第17話 終焉の幕開け
「見ろ、こいつは帝国を食い物にした一族の一人だ」
そう言うや否や皇帝カルロは頭に被せた布を取り去った。出て来た顔は白髪赤目の久しぶりに見た父の顔だった。以前よりも
「こいつは元皇帝マウリリオの弟ギルモアだ。なぜこいつを今連れて来たのか、それは処刑されてしかるべきこいつの娘が逃亡しているからだ。恐らくはこの観衆の中で息を
私の名前を呼ぶ皇帝カルロ、処刑されるべきであるのに出て来いという。当然私が出て行ったとしても二人とも処刑される。カルロは『考えると言っただろ? 助けるとは言っていない』とお茶を濁すだろう。無駄には死にたくはない。父も望んではいないはずだ。だから、私は出て行かない。助ける努力はするがむざむざ殺されることはしない、犬死は勘弁だ。
「出てこないのなら処刑までの数分苦しめ。よし、次を処刑しろ」
そして、次の囚人が跪く。項垂れ振り下ろされる剣を待つ。
しかし剣が振り下ろされることはなかった。突然の破裂音が上空から起こったのだ。見上げると上空に赤や黄色や緑や青の光の花が咲いていた。数瞬で消えた花は次の大きな音と共にまた咲き、そしてまた消え、また咲いた。
何事かと皆、兵士さえも見上げている。
「花火だ、綺麗、この世界にも花火があるんだ」
「うん、あるんだね、懐かしいなぁ」
「このイベント用に皇帝が用意したのかな?」
そんな声が聞こえた。
どこかの国ではこんな綺麗なものがあるのだなと皆処刑の事など忘れたかの様に夢中になって空を見上げていた。私はといえば一瞬心を奪われたもののそれどころではなく、行動するなら注意が逸れている今しかないと処刑台の裏へと向かった。さすがに直接処刑台の壇上へ向かうのは兵士達に気付かれ直ちに取り押さえられてしまうので遠慮させてもらった。裏側からなら囚人となった者達のロープが切れるとおもったからだ。
しかし人の多さは相変わらずで帝都の人々がすべてここに居るのではないかと私は愚痴を垂れながら進む。しかし、民衆の壁がそこへの到着を阻んでいた。
たったの百メートルばかりの距離を十五分ほど掛けて移動し漸く処刑台の裏にたどり着いた。予想通りそこにも大勢の衛兵がいた。
さて、どうやって見つからずに処刑台まで行こうかと考えている時だった。
私がいる反対側、つまり処刑台の前方で騒ぎが起こったのだ。
観衆の中から覆面で顔を隠した十名ほどの男女が走り出て来て処刑台前に配置されていた兵士達と戦い始める。覆面の男達は手に剣を持ち兵士達を圧倒していく。男達に気が付いた兵士たちは槍を構えるが対応が遅れ近づき過ぎた男達を長い槍ではどうすることも出来ずあっけなく剣で切られ、
覆面の男達は皇帝カルロ・ディアーゴや前皇帝マウリリオたちの傍まであと少しの所まで近づく。彼らの目的が解放か若しくは新皇帝の殺害かは不明だが、もう目的達成の直ぐ傍まで来ていると私は安心していた。
しかし、皇帝カルロ・ディアーゴを見て背筋が凍った。
まるで策に上手く嵌った獲物の死を確信した策士の様に皇帝カルロは覆面の男達を歪んだ笑顔で見つめていたのだ。
「駄目! 逃げてぇ!」
嫌な予感がして叫んでしまった。しかし私の叫びは無惨にも周囲の喧騒にかき消されてしまった。
恐らく皇帝はこんな事態など当然予測していたのだろう。当然対策も立てているはずだ。どんなことをしても処刑は実行する、その自信が皇帝カルロの
皇帝の合図とともに皇帝カルロの衛兵達が壇上から降り男達の前に立ち塞がる。
立ち塞がった衛兵は明らかに私達とは違う人種、そう、勇者達と同じあまり起伏の無い顔の人達、つまり彼らも勇者なのだろう。
だからと言って、勇者達が一方的に男達を切り捨てることもできず、事態は膠着してしまった。勇者達と同じ技量なのであれば覆面の男達も勇者なのだろう。全ての兵士達と民衆が処刑台前の戦いを見つめていた。
私はここぞとばかりに処刑台に近づく。
その時私は漸く皇帝たちの居る処刑台の後ろに回り込むことに成功した。
「意識を失くし眠りなさい」
兵士は眠らせる。出来るだけ殺したくない。第三階位の強制睡眠の魔法。
「痺れて固まれ」
中には効果がない者もいる、その者には第二階位の雷魔法、暫くは痺れて動けなくなる。人間なら電気が体内を駆け抜ければ動けなくなる、スタンガンの要領だと勇者が教えてくれた。スタンガンが何かは敢えて無視したけど。
他の兵士達は覆面の男達に気を取られてみな処刑台の前方を注視していた。
「切れろ」
先ずは皇太子のロープ第三階位の風魔法を使って切った。『かまいたちだな』と勇者の花沢結斗は言っていたけど、彼らの世界にはそんな名前のイタチがいるのだろう。皇帝も教皇も周囲の衛兵でさえ気付くことなく切断することが出来た。
周囲を見回す元皇太子アレッサンドロ。私と目が合う。私はいつもの太った容姿だったので私に気付いたようだ。
私は早く逃げてとの意味を込めて頷く。すると彼も理解したのか頷く。
しかし、アレッサンドロは私の意志に反し他の者達のロープを切断し始めた。
「何をやっているの! 早く逃げないと!」
私の叫びは喧騒にかき消され彼には聞こえていなかった。よしんば聞こえていたとしても彼は同じ行動をとったのかもしれない。彼は他の元皇族の救助を止めなかった。
最初に元皇帝を、次に私の父のロープを魔法で切断した。恐らく、拘束していたロープで魔法が使えなくなっていたのだろう。それでも彼は一向に逃げず次々と捕虜となった者達のロープを切断していった。
「やれ、真田」
皇帝の声が微かに聞こえた。サナダ、それは勇者結斗が言っていた最強だという勇者の名前。私は事態が最悪の状況に陥ってしまったのを感じながらもう後戻りはできないとまだロープで拘束されたままの私の親族の救助を手伝い始めた。
その時だった。
私の体は痺れて動けなくなった。これは魔法。魔法を使える者は魔法に耐性があり魔法が効きにくい。特に私は魔力が高く魔法が殆ど効かないのだ。だというのに、動けなくなってしまった。
その原因は真田の魔法だと直ぐに気付いた。直ぐに真田を探した、見たことはない、しかし結斗と同じ平らな顔をしているだろう、見れば分かるはずだ。
見つけた。
真田と思われる者は皇帝と一緒に居た。皇帝と真田は私を見ていたのだ。彼らは既に私を認識していたのだ、その上で私に攻撃しろと命じたのだった。私は如何しようも出来ない力に拘束されたのを感じた。このままでは皇太子を助けられない。成長し強くなったと思った。だけどいまだに私は何もできない子供だったのだと悟らざるを得なかった。成長したのはこの体だけで、それもまだ成熟しない青い果実のまま強制的に収穫されようとしていた。
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