𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮Ⅱ  {𝓼𝓾𝓹𝓮𝓻 𝓤𝓷𝓛𝓮𝓿𝓮𝓵𝓲𝓷𝓰 𝓽𝓲𝓶𝓮}



「カルマ君マジパネェなあ……」


 閑散とした電車で思わず言葉が漏れる。


 偉大なるお母さまにお呼びされ、朝の食卓の席に着くと、用意された品目はなんと唐揚げやステーキ、ハンバーグといった俺がほぼお目に掛かった事の無い肉料理の数々。更には、魚の煮付けや味噌煮などの魚料理に、いつもの謎の液体に、ぴかぴかの白米と正に絶品ともいえる料理であったのである。


――俺の弟と妹達よ、いつもこんな豪華なもん食ってたのか……

 まぁそれはしょうがない。気にするだけ無駄だ。うん……。

 

それにしても

「いやーマジで便利な能力を手に入れてしまったぜ。」


 【𝖐𝖆𝖗𝖒𝖆】の能力のヤバさを痛感する。

 “他人の行動を強制する。”これだけでも滅茶苦茶強い能力であるが

Search恩師に教えてもらった“他者と他者を繋ぐ能力”が気になるな。



「Search恩師、【𝖐𝖆𝖗𝖒𝖆】の能力について教えて頂けないでしょうか?」


 偉大なる先生、Searc恩師に尋ねてみる。もちろん誠心誠意の純真無垢な真心を込め最大の敬意を払って。




『了解致しました。夜さんの𝓼𝓹𝓮𝓬𝓲𝓪𝓵 𝓼𝓴𝓲𝓵𝓵:【𝖐𝖆𝖗𝖒𝖆】についての詳細情報をお伝えします。』


『まず、【𝖐𝖆𝖗𝖒𝖆】は自分もしくは他人に自由に発動できる任意型スキルです。誤作動で発動したりはしないので安心してください。』


『スキル効果は[1.運命の因果律の変更]、[2.天命の変更]、[3.宿縁の付与]のいずれかを主に行えます。また、これらの解説を行っていきます。』


『〔1.運命の因果律の変更〕とは、夜さんまた他者が一時間以内に可能であった行動に世界を書き換えるというものです。』


『〔2.天命の変更〕とは、他者のみに発動でき、対象が未来一時間までに可能な行動を強制させるというものです。』


『〔3.宿縁の付与〕とは、夜さんと他の生物、また他の生物同士を“赤い糸”で結ぶというものです。補足として両者が合意しない限り、赤い糸で生物を結ぶことは出来ません。』


『“赤い糸”で結ばれたもの同士は、互いのステータスやスキルや経験値を共有したり、互いを害することが出来なくなるなどのメリットがあります。逆にどちらかが絶命すると片方も絶命するデメリットも存在する為、ご使用する際は十分ご注意下さい。』


『以上です。』

 

「ナルホドナルホド、はあどうもありがとうございます。」


 相も変わらず懇切丁寧な説明にSearch恩師には一層頭が上がらない。

――つまるところ

 

「カルマ君で出来るのは、下位互換版ドル衛門ド〇えもんのも○もBOXと赤い糸で生物を結ぶってことか、滅茶苦茶便利そうな能力だな。」


 思わずデカい声が出て、隣に座るおばさんに強く舌打ちされる。

“酷くね”と喉から思わず零しそうになるがなんとか言葉を飲み込み自制。

 爆上がりしたテンションが少しブルーになったがまぁいい。


――早速の所使ってみよう。

 と言いたい所であるが、Myステータスディスプレイのカルマ君の欄には22:47:31とある。使用前が24:00であった事から、日に一回という事なのだろう。

 

「流石に1日1回制限ありか。まぁ無制限に使えたら強すぎるわな。はぁ。」


 不満を垂れ垂れの未練たらたらだが、嘆いても仕方があるまい。大切なのは現在、つまりNowである。意識を変えていこう。

 てことで俺のディスプレイで気になっていた一文を見つめる。


「𝓝𝓮𝔁𝓽𝓛𝓮𝓿𝓮𝓵 : 2892の経験値が不足しています、か。RPGとかじゃレベルってありきたりな気もするが、この日本で俺は何を倒せばいいんだ?」


 そうなのである。


 昨日まで追尾するディスプレイなんて俺には見えなかったわけで経験値という存在というか、そもそも自分のステータスをまさか可視化するなんて夢にも思っていない訳である。そんなさなか次のレベルと言われてもという話である。


