第8話 代告

「こんばんわぁ」


 さらっと挨拶、そそくさと逃げるように自分の部屋へ。

 王子は直ぐに病室に戻って行ったから入院している患者さんだと思ったことだろう。


 ▼△▼


「おはよう」


 翌朝、学園に向かおうとした時に声を掛けられた。相手は馬鹿王子。


「おはようございます。あ、急ぎますので失礼します」

「待って、少しいいかな?」


 丁寧に挨拶だけで済ませようとすると馬鹿王子が何か言ってくる。


「何でしょう?」

「昨日女性と会わなかった?」

「女性?」

「プラチナの髪の綺麗な女性だよ、君とは正反対の女性さ。入院患者さんかな?」


 憶えていたか、この馬鹿王子、記憶も馬鹿で見たものは直ぐに忘れて欲しかった。って、正反対ッて何さ! でもどうしよう。そうだ!


「あー、あの人ですね。私も見ましたよ」

「誰? 紹介してよ!凄い美人だったよね胸なんかはちきれんばかりに大きくってさ」


 けっ! どこ見てんのよこのスケベ王子、そりゃ昼間から娼館行く訳だ。巨乳派か?  巨乳派なのか? まぁ、デブの私には関係ないけど。


「紹介ですか? 難しいですね。彼女、壁の中にスゥ~ッと消えていきましたから。今度出て来た時には会いたがっていたとお伝えしておきますね。恐らく彼女の命日でしょうけどね」

「え‥‥?」


 馬鹿王子、顔が青くなってやんの。


「でも最悪幽霊でもいいかなぁ‥‥」


 ってドンだけ飢えてんだよ!


「また会いたいなぁ」


 行けよ! あの世に!



 ▼△▼


「おはよ」

「あ、お、おはようございます」


 教室に入るとメアリーが話しかけてきた。今までの事とかを事細かに話したいし色々聞きたい、なのに状況がそれを許さないから話せないし訊けない。ただ挨拶だけをぎこちなく交わし席に着く。

 そしていつもの様に心ない会話が聞こえてくる。


「きも、どんだけ食えばああなるんだよ」

「親にオークの里に捨てられたのよ、それでオークの子供を身籠ってるのよ」

「ああ、妊娠中だからあんなに腹が出てるのか」

「彼女自身がオークよ。恐らくオークの里から拾われてきたのね」

「なるほど、あいつ奴隷なのね?」

「だったら扱き使ってあげないと。それが奴隷の本分よ」


 私に対する心ない言葉で盛り上がっている。でも仕方がないと達観している今日この頃の私。あぁ、私、大人だ。


「みんな酷いよ。アメリアだって痩せたら可愛いんだから」

「オークは痩せたら重量が減るから売価下がるよ」

「あんたが一番酷い!」

「ちょっとみんな、止めてあげてアメリアだって生きてんだよ!」


 最後のメアリーが一番酷かったような‥‥

 螻蛄おけら蚯蚓みみずと同じ扱い?


「アメリア、元気出して。私の幼なじみにあなたと同じ名前の子がいたの。あなたと違って凄く可愛かったのを覚えてるんだけど、あなたを見ると彼女を思い出すの。なんでだろ」


 憶えててくれたんだ。メアリーが慰めてくれた。少し涙が出てきた、周りには分かるはずないのに見えないように顔を背けた。

 でも、あなたと違っては余計よ!

 思い出すのは単に名前が同じせいよ


「でも、みんなありがとう。こんな私に無視せず話しかけてくれて」

「‥‥いや、只の陰口よ。話しかけた訳じゃないから」


 うーん、アンジェリカ、何気に酷いなぁ。金髪縦ロールで胸部装甲強めの美人だ。


「ねぇ、アメリア、お願いがあるの。私の代わりに告白して? お願い」


 は?

