第8話 商業ギルドで買取と登録ですージーク君とドイル君を添えてー
いやぁ、異世界にも誠実な青年がいましたよ。
最初は僕が「ここがギルド登録する列で良いですか?」って声をかけたんですが、「はい、僕が最後尾です」と笑顔で答えてくれたんです。
良い感じの子だなぁ、と思って軽く僕から自己紹介し、彼の事も聞いてみました。彼はジークと言う名前で、10歳から今の仕事場[グラレージュ]という大手商店に勤めている事を快く教えてくれたんですよ。
ジーク君曰く、成人(この世界では15が成人らしいですね)になるまで仮の商業ギルドカードは持っていたそうですが、成人を迎え今日やっと正式な商業ギルド会員になるそうです。
話を聞くと嬉しい事の筈なのに、ジーク君は最初緊張している様に見えたんですよねぇ。
「ジーク君、僕が声をかける前なんか緊張してませんでした?」
「あは。顔に出てましたか。実は…… 」
「おい、ジーク。お前の番だぞ、って誰だこの糸目男」
おや、登録していた子も一緒だったんですね。なかなかの男前です。ジーク君も整った顔をしてますし、この二人商会で人気でしょうね。
「ドイル、失礼だぞ!」
「ああ、気にしないで下さい。良く起きてるか寝てるかわからないって言われるんですよ。それよりもジーク君行ってきた方がいいですよ」
窓口のお姉さんコッチ見て待ってますし。
「あ、そうですね。ドイル!ちゃんと謝っておけよ!」
僕に「すみません」と申し訳なさそうに頭を下げてから、受付の方へ急ぐジーク君。そんなジーク君を「さっさと行け」と追い出した後、僕に向き直って「すまなかった」と謝るドイル君。
二人共実直な人柄ですね。好感が持てます。
「いや、大丈夫ですよ。それよりもドイル君でしたか。僕はトシヤと言います。同じ時期に登録するのもこれも縁。これからも顔を合わせるでしょうし、宜しくお願いしますよ」
ニコニコと手をドイル君に差し出します。握手の文化ありますよね?
「あんた、変わった奴だなぁ。登録したばかりの俺らに宜しくって」
苦笑いしながらも握手してくれました。良かった良かった。で、同僚っぽいドイル君に、ジーク君の様子の事も伝えてみたんですよ。そしたら「ああ、この後買い付けに行くんだ」とサラッと言うドイル君。
買い付けでしたか。それで緊張しているんですか。ふむ、と僕が不思議そうな顔をしていたのがドイル君もわかったんでしょう。
「野営の準備から何から何まで俺達で準備して、店に新たな商品を見つけてくる様に言われているんだ。いわば新人教育の一環なんだ。ジークは人一倍責任感が強いからな。気負っているんだろう」
と、ドイル君が補足してくれました。この子も商人として人の機微には聡いのでしょう。鍛錬されていますねぇ。…… でも買い付けですか。一瞬、僕の商品を伝えようかと思いましたが、新人教育の一環の場を潰してはいけません、と思い直します。
「そうでしたか。では帰ってきたら何を仕入れてきたか見に行っても良いですか?」
「ふはっ。あんたが俺らの仕入れてきた商品の一番目の客になるのか?」
お、笑ってくれましたね。少し気を緩めてくれたのでしょうか。
「同じ商人として気になりますし」
「だったら俺らが仕入れてきた商品を見にくる時、あんたの商品も持ってきてくれよ。あんたが何を扱っているのか興味ある」
「それは良いですね。そうしましょう。ではいつ頃お店に伺えば良いでしょう?」
直ぐ様提案に乗る僕。直感ですけど、この二人との縁は持っていた方が良いと思ったんです。
「そうだな…… 親父さんから一週間以内って言われているんだ。悪いが万が一の事も考えてあんたの商品も選択肢に入れておきたい。今日を入れてきっかり五日後に店に訪ねてきてくれるか?」
流石商人ですね。しっかり僕の商品も視野に入れてきましたか。
「構いませんよ」
