第6話 魔術
俺たちは男女別で寮の巡回を終え、再びエントランスに集合した。
「お、カミセやっほー」
モモだ。横にはモモと友達になったのであろうと思われる1人がいる。さすがのコミュニケーション力だ。
「友達?」
俺はモモに聞く。
「うんまーね、私のことだからすぐに友達なんてできるよ、カミセの隣の子も友達?」
モモはドヤ顔をしてその後ユウヤの方を見て聞いてきた。
「うん!ユウヤっていうんだ」
「あっユウヤっていいます、よろしく」
「うんよろしく!」
モモは手を差し伸べる。また握手の手を大きく振っている。
「はは、元気がいいな……」
ユウヤが俺にしか聞こえないくらいの声で呟く。うんわかるよ、こいつと話すのは疲れるわ。
「はい、それでは今日の日程は全て終了です、ここからは自由に散策したりしてください」
アカマツさんが言う。
それに応じて新隊員はバラバラになっていく。
「よっしゃユウヤ、探検行こうぜ!」
ユウヤに声をかける。
「うん!」
とりあえず俺たちは荷物を置くために、自分達の部屋に向かった。
「あ、あっちゃーそっちは入れないなー」
モモが俺たちに声かけようとしたが、こう呟いてやめた。
「私たちも部屋行こっか」
モモが友達に声をかける。そうして女子寮へと入っていった。
♢♢♢♢♢
「わーみんな体動かしたくて仕方ないのかな」
俺とユウヤは1階エントランス奥のスポーツできる部屋、通称スポッシュに行くと隊員たちがそれぞれの場所でいろんなスポーツをしていた。ちなみになぜスポッシュと呼ばれているかは知らない。
「サッカーとかもいいけど、やっぱり気になるのはあそこかな」
ユウヤがそう言った。
「うわーすっげー!」
パルクールの広場に行くと、数人が中で訓練らしきことをしていた。多分自由時間のはずなので自主的に行っているのだろう。
俺たちはこのサンスベリアに入るために、一定以上の身体能力を兼ね備えているはずだが、これを生で見てしまったらまだまだ未熟だと実感させられてしまう。どうやら俺たちが知っているものとは次元の違う鬼ごっこをしているようだ。飛んだり、壁をうまく使ったり、今の俺たちには到底できっこない。
「俺たちもあれくらいできるようにならないと」
ユウヤはフェンスを掴み、目の前の鬼ごっこに対して釘付けになっている。
「『ストップ・モーション!』」
鬼と思われる人が右手を前に出してそう言うと、追いかけられている人の動きがピタッと止まった。そして鬼は難なくその人を捕まえた。
『えぇっ!』
その光景を目の当たりにした俺とユウヤは思わず声を合わせて驚く。
「おいカイト、それを鬼ごっこで使うのは禁止だろ」
逃げていた人が言う。どうやら鬼の人はカイトと言うらしい。
「お前が避けたり、魔力を使って逃れたら良い話じゃないのか」
カイトという人が言う。
「いや逃れられねえから言ってんだよ!」
「あはは、わりいわりい」
「くそやりやがって」
逃げていた人はイライラしながらも少し笑っている。仲が良いのだろう。
すると隣にいたユウヤがフェンス越しで声を上げた。
「え、えっと、今のが魔術ってものですか?」
するとカイトさんと、もう1人がこちらを向く。
「うん?新入りか?」
カイトさんが言う。
「お、マジで?」
「混じりたいんか?」
他の逃げていた先輩方も寄って来て、正直内心少しビビってる。それでもユウヤは、
「えっと、今日から入りました新隊員のユウヤです!よろしくお願いいたします!今の『ストップ・モーション』というのが魔術ってやつですよね?」」
と挨拶をし、目の前で見た先ほどの不思議な光景について再び質問をする。すごいなやっぱりユウヤは。俺も隊員なんだからしっかり勇気を持たないと。
「おお若々しいな、2年前を思い出すな」
いやあんたらも言うて若いでしょ。2年前を思い出すということは俺たちの2つ上に当たるということか。
「そうだな、さっき俺がやったのが『ストップ・モーション』と言って、相手の動きを一時的に止めるという魔術の1つだ」
カイトさんが続けて言った。相手の動きを一時的に止めるって、どんだけチートな魔術なんだ。
「ええやっぱりそうなんですね!先輩方もここで訓練していろいろ魔術を学ばれて行ったのですか?」
ユウヤの目がキラキラしている。そのままフェンスを破ってしまいそうだ。
「うんまあそんなところだね、入れたと思ったら急に代表から魔術の話を聞かされて、訳分からんよなっ、でも大丈夫、ここで過ごしていくうちにスキルを獲得していくことができるから」
カイトさん絶対頼りになる先輩だ!良い先輩にこんな早いうちに出会えてラッキーだ!
