が起こるかもしれない、そしたら警察はどうせざるを得ないと思う?




 いつの間にか、俺の周囲には途轍もない数の野次馬が並んでいた。

 そこには有名TicltoklerやInstrgyamerやの姿もちらほら。誰も彼もがあの不気味な化け物に目を奪われていた。


 その中でも一人の男の人が

 「あの化け物にパンチ一発で10000円ね、OK了解」と呟いてはジェル人間へと近づき思いっきりパンチをかましていた。恐らくLive配信という奴だろうが。


 またそれに呼応する様にジェル人間の撮影を始めてはジェル人間に軽く触れたりする人や、笑いながら投石をする人などがチラホラ出始めた。


 そうして人々にとって一つの流れが出来ていた。

“ジェル人間を野次馬のおもちゃにする”という俺の求めていた流れが。


 さて、一旦ルールの話に戻ろう。俺はルールをどう設定したと思う?

俺が決めたルールはこうだ。

「俺VSお前死んだ方が負け。本番一本真剣勝負、ただし他の奴らに触れないこと」

さりげなく付けた“他の奴らに触れない”これは二つの意味が実はあった。


 一つ、俺以外の人間に手を出さない様にする事。

 二つ、俺以外の人間が手を出す事を想定していたから。


さぁ一人の男が“拳”でジェル人間に“触れた”どうなると思う?


 それは俺が一度味わった事があるもの。ショタ君との勝負で苦汁を飲まされた

果てしない激痛を伴うもの。その名を“ルール違反”。


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部302を移行します。』


 その刹那、後方でジェル人間から鈍い音。何かが捻じれて千切れていくような嫌な音。眺めると目玉が一つ有り得ない方向へと捻じれていた。そしてその目玉は更に更に捻られ、ぐちゅという嫌な音共にドス黒い血塊となってジェルへと溶けてった。


 その光景を俺はいつの間にか限界まで口

角を吊り上げて眺めていた。

何故だと思う?


 簡単な事。ルールは永続、即ち“ジェル人間は俺以外の奴に触れる度に”

「違反行為判定されるっつー事だよなぁ!」


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部287を移行します。』


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部256を移行します。』


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部213を移行します。』


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部231を移行します。』


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部198を移行します。』


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の違反行為を管理者が発見しました。星月夜に経験値の一部197を移行します。』


『……………………』


さて、盤上は揃った。ジェル人間を囲む大量の野次馬、動画を取りながらジェル人間に触れてはダメージを与える配信者達。そして、経験値を搾取できるこの状況。


 ふと見ると眼前のバケモン即ちジェル人間は憤怒に満ちた形相で只俺を見つめていた。

“何故、正々堂々と戦無いのかと”

 

真っ当な怒りだと思う。俺も同じ状況だったらブち切れて罵詈雑言の限りを相手に送ると思う。あまり気付かなかったがジェル人間はもしかしたら気高い生物なのかもしれない


――だがな


「お前が相手したのは“人間様”なんだよ。地球上最も姑息でズル賢くて、食物連鎖の頂点に立つ酷い生物、それが俺達。殺し合いをし、戦争をし、地球上の生物を最も殺す最悪の生物。お前はそんな生物を相手にしたのさ」


 俺はその気高さに唾を吐いてやる。俺には何にもプライドのない糞ニート。それ以上でもそれ以下でもない。


「俺は勝てばいいんだ、それがどんな方法だったとしてもな」


 それがチートであったとしても、合法ならそれは一つの策略であるのだ。

 

「孤独で愚かな王様は、いつだって国民に革命され潰えていく歴史なんだよ。そこにルールも糞もないがなw――まぁお前と勝負出来て楽しかったよ。じゃあな」


 もう既に事切れかけそうなジェル人間へ今日の思いを語る。

まあ貴重な経験が出来て、今日は人生でも数えるくらいのいい日になった、その感謝を告げ、最後に別れの言葉を告げる。


その言葉は王を殺すとっておきの言葉


「王手」


 その刹那、全ての眼球が潰されたジェル人間は少しずつジェルが弾け飛ぶ様に体が飛散し、まるで塩を振りかけられた蛞蝓の如くジェル人間はコンクリートへと溶けていった。


『𝒯𝒽𝑒 ℒ𝓁𝒶𝓂𝒽𝒾𝑔𝓎𝓃 𝒴 𝒟𝓌𝓇の絶命を確認しました。勝者である星月夜さんに2057の経験値が移行されます。少々お待ち下さい』


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