第20話 5ヶ月後の二人はちょっと危機だった

「ねーぇ!楓ちゃん、怒らないで??」

「・・・。」


 喧嘩といった喧嘩をしたことがなかった二人だが、ついに5ヶ月目にして喧嘩していた。と言っても、一方的に怒っているのは楓花だった。


「楓ちゃぁん・・・。お願い、誤解しないで?違うのよ。。」

「違うもなにも、二人で食事したんでしょ?」


 どうやら、昨日の金曜日、仕事帰りに、友梨を以前から狙っていた課長と二人で食事をしたらしい友梨。楓花は外出していて、会社に戻ったときにはすでに友梨は退社したあとだった。


「あんまりしつこいから仕方なくだってばぁ!帰り際にお腹空いたーって言ってたら、後ろからついてきちゃってて断れなかったの!」

「じゃあ、私を呼べば良かったじゃない。。」


 本当にそうだな。そこまで頭回らなかったんだよ・・・。

 うわぁ、初めてこんなに怒らせちゃった・・・。どうしよう、、このまま別居とかになったら。。


 この二人、新居で同棲を始めてまだ1週間も経っていなかったのである。しかも、、


「しかも、、朝帰りして一体どんな言い訳があるってのよ・・・。」

「だからぁ、しつこく飲まされて・・・気がついたらタクシーで前の家の前まで行っちゃってて、気持ち悪くて近くの漫喫に行ったって何度も言ってるじゃん・・・。スマホも充電切れちゃってたんだよ。。」

「そんなの、、信用したくたってできるわけないよ。」

「もーうー!でも私、男の人とできないよ?何度も言ってるじゃん!」

「・・・。そんなの、、わからないじゃん。。」


 まぁ、怒るのも無理はない。同棲したての彼女が朝帰りして、その相手が自分の上司なわけだから。そりゃはらわたも煮えくり返るってもんだ。


「ちょっと、、今は顔見たくない。出かけてくる。。」

「え、うそっ!?お、お願い行かないで?」

「ごめん、このままだとここでみっともなく泣きそうだから・・・。」

「え、だから、お願い!本当に何もないんだってばっ!」


 楓花の腕にしがみつく友梨を、今までにない冷たさで振り払うと、楓花はバッグ1つ持って外に出てしまった。


「やだ・・・、どうしよう。。ふ、楓ちゃぁん!」


 友梨は力なく玄関にへばりこんで、ただ泣きじゃくった。

 そして、外に出た瞬間、楓花も大粒の涙を流していた。どこかの店に入るわけにも行かず、とりあえず向かったのは人気のない公園。


(こういうとき、どうするのが正解なんだろう・・・?)

 うなだれて涙が止まらない楓花。今すぐ友梨は自分だけのものだと安心したいのに、どうしても昨日の夜、もしも課長と、、と考えるとどす黒い感情が湧き出てきた。

(あーあ。これじゃ、会社に行っても普通に課長と話せるわけないし。。)


 とりあえず、、今日はどこかに泊まろう・・・。ビジネスホテルかな、、。ボロボロになった心と体を引きずりながら、力なく駅前のホテルへと向かった。


 数時間後・・・。


「・・・。知らない天井だ。」

 これは言ってみたかっただけだが、楓花は一人、ビジネスホテルで寝てしまっていた。考えても良い案が思い浮かばなかった時は寝るしかない。


 見たくなかったがスマホを確認してみると、友梨からのメッセージが鬼のように入っていた。


『お願い、戻ってきて。』

『話を聞いて。』

 着信

『本当になにもしてない。』

『怒らせちゃってごめんなさい。』

 着信

『お願い、このまま別れたりとかしないで。』

『楓ちゃんしか好きじゃないから。』

 着信


 これ以上は見ることができなかった。


「信じる要素がなくても信じるべきなのかなぁ・・・。」


 今後のことを考えて見た。友梨と別れるなんて、どう考えても耐えられない。それ以外はどうだって良いことだけど、会社にも行きづらくなる。別れても会わなくてはいけない。例え友梨が課長と寝たとしても、それが友梨が課長を選んだとは思えない。。これが初めての喧嘩、、やっと同棲を始めてまだ一週間。。


「はぁ、、今回は、信じる事にして許そう。。帰ろう。。」


 ものすごく辛い気持ちを押し殺して、楓花は立ち上がり、ホテルの部屋から出た。歩きながら、友梨に「今から帰るから」と返事をしようとしたその時。


 『楓ちゃん、、もうお別れなの?楓ちゃんがいなくなるなら、私もう何もかもどうでも良い。』


 え、まずい。何をする気だろう、、。もしかして、命に関わることでもあったら・・・!どこかに消えてしまったら・・・!ああっ!どうしよう!早く行かなきゃ!


 電話をかけてみるが、繋がらない。不安は募り、駆け足で家へと急ぐ。


 どうしよう!友梨っ!ごめん!どこへも行かないで!!涙を流しながら走ること10分。息を切らして自宅マンションの前にたどり着くと、泣きはらした目の友梨がそこに立っていた。


「ふ、楓ちゃぁんっ!嫌よっ!お願い!嫌いにならないで!」


 楓花の姿を見るなり、しがみついて泣きながら懇願する友梨。


「わかった。わかったから。部屋に入ろう?」


 二人、沈黙のまま、友梨がしがみつく形でマンションの中へと入る。自宅の玄関を入ると、友梨は勢いよく楓花に抱きついて、


「お願いっ!別れるとか言わないでっ?そんなの嫌っ!」

「・・・わかったよ。別れるなんて言わないから。でもすごく嫌だった。」

「ごめんなさいっ!でも、本当に何もないから!もう誰とも二人でなんて行かないから!」

「わかったよ、今回は信じる事にする。」

「ふ、楓ちゃぁんっ!!」


 友梨が泣きじゃくること約30分。自分も泣きながらそれをなだめる楓花。二人とも目がパンパンに腫れるだろう。明日が休日なことだけが不幸中の幸いだ。


 後日、友梨は課長に「彼氏に問い詰められて課長を呼べと言われた」と脅し、「一切手を出しておりません。今後友梨さんには近づきません。」と署名させて楓花に渡した。


 さて、これが今後の確執にならなければ良いのだが。


 6ヶ月後に続く。


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