奪回作戦

第15話 逃亡計画

 私は急いで治療院へと走る。魔力で足を強化して馬車よりも速く走る。恐らく直ぐに私の住居としている治療院はテロリストに知られるだろう。だからその前に逃亡しなければならない。いつもの様に馬鹿王子がいれば匿ってもらおう。側室にはならないが匿われるだけなら構わない。

 いつもより早く走っているのにいつもより時間が掛かる気がする。漸く治療院に到着するや否やそこにいた先生に叫ぶ。


「先生、馬鹿王子居る?」

「いないよ。召喚の館だろ」


 またかよ、どんだけスケベなんだよ。

 私は先生に学園での出来事を話した。


「恐らく暫くの間帝都は荒れる、そのテロ行為の目的は帝位の簒奪だろう。私も一緒に逃げるかな。いや、争いが起これば患者の数は増すだろう。そんなとき医者がいなければ死者が増える。私は逃げるわけにはいかないな。だが君は逃げろアメリア君」

「先生‥‥」

「あれ? 今日は美人さんだね、どうしたの?」


 素っ頓狂な声が聞こた。見れば馬鹿王子が女性二人を連れて帰って来ていた。娼館から買ったという娼婦だろう。


「馬鹿王子、お願いがあるの」

「こいつ王子に向かって失礼な奴だ、そこに直れ」


 王子が連れてきた女性が剣を抜き怒鳴る。近頃の娼婦は気が強いの?


「タケ子、失礼って、君の方が失礼だよ、この美人さん、皇帝の姪だよ、不敬罪で断首されちゃうぞ」

「えっ、そ、そうでしたか、失礼いたしました。しかし、エルフかと見まごうばかりの美しさですね」

「エルフって?」


 初めて聞いた言葉にオウム返し。


「あぁ、彼女たちの国では美しい女性をエルフというらしいよ」

「ち、違います。異世界の美しい種族の事です」

「あぁ、物語の中の架空の種族ですか」

「違うよ、アメリア様。エルフはいるんだよ。帝国の北の方にエルフの国がある。今度一緒にエルフ見物旅行と洒落込みたくない?」

「ええ、お一人でどうぞ。あぁ、そのお二方をお連れになれば宜しいのでは?」

「えっ、嫉妬? もう、アメリア様、嫉妬しちゃって可愛いね。大丈夫だよ僕の心はアメリア様だけだから」

「あれ、頭からウジが湧いてないですかぁ?」

「え?」


 馬鹿王子は頭を下げ、居もしないウジをはたいて払い落とそうとする。ウジが湧いてるのは頭の中よ、中。


 こんなことをしている場合ではないと馬鹿王子に急いで状況を話し匿ってくれないかと相談した。


「えっ、アメリアちゃん、我が国にお嫁に来てくれるの? ついに決心してくれたんだ。俺は嬉しいよ」


 誰がちゃんだ! それに嫁に行く訳じゃない。


「あれ? ウジが鼻から出て来てるよ?」


 確認するな、確認。ウジが湧いているのかと思う位に馬鹿だと言ってるの。


「俺はもう彼女達を受け取ったからいつでも発てるけど、アメリアちゃんはどう?」

「ちゃん着けて呼ぶのは止めてよね。私もすぐに用意するから三十分待って」

「了解、お茶でも飲んで待ってるよ」


 直ぐに三階の自室へ。少ない私財を集め皮袋に詰め込み始める。



「コーヒー無いん?」

「近くにマックないよね」

「ある訳ないわ」

「最後に月見バーガー喰いたかったなぁ」

「自分で作れし」

「だね」

「王子様、コーヒー出してや」

「なんか君、被雇用者の分際で雇用者に対して態度でかくない? 僕が君達買ったんだよ? 君達、ほぼ奴隷だよ?」

「ちっさいなぁ、ほんま。下のソーセージも小さいんやないやろな? そんなんじゃ夜伽できんでぇ」

「安心しろ。俺は胸のある女が好きなんだ。特にアメリアちゃんみたいな巨乳が」

「うちも二つあるちゅーねん! この短小野郎が!」

「タケ子口悪いよ」

「その名で呼ぶなし」

「でもタケ子静岡生まれ静岡育ちだよね? その似非関西弁止めたら?」

「美桜、黙れ五月蠅い、これはうちのアイデンテテーやねん」


 意味のない会話が三階まで聞こえてきて煩わしい。無視して私は荷物を詰め込む。


 ▼△▼


 準備して一階に戻ってくるとコーヒー飲んで寛ぐ三人の馬鹿?