「当たり前だが、別にモンスターがうようよしてるわけでもなく、悪の組織が日本を占拠したなんて大事件もなし、人殴ったり、犬蹴ったりしろってことか?」


 幾つか立案の末、すぐにそれはないなと否定する。そもそも星月 夜という存在に人を殴ったり犬を蹴るなんて試す勇気もないし、絶対にそんなことしたくない。


「てかそもそも他のやつらはこのディスプレイ見えてるのか?」


 閑散とした電車で視線を張り巡らしてみる。寝てる学生、スマホをスクロールしてる社会人に、音楽を聴いているおじさん、不機嫌なおばさんと怪しげにディスプレイを見てる人間なんていなそうだ。


「んじゃこれは俺の固有スキル的なやつなのか?」


 結局の所、俺は高校退学の糞ニート、脳を振り絞るだけ無駄だろう。


て事で。

「Search尊師、レベルはどうやって上げるんですか?また、このディスプレイは他人に見えてるのでしょうか?ご教授のほど、よろしくお願い致します。」

 

 困ったときっはSearch尊師、昔の人が言ってた偉い言葉にある様に、Search恩師に助けを求めるこれがベストである。


『質問にお答えします。』


『まずレベルとは他社との勝負において奪い合う与奪制度のものとなっております。具体的には、殴り合いの喧嘩、賭け事、知能戦、戦争等です。』


『また、勝負における勝者は敗者の内在する経験値強奪する事が出来ます。』


『また、経験値が一定値に達するとレベルアップという現象が起こり、全身が全く新たな構造へと作り変えられます。その際に表たな能力の獲得や、現在もつ能力の進化が稀に行われます。これが“レベル上げ”についての解説です。』


『次にディスプレイについて回答致します。』


『結論からいうと、“現在”は夜さん以外の全ての人類には見えておりません。

しかしいつ彼らに発現するかは分からない以上、早めにレベルを上げておくことを強く推奨します。以上です。』


「成程、レベルは与奪制で他者から奪う事で手に入る。+他人にディスプレイが見えてない現在がレベリングチャンスであるって事ね。」


 ちょっと試してみたいことが出来た。


「こんにちは、僕、実は飴が余ってるんだけど欲しい?」

「ホント!お兄ちゃんありがとう!」


 被検体は舌打ちおばさんの反対側、つまり俺の右にちょこんと座っているショタ、貴様だ。ショタを使って実験を幾つかしてみよう。


「だけどお兄ちゃんも飴が食べたいな~(棒)、よしお兄ちゃんとじゃんけんして勝ったら君にこのピーチ飴をプレゼントだ!」

「わかった僕!絶対負けないよ!」

 

 ショタ君のキラキラした純な瞳を俺の汚れた瞳で見つめ返す。俺の小賢しさをこの世間を知らぬガキに叩き込んでやる。


「「最初はグーじゃんけんポン」」

「あっ……」


 俺の秘儀、最初の方ずっとグーでギリッギリでチョキに変えるが炸裂して、ショタのパーを粉砕する。ズルい?知らんな。


『学名: 𝓗𝓸𝓶𝓸 𝓼𝓪𝓹𝓲𝓮𝓷𝓼(3,378,471,241/3,378,471,241)

個体名: 佐藤 誠人 (1023/3,378,471,241)

より経験値108を搾取しました』


 やったぜ!経験値だ、なるほどこうやってゲットしてく訳か。

てか搾取とは何とも人聞きの悪いものである。正当な権利で取ったものであるというのに。


「うぅ……お兄ちゃんひどいよ……ズルい。」


 齢5歳くらいのショタの澄んだ瞳に大粒の涙が溜まり始める。そしてその涙はツーと流れ始めた。


「――待って待ってごめんこれはお兄ちゃんが悪かったな、うん、この飴ともう一つ飴上げるからお兄ちゃんを許してくれ。」

「……うん」


 飴をショタに二つ渡して、大急ぎで何度も謝る。流石にやり過ぎたようだ。結構良心が痛い。この経験値稼ぎはあんま良くないかもしれない。うん。

 ショタ君は飴を舐めてだんだん頬が緩んできたようでなによりだ。


『学名: 𝓗𝓸𝓶𝓸 𝓼𝓪𝓹𝓲𝓮𝓷𝓼(3,378,471,241/3,378,471,241)

個体名: 星月 夜 (1023/3,378,471,241)

による違反行為が確認されました

 学名: 𝓗𝓸𝓶𝓸 𝓼𝓪𝓹𝓲𝓮𝓷𝓼(3,378,471,241/3,378,471,241)

個体名: 佐藤 誠人 (1023/3,378,471,241)

へと216の経験値が移行されます少しお待ちください』


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