第9話「木陰の宿」に宿泊です

帰り際いきなり振り向き、宿について聞く僕にくすくす笑いながらも答えてくれたレノさん。そんなレノさんが教えてくれたお宿は「木陰の宿」。


 良いですねぇ、落ち着いた雰囲気の名前です。レノさん曰く「宿はブロンズクラスですが食事は値段以上の美味しさですよ」とのこと。これは現地の食事レベルの確認に行くしかないでしょう!早速レノさんに場所を聞いて、商業ギルドを後にします。


 あ、ちゃんとアイテムボックスの事も聞きましたよ。商人の殆どの人はアイテムボックス持ちだそうです。大きさはまちまちで、かなりの量が入る人は、シルバーランクやゴールドランクのお店で働きたい場合優遇されるんですって。


 これは良い事を聞きました。《トランクルーム》使えそうです!良かった、僕そんなに力あるわけじゃないですから。


 それで話しは元に戻しますが、「木陰の宿」の場所はどうやら僕が出発した最初の広場に近いそうです。オーク串焼き屋台のヴァントさんの近くらしいので、こちらとしても都合の良い立地です。


 目印は木のマークの看板のお宿。探しながら午前中に来た道を戻り歩いていると、結構宿があちこちにあります。セクトの街は大都市にあたるのでしょうね。行き交う人々が絶えません。


 屋台からの美味しそうな匂いに抵抗しながらも歩いていると、見つけましたよ、木の看板!お宿の外観はレンガの壁にオレンジ色の屋根と緑の扉。大きすぎず、古すぎず親しまれているお宿の雰囲気がします。


 ワクワクしながら扉を開けると「「いらっしゃいましぇ!!」」と元気な声がお出迎えしてくれます。


 なんという事でしょう!ふわふわ頭にピクピクお耳が可愛い、5歳くらいの獣人の男の子と女の子が手を繋いで迎えてくれたんですよ!猫の獣人さんでしょうか?


 余りの可愛さに動けなくなっている僕に「おとまりでしゅか?」「ごはんでしゅか?」と交互に尋ねてくる二人。可愛いすぎです。


 「ええと、お泊りしたいのですがお部屋空いてますか?」


 この子達の可愛さの余り、悶えるのを我慢して答える僕。僕は決して危ない人じゃないですからね!まぁ、でもこの子達の頭は撫でさせて貰いましたけど。目を細めて笑顔になるこの子達はプライスレスです。ここに来て良かったぁ。


 「あー!またリルとライ勝手に応対して!お客さんごめんなさい!リル、ライ奥で大人しくしててね。サーシャ!サーシャ!二人を見てて!」


 なんともほのぼのしていたら、奥からパタパタと走って来る10歳くらいの猫耳少女。元気な声で奥から来るもう一人の女の子を呼んでいます。


 遅れて来た子は7歳くらいでしょうか。この子も可愛らしい猫耳少女です。ぺこっと僕に頭を下げて、最初に迎えてくれた子達を連れて行きました。


 「お客さん、ごめんね。ウチの宿はこんな感じなんだけど良いですか?」


 ちょっと申し訳なさそうに確かめてくる元気な声の女の子。この子もピクピクお耳が動いて可愛いですね。


 「勿論大丈夫です。しばらく泊まりたいのですが、お部屋空いてますか?」


 「わあ!ありがとうございます!ウチは一泊二食付きで一泊3000ディア、素泊まりなら2000ディアですけど、どちらにします?」

 

 「とりあえず十日素泊まりでお願いしたいのですが、食事したい時はどうすればいいでしょうか?」


 「泊まりのお客さんは朝食一食500ディア、夕食一食800ディアで食べれますよ!今日の夕食はウチのお父さん自慢のオーク肉の煮込みスープなんですよ。食べてみませんか?」


 この子しっかり営業してきますねぇ。慣れてます。実際さっきからいい匂いが漂って来ていますから、ここは是非お願いしましょう。


 「じゃ、今日の夕食もお願いします」


 「はーい!ありがとうございます!じゃ、先に代金頂きますね。20,800ディアです!」


 ええと金貨二枚と銀貨一枚でいいんですよね。バックからお金を出して渡すと銅貨二枚が戻って来ます。手持ちが銀貨七枚と銅貨二枚と少し寂しくなりましたね。後でギルドでおろしておきましょう。


