第7話 チーム全員集合!
日も落ち、辺りが暗くなった泉の周辺に何人かの人影があった。ここは人が住んでいないところなので閑散としている。
風が少し吹いており、夜は少しひんやりとする。この場に、白色のにっこり顔の仮面を被ったいかにもリーダーっぽい人と制服みたいであろうものを着ている人が数名、そして1人格好が集団にそぐわない人物がいる。
「ここら辺に水のオーブがあるはずだ、違和感があったり中に洞窟の入り口みたいなところがあったら言え!」
素顔を隠した、仮面をつけている男が辺りをスマホのライトで照らして言う。
『へい!』
この集団の人たちが声を上げる。了解の返事のようだ。
「リーダー!あちらの方で怪しげな扉を見つけました!」
探索開始後しばらくして集団のうちの1人がリーダーに報告をする。
「よし、そこへ連れてけ」
「へい!」
「開くのか?」
言われた場所にたどり着いたリーダーが口を開く。
周囲が苔に覆われていて、錆びた南京錠がかかっているドア。誰かがここに訪れた形跡は1つもない。まあ誰もこんな僻地には来ないだろう。
「南京錠がかかっていて開かないです……」
「そうか、お前らそこをどけ」
リーダーはそう言うと右手を前に差し出して錆びた南京錠に向けて念波を送った。
すると、南京錠が見事に折れたのであった。
「よし、これで開くか?」
「あ、開きました!」
「中に入るぞ」
リーダーが声をかけると部下たちを連れて開かれた扉の中に入っていった。
中に入ると、1つの大きな部屋の真ん中にオーブが祀られていた。そのオーブの奥で水が流れ出ていて、この静かな部屋の中で水の流れる音や、水滴が地面を叩く音がこだまする。
「こ、これがオーブってやつか?しかし一体昔にこんな空間を作ることができるとは、神様の力は恐ろしいもんだな」
リーダーがとても神聖感の漂うこの空間に心を奪われている。
「おいムスカリ!このオーブでいいんだな!」
リーダーは隣にいた緑色のパーカーのフードで頭を覆い、マスクをつけてポケットに手を突っ込んでいる少年に言った。そして少年はオーブの下に歩き出してオーブを手に取り、リーダーに向かって返事をした。
「うん、これで1つ目」
ムスカリと呼ばれる少年はマスクの下で静かに微笑んだ。
♢♢♢♢♢
翌日。
ミーティング前に、エントランスに各チームで集まることになった。俺からしたらモモ以外に顔を合わせるのは初めてだ。どんな子たちと一緒になるのだろうか。ここに入隊するからにはやはりたくましい子が多いのか、可愛らしい子なのか、癒しを与えてくれる子なのか。とりあえず、うるさくて自分を見てくれというタイプの人だけは勘弁だ。ただでさえそこに1枠使ってしまったんだ。これ以上増えたらたまったもんじゃない。そんな期待を膨らませながら俺はエントランスに到着し、ちょっとドキドキしながらとりあえずあの金髪野郎を探す。
……あれいないぞ。
あの自己主張の塊みたいなやつが周囲を見渡しても見つからない。まさか寝坊したのか?
じゃあまあ集まれていなさそうな女子たちに声をかけていってみるとしようか――と考えていると、
「カーミーセィ!おっっはよおおう!」
後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返ると、額の少し上に赤い蝶のリボンをつけた金髪ショートカットの女子が走ってこちらに向かって来ていた。目立つから本当にやめてほしい。朝から元気すぎるだろ。いつかこいつがめちゃくちゃ疲れて弱音を吐いているところを見てみたい。そんなことを思いながら、
「おはよう、もう少し声のデシベル下げようね」
と返した。
「これが私なの!元気のない私は私じゃない!」
こいつのこの元気の源を今度調査してみよう。
そして俺はモモの背後についてきた一人の女子に気づく。なんか見たことあるなと感じたが、昨日ユウヤとこの建物の探検をする前、モモと出会った時にモモと一緒にいた人だ。
「後ろの子は昨日モモといた子だよな」
俺はモモに聞く。するとモモは、
「そうだよ、紹介するね。この子はリリア!昨日一緒のチームってことがわかって仲良くなったんだー」
と後ろの女子に手を向けて俺に向かって話す。
「私はリリア、よろしく」
お、うるさくない!でも少しこの話し方といい、腕を組んだ姿勢といい、なんかプライドの高そうな女だ。
「あえっと、俺はカミセです、よろしく」
そう言って俺はリリアに向かって握手を求める。するとこの茶髪を後ろで結んでいる女子は、
「別にあんたと仲良くする気なんてないから」
と言って握手には応じなかった。
え?この時点で俺の頭の中はこの言葉で満たされていた。「問題児2人目」。この貧乳女め。ぜってえどっかで泣かしてやる。今心の中で泣いているのは俺の方だが。でもまだあと2人残っているから。そう自分に言い聞かせなんとかこの場をやり過ごす。
「あはは、まあ一緒のチームなんだし仲良くしていこうよ」
言葉が出ない俺をモモが気遣ってくれる。こういうところはこいつのいいところだ。
「カミセは私のことを無視したりするけど……」
いややっぱり却下だ却下!余計な一言が多いんだよ!