 この状況分かってないのかしら‥‥って危険なのは私だけだった。


「ねぇ、アメリア様ぁ、凄くパニックになってるみたいだけど安心して、私たち勇者で強いから」


 勇者って変なやつしかいないじゃん。

 ストーカーとか軽薄で口が腐ってる奴とかぁ、名前は芽衣ちゃんと結斗だったな。猛は割とまとも? もう一人は良く分からないわ。


「あ! いた! 一生ここには来ないって言うから期待してなかったんだけどやっぱり来たんだ、巨乳の美人さん」


 げ! 軽薄男! ストーカーされてろよ。噂をすれば影というやつだ。四人組の勇者がご来店だ。名前は確か軽薄な花沢結斗、大男の山崎猛、ストーカーの玉木芽衣、無口な青柳一華、この一華は殆ど話さない。


「あ・は・は、ひ・さ・し・ぶ・り・で・す・ね」

「なぜ棒読み? ってか君達新しい勇者でしょ? 君たちこっちの世界は来たばっかり?」

「そうです、二人で召喚されました」


 なんか軽薄男とかストーカーとかと違って彼女達はまとも?


「そうか、分からないこと有ったら俺に聞きなよ」

「はい、宜しくお願いします」

「どうしてこの治療院に? どこか怪我した?」

「私達、この王子様に買われたのでこれからエインズワース王国へ行くんですよ」

「えっ、王子様ボクは?」

「芽衣、お前は駄目、俺達のパーティーだろ」

「良かった。一緒だとうるさそうだし」


 ついぽろっと本音を漏らした。それがいけなかったの?


「えっ、巨乳ちゃんも一緒に行くの?」

「は、はい」


 げっ! しまった!

 付いて来るなよ、絶対に付いて来るって言うなよ。

 しかし、私の魅了の呪いは発動しなかった。そんなスキルないし。


「いく、俺達も行くぞ、巨乳ちゃんと二泊三日の馬車の旅だ。道中何が起こることやら、楽しみだ。猛、キャンピングカー召喚しろ!」

「おお、了解、楽しみだなぁ、異世界キャンパーか? 異世界ヒロシだな?」


 私は楽しみがなくなったわよ。って二泊三日なの? それって長いの短いの? どっち?


「でも、良かったよ、猛」

「何が良かったんだ、結斗?」

「だって、今日おデブちゃん居ないじゃん、目の負担が減るよ」


 いるよ、ここに! 

 悪うございましたね、目に負担を掛けてしまって。

 しかし物は考え様だ。勇者が六人も来るし王子の護衛もいるだろう。数十人のパーティーでのお気楽な旅行になるに違いない。


「馬鹿王子の護衛って何人?」

「え、ふ、二人かな」

「しょぼ!」


 十人じゃん、全員でたったの十人じゃん。少な! もう私死ぬの? いや普通なのかな? 期待値から外れていたからそう感じただけ?


「ところで、どうして巨乳ちゃんもエインズワース王国に行くんだ?」

「今日学園がテロに占拠されたんだ。私その一味に狙われているみたいでさ」

「そうか、大変だな‥‥って、その髪と目はもしかして、巨乳ちゃん、皇族? って、あれおデブちゃんも?」

「あれも私よ」

「‥‥ごめんなさい、酷いこと言って‥‥って大事な事言うの忘れてた」


 到頭結斗にも知られたけど今更感が半端ない。もう太る必要も感じない。これで、このアミュレットもお払い箱かなと思うと感慨深い。

 結斗がいう大事な事を聞きたかったのだけど、結斗はどうやって話そうかと思案しているのか、なんかにやにやしながら考え込み始めたのだった。

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