 そう言ってきたのもアンジェリカ。青い目が透き通る海の様に綺麗だが少々吊り上がっていて性格がかなりきつそうに見える。この人達の中ではリーダー格だ。

 いやいや、何その私の代わりにトイレに行ってみたいな意味のないお願い。罰ゲーム? ってその前に罰を受けるようなこと私してないよね?


「アメリアもなんでアンジェリカの代わりに罰ゲームしなくちゃいけないのか理解してないよ」


その通りだよ、エミリー、もっと言ってやって。


「アメリアは、私達よりも体重の差分余計に酸素吸ってるんだから、少しは私の代わりをお願いよ」


 何よ、そのとんでも理論? 

 結局何も言えない私は告白することになった。


 って誰に!?


「会ってのお楽しみ」


 結局教えてもらえなかった。


 ▼△▼


 そして放課後になった。


「居た。居たよ、図書室に居た」


 赤髪で雀斑そばかすの目立つシェリーが走ってやって来て報告する。どうやらパシラされているようなのだけど明るく可愛い。胸が寂しいのが少々残念。まったく揺れてなかったよ‥‥


「ほら行くよ」


 アンジェリカが促すと一丸となって図書室に走る。走る必要あるの? と感じながらも私も走る。何か、楽しい。仲間って感じ。そして、統制が取れている。みんな一丸となっていて仲の良さが窺えた。

 図書室に着くと目的の人物が居た。後ろ姿だけだけど見たことのある髪の色。どこで? と考える間もなく理解する。父と同じ髪の色、珍しいのに。


「失礼します。あの人がお話があるそうです。今お時間宜しいですか?」

「うん構わないよ」


 メアリーが話し掛けたのだけど、上級貴族である彼女が妙に丁寧に話すのは上級生だからだろうか。


 アンジェリカが私の背を押し男性の前に行くよう促す。

 男性の前に立つと私は下を向く。相手にこの顔を見られるのが恥ずかしくて顔がまともに見られない。イケメンか不細工かも分からないが恐らく不細工なのだろう。だって罰ゲームの代理罰ゲームだから。って何ダリ罰ゲームって?

 告白の内容は事前に書かれた紙を渡されその通りにしろと言われている。いざその段階になるとなると躊躇する。どうして相手が誰かも分からず人生で初めての告白をしなければならないのだろう。だけど、これこそデブの人生にふさわしい。これで余計に私の素性が露見することは防げるだろう。


「い、一年生のあ、アメリアです」


 何これ? 吃音が最初から予定されているの? 何気に酷くない? 馬鹿にされるの前提? 虐め? でも、何か楽しい。


「す、すきです。お、おつきあい、おなしゃーっす」


 何言葉の意味が分からないのだけど? でも私は書かれている儘最後まで言い切ったのだった。


「ごめんね、隠し事の多い人とは付き合えないんだ」


 そう言って男性は去って行った。

 その瞬間巻き起こる大爆笑。


「ひー、ひひひっ、よ、良くやったよ、アメリア」


 アンジェリカの労いの声。ってこれって労いなの? 追撃の間違いじゃないの? 追撃の嘲笑?

 見ると全員腹を抱えて笑っている。エミリー、お前もか。


「ど、どもりが最高だったよ、シェリーの台本の成果だね」


 あれ書いたのシェリーだったのか。くそっ。


「シェリー、アメリアの胸に嫉妬したの?」


 アンジェリカは人の弱点を鋭く突き抉る。サディスティックな性格なのだろう、デリカシーに欠ける所があるようだ。


「ちがうよ。だってデブの胸は只の脂肪の塊だよ。おっぱいじゃないよ」


シェリーは両手を胸の前で振りながら慌てて否定する。


「「「そうだよねぇ~」」」


 シェリーのデブに対する認識が酷すぎる。皆も同意するんじゃないよ。


 気が付けばみな私を残して帰宅していた。私も早く治療院の仕事しないといけない。

 でもあの男誰だったのだろう。隠し事が多いって、まさかばれてないよね。まぁ、もう二度と会うことはないから良いけど、顔も見てないし。





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