 「じゃ、お部屋まで案内しますね。ミックー!お客さまお連れしてー!」


 よく通る元気な声に呼ばれたのは、7歳くらいの男の子。勿論猫獣人さんです。「コッチです」と言って僕の前を先導してくれます。


 僕の目の前にはユラユラ動く尻尾。動物好きとしてこれは触りたくなりますねぇ。でも危ない人認定はされたくありません。我慢我慢です。…… この時点で危険な人でしょうけど。


 なんて煩悩にまみれていたら部屋についたみたいです。お、角部屋です。ミックと呼ばれた男の子は、先にドアを開けて僕を中に招いてくれます。


 中を見渡すとお部屋は至ってシンプル。ベッドとサイドチェストが置かれているだけですが、きちんと手入れされているのがわかります。


 「説明します。夕食は五の刻になったら食べられますので、食堂に降りて来て下さい。300ディアで身体を拭くお湯をお持ちする事もできます。朝食は一の刻から食べられます。良ければどうぞ。では夕食までごゆっくりおくつろぎ下さい」


 ぼやっとしている僕にしっかり言い終わると、ぺこりとお辞儀をして部屋を退出するミック君。いやぁ可愛いです。今日は目の保養DAYですね。


 残された僕はベッドに腰かけて一息つきます。静かにしていると、壁の薄さから隣の人の声や子供達の遊んでいる声が聞こえて来ます。


 ベッドはやっぱり硬いですね。それでもリネンは綺麗に洗っているのが見受けられます。このお宿は確かに当たりのお宿でしょう。レノさんに後でお礼を言いに行きましょう。


 さて…… 五の刻まで時間ありますし。ゲートを開いて「キイ」の所にでも行きましょうか。


 「ゲートオープン」


 今回はベッドの反対側の壁に扉が現れました。「エア」とリュックを持って中に入ると、「オーナー、おかえりなさいませ」とグランの声が僕を迎えます。


 「ただいま、グラン」


 挨拶をかわしていると、なんか帰って来た感がありますねぇ。もうこのギフト自体を僕の帰る家と認識しているのか、身体の緊張がほぐれた気がします。


 キイの喫茶店に入り「お帰りなさい、オーナー」という優しい声にも癒されます。コーヒーをキイに頼み、コーヒーカップをセットして点滅箇所をタップ。淹れたてのコーヒーを持ってカウンターに座り、エアも出します。


 「はぁぁ、美味しい」


 「オーナーお疲れ様でした。召喚時の清掃、空調、消臭、消音コーヒーのお代も頂き現在のMPは46,787となっております」


 「ありがとうエア。ちょっと考え事しますね」


 「畏まりました。いつでも御用をお申し付け下さいませ」


 楽ですねぇ。ステータスっていわなくてもこの空間にいると、みんなが管理してくれます。駄目人間にならない様にしましょう。


 さて、今日思った事ですがやはり大っぴらにこのホテルを開業するのは時期尚早でしょう。まぁ当分は僕一人ですから、設備の増強に力を入れますか。


 でもお試ししたいですよねぇ。いずれこのホテルやっぱり提供したいですから。


 ここのお宿はいい雰囲気でしたし、レノさん、ジーク君にドイル君、ヴァントさん良い人達でした。ああいう人達に協力してもらえたら助かりますよね…… まぁ難しいですけど。


 んー、できたらグランとキイを補佐するスタッフ欲しいですねぇ。でも完璧に信頼出来ないといけませんし、スタッフルームも必要ですし…… 。考えていたら疲れて来ました。


 「エア〜、なんか疲れて来ました。考える事いっぱいです」


 「お疲れ様です、オーナー。僭越ながら提案してもよろしいでしょうか。オーナーのお国柄疲れた時にはお風呂に入ると回復する、とインプットされています。MP残量も大丈夫ですし、〈大浴場、脱衣場[大浴槽、ジャグジー風呂、ジェット風呂、サウナ付き]男性専用*アメニティ有 MP40000〉を設置するのはいかがでしょうか?」


 お風呂ですか…… そうですよ!お風呂あるんですよね、このギフト!男湯だけで今のところ大丈夫ですし。お風呂に入れると気づいたらなんか気力回復してきましたし。やっちゃいましょう!


 「エア!大浴場の設置お願いします!」


 「畏まりました」


 うわぁ!楽しみですねぇ。

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