ドイル君とそう話し合いしていると、「お待たせしました!」とジーク君が僕を呼びにきました。タイミング良いですねぇ。
「では登録行ってきますね」
「ああ、五日後忘れないでくれよ」
僕が片手を上げて挨拶し窓口に向かうと、ドイル君も僕の背に向かってしっかり念を押してから、入り口に向かって歩いて行きます。ジーク君はわからないながらも、僕に「失礼します」と言って急いでドイル君の後を追って行きました。
なかなかいいビジネスパートナーですね、あの二人。
「あの、登録を始めてよろしいですか?」
僕が窓口にきても声をかけないものですから、不思議そうに聞いてくる窓口のお姉さん。
「あ、失礼しました。お願いします」
返事をして改めてお姉さんを見てみると、今度は可憐系のエルフのお姉さんです!いやぁ、目の保養の宝庫ですね、ここは。
「コホン。ではようこそ商業ギルドへ。商業ギルド登録には年会費と入会費合わせて金貨1枚と銀貨2枚が必要ですが、宜しいでしょうか」
「ええと、できれば買取金額から支払いをしたいのですが、出来ますか?」
「では先に品物を見せて頂きたいので、上の個室に移動致しましょう」
お姉さんは慣れた様子で直ぐに代わりの担当を呼び、窓口カウンターから出て来て僕を先導してくれます。
カウンター横の階段を上がると、広い通路に個室がズラっと左右に並んでいます。人の行き交いも結構ありますね。皆さん番号札を持っていてその番号の部屋に入って行く様子が伺えます。
そうしていると、目的地についたみたいですね。お姉さんがカチャッと扉を開けてくださり、個室に僕を入れてくれました。
室内は四畳半くらいで、テーブルと向かい合わせの椅子二脚があり、内装は商業ギルドに恥じないシンプルで上品な雰囲気です。
中を珍しそうに見ている僕に、手前の椅子に座る様にお姉さんが案内してくれます。お姉さんが真向かいに座りましたから、お姉さんが鑑定するのでしょう。
「では買取も担当させていただくレノと申します。宜しくお願いします。早速で失礼ですが、お持ちの商品を出して頂けますか?」
「はい。これなんですけれど」
僕はリュックの中からタオルセット1組を出して、レノさんの前に置きます。レノさんが早速手に取り、黙々と触り心地や材質などをチェックしていきます。品質には自信がありますが、なんかドキドキしますね。
ピタッと動きを止めてレノさんが僕の方を向きました。緊張の一瞬ですね。
「お待たせ致しました。とても良い商品をありがとうございます。こちら品質は最高品質ですね。現在ご用意できる枚数は何枚ほどでしょうか?」
これは良い反応ですね。うんうん、良かった。
「現在大判タオル10枚と、小さめのタオル10枚用意しています」
「ではすべて買い取らせて頂きたいのですが、大判タオルは一枚につき金貨1枚、小さめのタオルは一枚銀貨5枚で金貨15枚で買取はいかがでしょう」
ええと、金貨15枚って15万ディアって事ですよね。うーん、凄い!僕は良いですけど、大抵最初ってかなり値引いた金額を提示するんですよね。商人さんって。
どうしましょう、今はお金がいくらあっても良いしちょっと粘ってみましょうか。
「レノさん、最高品質なんですよね。であればもう少しなんとかなりませんか?」
「そうですね。では大判タオルは1枚金貨二枚、小さめタオルは1枚につき金貨1枚でいかがですか?」
なんかサラッと倍額言って来ましたね。それでも利益取れるんでしょう。商人やっぱり恐るべし。…… でも僕はこれで良いかなぁ。うん、良い事にしましょう。
「わかりました。その金額でお願い出来ますか?」
「はい、畏まりました。では金貨30枚で商談成立です。では本来の目的の登録へと移行させて頂きます。まずはこちらの紙に記入をお願い致します」
