第2話代理担任

あの日から、学校へ行き授業が始まる前の、カリキュラムや担任としての仕事内容を教えてもらっていた。


そのたびに、あの橋を使ったが、彼女が現れることはもう無かった。


あの絵の完成した姿が見てみたかった。


あの少女の描く絵の世界観を知りたかった。


一期一会。


そんな言葉が思い浮かぶ。


あの日しか会えない夢のような泡沫の時間だったのかもしれない。


そんなふうに思いながら、私は新学期に向けての準備に集中することにした。





あれから二週間後。

九月一日になり、初めての学校。

初めての生徒たちと過ごす時間が始まる。


私は堅すぎない服装で、ストレッチのきくパンツスタイルで向かった。


誰も、私のことを知らないため中々私からも挨拶ができなかった。


明るく笑い合いながら学校へ向かう生徒や、一人颯爽と歩く生徒。いろんな生徒の中に紛れて自分も学校へ向かってることがなんだか、浮いてる感じがして居心地が悪かった。


でも、ネガティブになってる場合じゃない。


私は今日から副担任任せられるんだから。


そう思うと、自然と笑みが溢れる。


そんな、自分の世界に入ってたはずの私が、自転車が通り過ぎる音と共に顔を上げた。


普段は、誰がすれ違っても気にならなかったのに、何故か感じたんだ。見ないといけない気がして、真っ直ぐ見つめたその先に、見覚えのある彼岸花の少女の横顔がギリギリ確認できた。


すぐに、彼女は自転車で走り去ってしまったけど、間違いない。彼女だった。


うちの高校の生徒だったのか。


なんだか、それも必然のようで胸が弾んだ。


別に恋とかではなく、単純に彼女にもう一度会いたかった。そして、話をしてみたいと思っていた。


接点はあるのだろうか?

私は正門から全体を見渡す。


今日から新しい人生がスタートする。

私は深呼吸をして、一歩踏み出すと、思い切って知らない生徒たちに、挨拶をする。


「おはようございます」


私がいうと、皆、顔を合わさないまま「おはようございます」と返してくれる生徒や、笑顔で返してくれる生徒。


今挨拶した生徒の中で、自分の教え子になる子はいるのかな?

私は弾む心のまま、職員室へと入っていった。

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