造反

第10話 また露見

 翌日、学園で皇太子アレッサンドロと会うこともなくほっと胸をなでおろした。晴天の空を見ながら気分良く治療院に帰宅すると皇太子アレッサンドロが待っていた。


「遅かったな、待たせるな」


 いえ、私は普通に学園で授業を受け直ちに帰還したのですが。授業も受けずにここで待っている殿下が変です、と口に出して言いたい。不敬罪だから言わないけど。


「申し訳ございません、授業を普通に受けてましたので」


 あれ? これって嫌味? 不敬罪?


「悪かったな、今日はお前の為に呪いを解く方法を宮廷魔術師筆頭のファツィオ・シモーニと相談していたのだ」

「ほ、本当ですか? ありがとうございますっ」


 って、いや、それ有難迷惑だし、呪いなんて自分で解けたし、アミュレット外されたら困るし、くそっ!


「こんにちは、お嬢さん、見事にでっぷりと、まぁ、肥えていらっしゃる」


 おじいさん、丁寧に言っても酷い発言が緩和されることはありませんよ?


「シモーニ、それは酷い言い草だぞ。少しはオブラートに包んで『でっぷり太っている』と言え」

「はい、殿下」


 けっ、それ全然オブラートに包んでないわよ。むしろ針のむしろに包んでいるという感じよ。


「しかし、殿下、この者のアミュレットは全く呪われてませんぞ、それどころか、認識錯誤の効果だけ残して呪いだけが解呪されていますぞ」

「どういうことだ?」

「このアミュレットは好きな時に外せるということですぞ」

「本当か? アメリア、貴様、俺を欺いていたのか?」


 くっ‥‥どうする?

 このままでは不敬罪とか偽証罪とか殿下欺きの罪とか、勝手に罪をでっちあげて捕縛されるかもしれない。う~っ、打首獄門だけは避けたい。

 どうする?

 ・・・・

 いや、まだなんとかなる。


「ほ、本当ですか? これ取れるのですか? 私、今まで試した事がなくって。これを頂い方からアウグスト聖教の教皇とか高位の方でも呪いを解くことは出来ないと伺っていたのです。やったぁ、これではずせますね」


 よし、上手くいった。少し棒読み臭かったがまぁ、合格の範囲内だろう。


「お前取ったこと有るだろ?」


 ぎくっ!


「いいえ、全く記憶にございません。だって知らなかったのですよ?」


 私は政治家の様に答え殿下を煙に巻くことにした。


「貴様、今ぎくってしただろ?」

「し、してませんよ。あ! どっきりでしょ? 殿下がご自分で解呪したのをあたかも私が解呪し取り外していたのに殿下に嘘を吐いたように持って行き、私に恩を売るつもりだったのですね?」


 これでどうだ?


「本当に知らなかったのか?」

「当然です」


 勝った。殿下は単に面倒で私の発言を否定しなかっただけのようだけど勝ちは勝ちだ。


「分かった。お前の言い分は信じるからここで外してみろ?」

「ここでですか?」


 馬鹿王子とか居るしなんか嫌だ。


「当然だ。嫌なら監獄ででも外すか?」

「遠慮します。ここで外しますよ」


 慈悲の無い男だ。監獄は嫌だからここで外すしかない。もう諦めた。まぁ私の素顔が分かったとしても素性が露見することはないだろう。父の存在が明るみに出ることもない。


「ほら、早くしろ」


 私はアミュレットを取った。


「あ! この前の幽霊!」

「幽霊ちゃうわ、この馬鹿王子!」


 煩い、誰が幽霊だ。


 アミュレットを取ったことで私の長いプラチナの髪と赤い目が白日の下に晒された。晒したくもない大きく育った胸が服を押し上げ自己主張しているのは無視だ。


「プラチナの髪に赤い瞳、そして名前がアメリアか。お前は俺の従妹のアメリアだな? 叔父上と同じ色だ」

「同色というだけでしょ? 父はあなたの叔父上ではないですよ、下級貴族だったらしいですし、無関係ですよ」

「その髪と目の色は帝家に良く現出する色だ。更に貴様の容貌は叔父上と良く似ている。胡麻化せんぞ。容姿を偽ったのは恐らく叔父上の逃亡を隠すためだろ」


 げっ、さっそくバレた。もうどうしようもない、こうなれば父の無実を主張するほかない。って従兄?


