学園生活

第5話 帝都組織犯罪対策班

 本日午後十時少女の齎した情報を基に憲兵団は行動を開始予定だ。現在国内に蔓延る奴隷確保目的の誘拐集団マーゴットファミリーを根絶するのが目的だ。奴隷自体は帝国法で禁止されてはおらず合法だ。借金や犯罪等奴隷になる理由がある者などいくらでもいる。特に犯罪を犯した者は懲役よりも奴隷として扱き使った方が世の中の役に立つし、二度と奴隷になど戻りたくなければ再犯も犯さなくなるというものだ。

 現在、帝都における誘拐等の犯罪への対策は憲兵で組織された帝都組織犯罪対策班が行っている。憲兵を指揮している長官はガルネリ帝国の皇太子であるこの俺アレッサンドロ・ガルネリだ。しかし、俺はまだ学生にすぎず、そもそもただの職務経験で対策班を指揮している対策本部の長官をやっているのだ。


「情報では午後十一時とあるが一時間前には到着し様子を伺いたい」


 俺は帝都組織犯罪対策班の指揮官クラスだけを集めた会議でそう主張した。


「しかし齎された情報には早過ぎも遅過ぎも駄目、時間厳守とあります。あまり早いとマーゴットファミリーに気付かれる恐れがあるという事ではないでしょうか? 恐らく奴隷は倉庫の中に隠されていて探しても見つからない可能性があります。捜索差押許可状はその倉庫内の捜索差し押さえに限られますので隣の倉庫に隠されていた場合捜索差し押さえが出来ません。ですので運び出された奴隷を確保する方が確実です。気付かれた場合やつらは奴隷を運び出さなくなります」


 副官ヤコポ・グロンキが反論する、彼が実質的な頭だ。所詮俺はお飾りだ、気にしない。


「しかし、隣の倉庫で違法奴隷が見つかった場合、現行犯として捜索差押ができるのではないのか?」

「見つかればですね。見つからなければ適法な捜索も違法だとさ主張されかねません」


何とか食い下がっては見たもののやはりただの学生の知識では如何ともしがたい。


「なるほど、では選抜隊員二十名で十五分前に現場付近に到着。様子を伺いながら倉庫に近づいて行く。見張りは都度無力化していく。これで良いか?」

「はい。結構です。完璧な計画などありません、後は臨機応変にやるだけですね。鼠は隠れられたら厄介ですので出て来た所を叩くのが一番です」


 午後十時四十分、予定より五分早く現場付近に到着した。選抜隊員二十名は散開し目的地に近づいて行く。周囲には人気も無く虫の声だけが響いている。タレコミのあった倉庫は倉庫街の一角にある。俺が先頭に立ち数ブロック手前からは足音さえ立てないように慎重に近づいて行く。

 目的地まで数ブロックというところで異変が起こった。

 突然、怒鳴り声が夜闇の静けさの中にある倉庫街に響いたのだ。声は目的地の倉庫からだと推測された。事情が分からないがこのまま慎重に近づいていては異変に対処出来ないと全員に至急現場に到着せよとの合図が送られる。


「走れ!」


 数分と掛からず目的地に到着した。そこには異様な光景が広がっていた。男達が、一人を除いて争った形跡さえなく倒れ、その一人は背中から血を流しその傍に少女が蹲り茫然としていた。何が起こったのか判断に迷う。そして、少々離れた所に現場から逃走する二人の男女を見つける。明らかに俺達に反応して逃げだしたのだ。


「アルス、四名であの二人を追え」

「承知」


 アルスが追い始め塀を乗り越えるのを見届けると残り十六名に周辺の捜索を命じる。


「背中から血を流し倒れている者以外は眠っているだけのようです。奴隷も同様です」

「死因は?」

「体中が燃えています、魔法ですね。ですが、直接の死因は背中の刺し傷ですね。心臓に剣の様な物で攻撃を受けたのでしょう」

「では、あの二人が奴隷の護衛を無力化したのだろう。タレコミもあいつらか」

「ですね」


 しかし、あの女、妙な動きをしていた。あれほど太っているのにまるで痩せているかのような動き。単に運動が得意なだけか?


「見失いました」


 そこへアルスが戻って来た。


「御苦労」

「ありがとうございます、殿下。しかし、妙でした。太った女は動きが軽やかで足が速いんですよ、妙な違和感があったというか。そこで、第三階位魔法の解析を使ったのですが、体全体が魔力で覆われていたのです」

「それは低階位の身体強化魔法ではないのか?」

「そうですね‥‥いえ、どちらかというの呪いの邪悪などす黒さが微かに滲みだしているいという感じでした。呪い残滓だったでしょうか、呪いであれば邪悪などす黒い色をしているのですが。既に解呪された呪いだったのかもしれませんね」

「まぁ、第三階位の解析魔法のではあまり詳しくは分からんから仕方がない。人には得手不得手があるのだ。気を落とすな。だが身体強化でないとすると認識阻害かもしれんな」

「可能性はありますね。では失礼します」


アルスが戻って行くとそれを待っていたアマデオが近づき敬礼する。


「報告します」


 アマデオは倒れていた者たちを捕縛し事情聴取を担当していたのだが終わったようだ。


「全員眠気に襲われ眠ってしまっていたとのことでした。恐らく、睡眠魔法で眠らされたのではないかと思われます」

「それで、そいつらは違法奴隷と護衛だったのか?」

「はい、全員誘拐されて奴隷に落とされたようです。既に奴隷紋が彫られてます。男達は護衛ですね」

「男を殺したのはあの二人だったのか?」

「はい、意識のあった少女によると、殺された男に人質にされた少女を助けようと太った少女が飛び出してきたようです。その太った少女が男を燃やしたのですが、倒せず襲われそうになったところにもう一人が出て来てナイフを投げてとどめを刺したようですね」

「勇敢な少女だな。しかし、体全体が魔力で覆われていたという話が気になるな。だが、もしあの体形が偽りなら巨乳の美女であってほしいな」

「で、殿下‥‥」

「あ、すまん」


 いつか彼女の素顔を見てみたいものだ‥‥







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る