えぴそーど③ すいせいのししゃ
『佐藤 誠人 へと216の経験値が移行されます少しお待ちください』
「え?」
脳に響く様に流れる感情のないSearch恩師の声。
刹那全身を引き裂かれる様な痛みが全身のありとあらゆる箇所を襲う。
「……ぅぅう……ぅぅう」
下腹部から上流してくる酸の激流を必死に口に両手を添えて抑え、痛みに身を任せのたうち回りまくる。
――痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い
助けを呼ぼうにも今発声をしたらこのキラキラを床に吐瀉してしまいそうだ。眼前ではショタ君が異変に気付いたのか、心配そうに見つめてくれてる。
――はぁはぁさっきは御免な。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「むぅぅうむぅうx」
迷惑かけるわけにはいかないと思い必死に大丈夫と声でない声で叫ぶ。伝わったかは分からないが。
「終点~終点~……」
「お兄ちゃーん!!!」
ちょうど車両が終点に着いたのか渋い声のアナウンスが流れているのを聞き取った俺は、人生で一番力を振り絞ってダッシュ。目的地はトイレ。只その一つ。
階段を駆け抜け、人ごみを掻き分け、男子トイレの標識が目に映る。ダッシュでトイレに向かうおっさんを抜かし、トイレの洗面所みたいな所で
「ぼべぇぇぇえxxぐばぁあっぁxxうぇえええ」
思いっきり吐瀉を行った。何かが力づくで引き抜かれる感覚に従い吐瀉を思うままに吐き出していく。数分、いや時間にしては数秒だったかもしれない。
『経験値の移行が完了しました。』
Search恩師の感情のない言葉とともに、吐き気と痛みが安らいでいく。
「はぁはぁ、糞、このステータス罰ゲーム的なやつもあんのかよ。てかなんなんだよ、はぁ違反行為ってはよ。はぁ、はぁ。」
深く酸素を吸い込んで深呼吸をゆっくりする。喉が少し酸でヒリヒリする上、少しの倦怠感。まぁ少なくとも先ほどの全身を蝕む激痛と吐き気に比べればマシなものではあるが。
「取りあえず、生還。死んではないし外傷も見当たらないと、酷い目にあったな。」
ショタに飴を渡すだけで全身に激痛が走るなんて全く酷い話である。
そもそも違反行為なんて知らないのにと不満を垂れてもよいものだろう。まぁ自分も聞いてなかったと言われればそれまでなのかもしれないが。
「とるあえずの所、Search恩師、今の激痛の要因と違反行為について聞こうか」
明らかにSearch恩師が発声してから激痛が発現した為、少しぶっきらぼうに聞いてしまうのは仕方がないことだろう。
『了解です。まず激痛の行為ですが、夜さんが違反行為を行ったため、経験値を対象
佐藤 誠人 へと移行する際に後付けで付けられたものです。通常は発生しません。また、今回における違反行為とは、賭け事の対象である飴を勝利したにも関わらず、それを渡したことです。よって夜さんは佐藤 誠人へ負けたと判定され、経験値が奪われたうえに、違反行為による激痛を受けた訳です。』
「ふーん成程ね、違反行為ね、んじゃSearch恩師、勝負における違反行為すべて教えてよ。」
正直、これから楽しみだったLV上げを違反行為とやらで制限されてしまっては溜まったものではないので、再度Search恩師にぶっきらぼうに尋ねる。
『申し訳ございません。勝負における規定を
「げーむますたー……ね、じゃあそのゲームマスター君は誰なの?」
『申し訳ございません。
「違反行為違反行為って……もういいや」
聞きたい情報が聞けなそうなので、問い詰めを諦める。
「はぁ最悪だ。違反行為とやらが怖くて勝負したくねぇ。」
――いっそ違反行為を気にせずレベル上げするか?
「ハハハ……無理だ、吐きたくねぇし」
ヤベェテンションガタ落ちだ、レベル上げとやらを楽しみたかったんだが……
まぁ取り合えず、明日にはカルマ君も復活するしそっちでも考えてみる……か?