「でも下級貴族だと言ってました」

「人を欺くにはまず身内からというだろ。父の名前はギルモアで髪と目は貴様と同じ色だろ? 貴様は俺の従妹だ」

「では、私は皇帝の姪なのですか?」

「その通りだ、間違いない」


一瞬の静寂。


「えぇぇぇっ! おデブ様はお姫様であらせられましたかぁ!」


 静寂を破る叫びが響いた。

 馬鹿王子、煩い! もうおデブじゃないだろ。それに土下座するな。


「誰がおデブだ、お前は娼館行っとけ!」 


 はっ! これ不敬罪だよね?


「殿下、私は不敬罪でしょうか?」

「いや、属国の王子に帝国の姫が怒っただけだろ。逆に俺の従妹に向かってデブと言ったのは不敬罪だな」

「姫、何卒お許しを」


 いつの間にか立場が逆転してるのだけど。


「うむ、許して遣わす」

「おデブちゃんが突然偉そうだな」

「煩い、馬鹿王子。この年中発情野郎が!」

「それって子供が沢山出来て良いんじゃないのか? それよりアレッサンドロ皇太子殿下、アメリア姫を嫁に下さい。この巨乳僕のタイプです」


 顔じゃなくてちちかよ。


「毎日娼館行って女買っているやつに嫁ぐわけないでしょ」

「え? 娼館なんて言ってませんけど。俺が行っているのは召喚の館で異世界より召喚された勇者を買いに行っているだけなんだけど」


 何それ? 異世界? 勇者? 召喚? 初めて聞く単語ばかりだ。それより私の父は皇帝の弟で、私は皇帝の姪で、皇太子の従妹? 情報量過多でパニックだわ。


「話を戻しますが、父は皇帝の暗殺未遂の濡れ衣を着せられていたのです。父はやってません」

「当たり前だろ」

「そう、当たり前で‥‥って、ご存じだったのですか?」

「当然だ。事件直後には叔父上の無実は証明されていた。ただ黒幕を未だに逮捕出来ておらず公表は控えているのだ」

「だったらもっと早く教えてくれても?」

「その様に容姿を偽ってまで逃亡していたのだろう? 簡単に見つかるはずがないだろ」

「確かにそうですね。父に無実が証明されていたと伝えなければ! 殿下、これから実家に伝えに戻りますので失礼します」


 早く無実だと証明されたと伝えたい。もうすぐ夜だけどこれから帰ろう。


「送って行こう、叔父上は今どこにいる? 黒幕は依然逮捕されてない、証人は殺されるかもしれん」

「そうなんですか? では送っていただけますか、父が心配です」

「直ぐに馬車を回せ」


 勇ましく執事に命じる皇太子アレッサンドロ、その大胆不敵な様に胸が高鳴る、流石に我が従兄は馬鹿王子とは一味違う。殿下を頼もしく思いながらも父の事を考えると不安に駆られた。父の身に何も起きてなければ良いのだけど。


「姫、俺も連れて行ってくれないか?」

「姫じゃないし、あんた病人でしょ? 大人しく寝てなさい」


 姫を否定したら不敬罪確定で矛盾が生じてるのだけど今は気にしない。


「アメリア姫を助けたいんだ」

「あんたデブ嫌いでしょ?」

「デブは最早過ぎ去りし日の思い出、巨乳の美人は好きですよ、アメリア姫」

「私はデリカシーの無い明け透けの馬鹿は好きではないですよ、王子」


 勝った。

 馬車が玄関の前に到着したので悔しがる馬鹿王子を残してすぐに馬車に向かう。振り返ると先生が茫然と見ていた。


「ちょっと実家に帰って来ます」

「誰?」


 先生の一言に然も有りなんと思いながらも放置。先生は放心状態のまま手を振って見送ってくれていた。暫くすれば回復するだろう。


 皇太子の馬車に乗り込むとなぜだか馬鹿王子は既に座席で寛いでいた。


「お邪魔します」

「うむ」


 お前が言うな、馬鹿王子!









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