「ふーん、モモを困らせるようなことをしたら私が許さないから」
リリアが俺を睨みつけながら言う。はあ怖え。なんか同じチーム内に敵がいる気がするんですけど。
「はいわかりました、ところでリリアは…」
「私の名前を容易く呼ばないでくれる?」
俺が喋ろうとしてリリアの名前を出したら、リリアが話を遮ってきた。
「え?」
「えぇと、多分「リリア」じゃなくて、「リリ」って呼んでほしいってことじゃないかな」
俺が戸惑っているとモモがこのように言ってきた。一応言っておく。モモは真剣に言っている。
何を持って今の流れからそう感じたのだろう。リリアの性格を考えて単純にお前みたいなやつが私の名前を勝手に呼ぶな的な、見下しているというか、少し軽蔑心を含めて言ったに違いないだろう。
「そうよ、昔から「リリア」って呼ばれるのを好まないの、だから「リリ」って呼びなさい」
「ええ?」
俺はまた言葉を失ってしまった。この人はなんなんだろう。でもとりあえず関わりづらいということはこの短時間で把握できたことだ。
「あ、カミセ?実は昨日、私新隊員の女子全員に声をかけたけど、私たちと一緒のチームの人が見当たらなかったの。だから後の二人は多分先輩なんじゃないかなって思う」
このコミュニケーションお化けの行動力はすごいな。リリアの対応に呆然としていてあまりリアクションはできなかったが。
「そうね、昨日新隊員の中で探そうてなったけど見つからなかったわ、本当よ?」
リリアが追加して言う。
大丈夫です、疑ったりしていないです。モモだったら普通にあり得る話なので。もうなんか俺はリリアに恐怖心を抱いてしまっている気がする。
「そうなのか、まあ大変なことになって来ているみたいだし経験値のある先輩がいてくれた方が心強いな」
なんか訓練がどうとか、悪党集団がどうとかをアカマツさんが言っていたので、魔術を使える人が現段階でいてくれるだけでも非常に助かる。戦闘力に大きく差が出るし。
「あなたがカミセくんですか?」
どんな先輩が来るのかなと考えていると急に誰かから声をかけられた。声のした方を振り向くと、カチューシャをつけた豊満な胸の山あたりまで長さがある赤髪の女の子と、右目が髪で隠れたモモより少し長いくらいの青髪の女の子がいた。
「あ、はいそうですけど……」
「私はココナって言います!よろしくお願いします!ココって呼んでくださいね!
でこちらの子はナナミって言います!ナナって呼んであげてくださいね!」
「ナナミです、よろしく…」
「よろしくお願いします!ところで俺のこと知ってたんですか、さっき俺の名前を言ってましたけど…」
「あの金髪の女の子が大声であなたの名前を言っていたのでわかりましたよ!チームの人の名前は昨日知らされてますしね」
「ああ私のおかげですか!お役に立ててよかったです!私モモカって言います!モモって呼んでください!ココさん、ナナさんよろしくお願いします!」
「モモちゃんって言うのね、よろしくお願いしますね!」
恥じらいを知れ!とモモに怒鳴りたくなるところだったが、ココさんの美しい身体と包み込まれるような温かさのおかげで静まった。どうかココさんには欠点がないようにお願いします。ナナさんはなんかミステリアスだし無口だしよくわかりません。
その後リリが自己紹介をした。
「これで5人揃いましたね!今日から私たち5人は1つのチームです!チームピーチズ一同これから頑張っていこうね!」
「はい!」
モモが謎に仕切り出したものにココさんだけが反応をした。ココさん本当に優しすぎるなあ。
「おい勝手にくそダセえチーム名つけんな」
一応チームピーチズには触れておこう。
「ダサくなんかないよ!そんなこと言うならカミセがなんかチーム名考えてよ!」
「え?俺が?」
そもそもチーム名なんて必要なのか?
「えっと……ファイヤーブラザーズ、いやシスターズの方がいいか、ええとダークペンギンズ、、、」
ああダメだ。俺には死ぬほどチーム名を考えるセンスがなかった。人のこと言えねえ。
「何それ、カミセの方がダサいじゃん」
モモが笑いながら俺をバカにしてくる。だが俺にも反論の余地はない。
「じゃあ私の考えたピーチズでいい?リリとかはどう?」
「私はなんでもいいわ、でもその男が考えたダサダサネームは受け入れないけど」
「くそっ」
「まあまあ言い合いはやめましょう?チームなんですから」
ココさんが俺たちを丸く収めようとしてくれる。あああったかいなあ。
「とりあえず、これから5人で頑張っていきましょうね!」
『おおっ!』
ココさんの声かけに、ほとんどがモモの声だったがみんな反応する。
「それではみなさん時間となりましたのでミーティングの方をしていきましょうか」
アカマツさんがエントランスのみんなに聞こえるように言う。
それを聞いてエントランスにいた隊員はみんな講堂に向かった。
ラヴァブル・バンディット @Kanashitas
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