レノさんがどこからだしたのか、スッと羽ペンが出てきました。アイテムボックスみたいなの持っているんでしょうか?後で聞いてみましょう。
しかし、文字は読めるんですが、日本語で書いてわかるものでしょうか?まあ、駄目なら言って来るでしょうし、書いてみますかね。
ええと、名前と年齢ですね。あとは利用規約が書いています。…… 簡単に纏めると販売方法と手続き、ギルド会員ランクについて書いてあるみたいです。
販売方法は路上販売、屋台販売、お店での販売です。路上販売、屋台販売は毎日登録必須なんですね。お店は年間契約。
ランクはアイアンランクが仮登録者、ブロンズランクが新人と中堅の売り上げの人達、シルバーランクは有名店、ゴールドランクは商業ギルド、冒険者ギルド、王家御用達みたいな感じです。
それぞれランク上がる毎に専属スタッフがついたり、土地の斡旋や税金の免除、商業ギルドからのサポートなどがつくみたいですけど、ランクが上がると年会費も上がるという仕組みになっていました。成る程。
僕はブロンズランクスタートです。そして商業ギルドにはお金を預ける機関もあるそうです。預けたお金は商業ギルドであれば引き出し可能ですって。
引き出す時はギルドカードが必要で、ゴールド、シルバーランク店、一部ブロンズ店はカード払いもできるみたいです。現金持ち歩かなくて良いのは便利ですね。まあ、大半は現金払いらしいですけど。
全部読み終えて、利用規約に同意サインもしてから、何も言わずにレノさんに「出来ました」と渡してみます。レノさんの反応は普通で、チェックがすぐ終わりましたから、多分この世界の文字に変換されたんでしょう。内心ほっとしました。
「ではトシヤ様。カードに魔力登録致します。こちらの魔導具に指をつけて頂けますか」
「はい」
レノさんが人差し指が入る形の丸い魔導具をアイテムボックス?から出しました。なんか指紋認証の道具みたいです。指示の通りに指をいれると、魔導具のランプ部分が透明から青に変化しました。これで魔力登録になるそうです。面白いです。
「はい、ありがとうございます。指を外して下さい」
指を離すとレノさんは紙と魔導具を手に取り、「ではカード作成に少々時間頂きます。このままお待ちくださいませ」といって部屋を退出して行きました。
ふぅ、なんとかなりましたね。今のうちにタオルセット全部出しておきましょう。「エア」に頼み《トランクルーム》から残り9セット出しておきます。
待っている間「エア」に「静かでしたねぇ」と話しかけると、『オーナーの良き経験になると思いまして』と文字で返事をして来ました。ウチのAIに感心していると、ガチャッと扉が開きます。
「トシヤ様、お待たせ致しました。こちらがトシヤ様のカードになります。年会費入会費合わせて残り金貨28枚、銀貨8枚お持ち致しましたが銀行のご利用はいかがなさいますか?」
「そうですね、金貨2枚と銀貨8枚残して全て預けます」
「畏まりました。では品物もチェックさせて頂いた上でお渡し致しますので少々お待ちくださいませ」
レノさんはキビキビと仕事をこなしていきます。みていて気持ち良いですね。僕もこうありたいものです。まぁ、僕の場合優秀な「エア」達がいますから大丈夫なんですけど。
あ、終わったみたいですね。チェックを終えたレノさんからお金を頂き、確認してから預金の分を戻します。
「ではトシヤ様のカードに入金しておきます。本日は良い商いをありがとうございました」
レノさんの言葉にお互いに笑顔で握手を交わし、部屋を退出します。ホクホク顔で出て行こうとするも、ドアノブに手をかけたところでハッと思い出し、レノさんに振り向く僕。
「レノさん、良いお宿教えて下さい!」
やっぱりスマートに帰れない僕なのでした。
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