「よし、ラッタンさっき捕まえたから俺に300ディバな!」
カイトさんが先ほど捕まえた人に言う。
あれ、もしかしてやばい人?普通に賭けをしてるのにあんなずるい技使うの?え、めっちゃせこくない?弱いものいじめで金巻き上げたりしてるのか?ちなみに「ディバ」というのはこの国の通貨単位である。
「お前、『ストップ・モーション』使ってお金はないだろ!後輩も見てる前で恥ずかしいぞ!」
めちゃくちゃ思っていた正論をラッタンさんは言う。
「まあでもこれをやる前に約束しちゃったから、、仕方ないよね、」
「仕方なくない!」
なんかさっきまでカイトさんがめっちゃかっこよく見えていたになんでだろう、今は全く見えない、というかもはや卑怯者を見る目でカイトさんを見ている。カイトさんとラッタンさんは言い合っている。
「ああごめんね、カイトはお金が常にない状態だから、いつもこんな感じ、、」
近くにいた、ラッタンさん以外に逃げていた3人のうちの1人が俺とユウヤに言う。
ええ、なんでお金を取られることがわかっているのにそれでもなお一緒にいるの?人付き合いも難しいところだな。
「じゃあなんでずっと一緒にいるのですか、お金無くなっちゃいますよ」
俺はカイトさんに聞こえないくらいの小さい声で、その人の方に寄ってフェンス越しから聞く。
「え、それは、ね」
あれ、なんか嬉しそうだ。その答えに辿り着きたくはないんですけど、あれですか、もっと貢ぎたいいとかなんですか。
「あいつとはずっとチームが一緒だからだな」
「ああそうだったんですね」
え、それじゃあのチート級の魔術を権威的に振る舞うあの人と一緒なんて大外れじゃ。
「あの人ここから毎月支給されるお金もすぐ使っちゃうんだよ、だからお金が無くなるんだけどね」
ああ、使いまくってる結果お金がないから自分が絶対に勝てるもので賭けてお金を得ているのか、ただのクズじゃないっすか。
「おいなんだコソコソ話して、それと名前まだ知らないけど君のそのゴミを見るような目はなに」
俺がカイトさんの方を見ると、カイトさんがそう言った。そういや俺は自己紹介がまだだった。
「あ、えっとユウヤと同じく今日新しく入りましたカミセといいます、よろしくお願いいたします」
カイトさんの話を聞いた後だったから少し淡白な自己紹介となってしまった。
「おい、その目で見る理由は?」
カイトさんが言うと、さっきのカイトさんのクズっぷりを教えてくれた人が口を挟んだ。
「はいはいそんなのいいから、えっと俺たちも紹介するね、俺がトーゴ、でこいつがシャーロンで、こいつはエンブ
でそこの2人はまあもうわかってると思うけど、カイトとラッタン、紅という文字がマジで似合わない全員男のチームだよ」
『よろしくお願いします!』
「大変ではあるけど、その分充実した楽しい時間が過ごせると思うよ!」
トーゴさんが笑顔で言ってくれる。この人こそがいい先輩だ。見たらわかるこのいい人感。
「トーゴは勉強この子らに教えてもらったほうがいいんじゃねえのか」
シャーロンさんがトーゴさんに言う。
「いや、新入りの子達に教えてもらうなんて、、」
「こいつはな勉強がマジでできないんだ、俺たちの手には負えないから、なんかあったら教えてやってくれ」
トーゴさんが俺とユウヤに言う。
またもやこの裏切られた感。ねえさっきまでの尊敬の眼差し返して。いい人そうほど重大な欠点があるというフラグが立ってきている。
「まあ、いろんな人がいてその個性の集まりがチームだっつうわけだ」
なんかシャーロンさんがいい感じにまとめてくれているけど、もう期待はしない。三度目の正直より大抵二度あることは三度あるだ。
「そうだ、カミセもユウヤもさっきの鬼ごっこ、一緒にやらないか?手加減はするから」
カイトさんが俺たちに言ってきた。
「ええ、いやあ入ったばっかですし、、」
ユウヤが言う。
「大丈夫だって、遠慮すんな!」
「いやあでも、、」
ユウヤは何か言いたそうだが、言えない。その言いたいことは俺もわかっている。この人のことだから俺たちからもお金を巻き上げかねないということだ。
「今なら捕まっても半額サービスにしといてやるぜ!」
『やっぱり!』
俺とユウヤの声が重なる。おいとんでもねえクズ野郎じゃないか。入ってきたばかりの新人から絶対に勝てる戦いでお金を取ろうなんて。
「ははすまんなうちのクズ野郎が迷惑かけて、もっとこの建物探検したいだろ、こんなやつほって行って来な」
ラッタンさんが優しく声をかけてくれる。その言葉に甘んじて、
「はい、また俺たちが鍛えて強くなったら相手してください!」
俺はこの5人に言う。
「ははは、俺たちもその分強くなってるからな?」
ラッタンさんが言う。
「少しでも近づけるように頑張ります!ありがとうございました!」
俺は答える。
「ありがとうございました!」
ユウヤがそう言って俺たちはここを後にした。
「おうまた会おうな!」
ラッタンさんが元気よく返してくれた。
「お前の人見知りはどうなってるんや」
シャーロンがエンブに言う。
「何か今喋ったっけ」
トーゴも続けて言う。
「いや何も喋ってない、、」
エンブが答える。
「まあエンブらしいな」
カイトが言う。
「あ、そういえばまだ300ディバもらってねーぞラッタン!」
カイトがラッタンに言う。
「おいあんな卑怯な手使ってまだ言うか、今日は払わんぞ!」
カイトとラッタンは喧嘩するのであった。
♢♢♢♢♢
「なあカミセ、魔術ってめっちゃかっこ良くないか?」
俺たちは一旦俺の部屋に戻り、ユウヤが俺に聞いてきた。
「あれが魔術かって感じだったよな」
目の前で見たあの衝撃は忘れられない。その後のカイトさんの言動も。
「俺たちはどんな魔術が使えるようになるのかな」
ユウヤの目はさっきからずっとキラキラ輝いている。まさに田舎から都会に出てきた少年のようだ。まあでも俺の目もきっとキラキラが隠せていない。
「さあ、何が使えるのかな」
俺たちはこれからの日々に期待を膨らませながらその日の夜までずっと話をした。
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