『警告、警告、警告、前方7mに未確認生命体を発見、警戒度 7、データを分析します。』
《 𝕦𝕟
学名: jelly? slime man ? (――――/――――)
個体名: ―――― (――――/――――)
生息地: 彗星 (1 / 8)
母語: ――― ( ? /3)
公用語: ――― ( ?/ 6)
筋力: ―――― (――――/――――)
瞬発力: 2km/h (――――/――――)
耐久性: 9.2134(――――/――――)
応用脳: IQ49 (――――/――――)
𝙇𝙚𝙫𝙚𝙡: 7 (――――/――――)
𝓼𝓴𝓲𝓵𝓵: 『融解』『蒸発』『凝固』『昇華』 『凝華』『発火』『耐火性』
𝓼𝓹𝓮𝓬𝓲𝓪𝓵 : ――――
――――――――――――――――――――
『一部エラーにより、分析失敗、警戒を行ってください。』
「――うおっ、……よし」
突然、脳に響き渡るエコーに体が思わず仰け反るのを気合で戻し、警戒注意の前方に体全体で視線を向ける。
「……うわっなんかいる。」
視線に映るは、不気味な液体とでも表現すべきか。推定3mの巨大なジェル人間が動いていた。ただし通常の人間と違ってジェルの中に無数の充血した目玉がギョロギョロと動いている。
「マジ気持ち悪、ってかアイツ何なんだよ……」
正体が何にせよ、あのおぞましい怪物が何かヤバい奴であるという事だけは流石の俺でも分かる。
「きゃぁあああああああああああああ!!!!」
突然の悲鳴に、思わず耳を両手で塞ぎ後ろを振り返ると。
中学生くらいの女子が目を限界まで開き、口をパクパクとさせ過呼吸気味の状態でコンクリートの硬い地面で腰を抜かしたのか、体が硬直していた。
――このバケモンは俺以外にも見えるのか?
あのジェル人間は、突然と姿を現し、後ろのJCにも見えている。その上さっきのSearch恩師の言葉に少し引っ掛かる事があった。
「Search恩師、2つ聞きたい。まずアイツは何なんだ?あと、生息地:彗星ってどういう意味だ?」
生息地:彗星(1/8)もし、俺の仮定が正しいとかなり恐ろしい未来になる可能性がある。そう、それは……
『イジョウハッセイ、イジョウハッセイ、こtaaaaえsいます。あrえあ彗星でmいられるu種族:彗星の死者dえある可あnおう性が極mうぇて高いでう。…………機能低下
プログラムダウン、緊急メンテナンスモードに入ります。』
「おい、おい!噓だろ……」
window画面がブツッという音と共にブラックアウトする。何度擦ったり叩いたりしても依然として画面は黒いまま……Search恩師に頼れないうえ
「助けて、お願いたずげで!だれがぁあっぁぁぁx」
「…………え」
ついさっきまで腰を抜かしていたJCがバケモンが辺り一帯に飛ばした粘液によって絡め取られ、バケモンがその粘液を己に逆流させてその少女をジェル状の体へと引きずり込むようにし……そして捕食した。
ジェルの中ではJCがトマトが潰されるかの如く、圧縮され捩じられ、千切られ、見るも無惨な姿へと変わり果てていった。
「ヒッ、ヒィッ、ヒぃいぃぃぃっぃ!」
――自分は只浮かれてただけなのかもしれない。
非日常に興奮し、今まで無かった未体験に胸を躍らせて、誤解してたのだろうか。
人の死を目の当たりにして吉夢が悪夢の始まりであったのだと漸く自覚する。
足は竦み、腕はか細く震え、体のバランスが今にも崩れそうだ。
――恐い、恐い、恐い、恐い恐い恐い
ジェル人間が粘液を辺りへと飛ばす。そしてその粘液は俺の靴裏にへばり付くかの如く粘着し、俺の全身がコンクリートの地面で引きずられながらジェル人間の方へと吸い寄せられる。
「あぁあぁ助けてたずげでxx」
ジェル人間の腹部のジェルが人間の口腔に酷似した形に変形し、捕食体系へと姿を変え、俺を食べる準備を終える。
――終わりか
思考が終わりの黒へと埋まっていく。多分これは悪夢なのだろう、大丈夫、また自分の部屋で明日目覚めるさ。
――本当に終わりでいいの?
そう悪夢は終わり、また素晴らしい明日がやってくる。
――嘘をつくな
嘘なんてついてないさ、この悪夢だって明日になれば笑い話にでもなるさ。ていうかお前は誰なんだよ。
――俺はお前だよ。噓をつくな
だから、噓なんかついてないって。
――噓をつくな
だから、噓なんて……
――噓をつくな
ごめん……嘘をついた、俺本当は。
「死にたぐなぁっぁぁぁぁぁい!!!!!!!」
全力の咆哮、力限りの今後全人生においてこれに勝る大声は一生ないだろう。
一瞬、バケモンが今の咆哮で硬直したのか、体を引っ張る力が弱まる。
――たかが一瞬、されど一瞬
光の如きの速さであのバケモンに勝つ道筋を、その未来を組み立てる。完璧に近いような絶対に負けることのない理論を一瞬で今までゲームで培った脳みそで、廃人の脳みそを全力で回転させて。
――完了、勝率 3割、まぁ上出来だろう。
チャンスは一回、残り数秒。
条件一つ、渾身の煽り顔でバケモンを挑発する様に仕掛ける事。
「すぅぅぅはぁぁぁ――なぁジェル人間……俺と勝負しようじゃないか」
さて、BOSS狩りを始めるか。
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