転移
持ち込んだ探査機器をそのまま稼働して、溶岩に埋まったナイアガラには、惑星内の探査を継続してもらう。
六人は、とりあえずヴォルトを経由して、オンタリオへ戻った。
各自が船外服を脱いでシャワーを浴びるなどの身繕いを終えると、三階の居間へ集まった。
「どちらにしろ星域全体の調査のために、オンタリオで移動する必要があるだろう?」
ジュリオは精神に干渉する類の魔法とその防御方法の実験台にされて、心が疲れ切っている。
それは、ケンもシルビアも同様だった。
「そうだな。第二惑星の調査もやっておかないと」
「今日見たあれってさ、事故というよりも、大規模兵器による戦争の痕跡よね……」
「そうだろうね。第二惑星も似たようなものなのかも」
「星域内の内戦で、全滅したのかなぁ」
「行く前に、シルとアイオスにもっと調べてもらいたいのだ!」
「そうね。やってみる」
「じゃ、夕飯の支度をしている間に、アイオスに頼んでよ」
「今日はわたしたち魔法使い組が働くから」
「私はどっちなのだ?」
「エレーナはどっちかっていうと実験台だったから、休んでいて」
「わかったのだ」
そうして、コリンとニアが厨房へ消える。
「あの二人は、あれだけ魔法を使いまくっても、疲れないのだ……極めて異常なのだ」
「でも二人でテーマパークから帰って来た時はへばっていたぞ」
「あれは、魔法を使えなかったからなのだ……」
「なるほど」
食事をしながら、それまでに判明したMT崩壊以前の少ない情報をまとめて説明する。
あの廃墟となっていた惑星は、以前店の営業をしたことのあるIL―08星系から比較的近い。オールドアースから銀河の中心方向へ寄ったサギタリウス腕に近く、第四惑星『アルマ』で営業し、地表に降りて観光した場所だ。
「ああ、あの惑星間レースをやっていたところだな」
「そう。海岸にレース艇が落ちてきたところよ」
「うわぁ、思い出したくもない……」
そこから軽く100光年は離れているが、他に人類の居住惑星が少ないので、銀河ネットの中ではあそこが比較的近い場所だと言える。
IL-12aと呼ばれる星系で、当時の第三惑星は栄えていて、メタアースと名乗っていた。
しかし惑星の環境が悪化し激しい気候変動により暮らしにくくなった地表から地下都市へ移住すると同時に、第二惑星の開拓に着手した。
そこから先は、前にアイオスの言った通り。
第二惑星は順調に環境が改変されて移住者も増え、遂には独立を宣言したが、メタアース側はこれを認めなかった。
そんなごたごたしていた時期に、MT崩壊が起きたようだ。
「あとは、第二惑星に行ってみるしかないわね。メタアースがあの状況では、期待薄だけど」
「なるほど。目標の座標に問題がないなら、明日にでもこの船で転移してみるか?」
「そうね」
「二人がそう言うのなら、反対しないよ。僕とニアが先に偵察してきてもいいけどね」
「それはいけないのだ」
「そうだぜ。行くならみんなで一緒だ」
「わかったよ」
翌朝、朝食時にミーティングを行い、慎重を期すために星系の外縁付近へ転移して詳細調査を行いながら第三惑星へ接近する、という計画を確認した。
ステルス状態で転移をしたとたんに、船内に警報が響く。
「おい、また変な時間に来ちまったのか?」
ジュリオが悲鳴を上げるが、すぐにアイオスの冷静な声が船内にアナウンスする。
「第四惑星に居住者を発見。本船はステルス状態を維持したまま観測を続けます」
「居住者だって?」
「生存者?」
「千五百年前の?」
「まさか、いきなり攻撃されたりしないよね」
「ステルスレベル4で防御障壁の出力最大、心配無用です」
アイオスは自信たっぷりだが、未知との遭遇は不安を巻き起こす。
「えっと、居住者は人類だよね?」
「傍受した微かな通信プロトコルは古い銀河標準通信に準拠しています」
「千五百年前の?」
「いえ、ほんの百年から二百年ほど前の仕様ですね」
「どういうことだ?」
「周辺に転移ゲート装置はあるのか?」
「全く探知できません」
「僕にも探知不能」
「アイオスとコリンがないって言うのなら、ないのね」
「やはり孤立した星系なのか」
「銀河ネットを傍受している可能性が高いな」
「銀河ネットから何光年だっけ?」
「約百光年」
「一世紀遅れの最新情報か。意外と故郷のエランドより近代的かもな」
「……情けない話だが、あり得るよなぁ」
「……」
「どうして第三惑星にいた時に、気付かなかったのよ!」
珍しくアイオスが叱られている。もちろん、お相手はシルビア女王陛下だ。
「スミマセン」
「いや、ナイアガラの船体は千五百年の休眠から目覚めたばかりで回復途上だったし、仕方がないよ……」
「ああ、確かにそうね」
コリンの説明で冷静さを取り戻したシルビアが、観測データを確認する。
「それにしても、第四惑星からの反応が微弱だわ」
「うまく隠れているのだ……」
「危険な奴らでなければいいが……」
「できれば先に、第二惑星を調べたいんだけど、どうかな?」
「そもそも第三惑星であれだけコリンとニアがドンパチやったんだから、既に厳戒態勢で待ち構えているんじゃないか?」
「どうだろう。アイオス、第三惑星に何か変化はある?」
「いえ、特に何の変化もありません」
「第二惑星の方は?」
「そちらも観測上は何の変化もなく、探査機や衛星など稼働中の人工物は二つの惑星には存在しません」
「受動センサーの類が稼働した形跡もないの?」
「はい。記録上は全くの沈黙です」
「第四惑星はどうなの?」
「百を超える人工物が第四惑星の軌道上を周回していますが、転移ゲートステーションや小規模コロニーサイズの構築物は近隣に存在しません」
「少なすぎるな。どういうことだ?」
「ここの文明はそこまで後退しているのか?」
「少なくとも確認できる技術レベルでは、我々の船を探知可能な能力は保持していないでしょう」
「いやアイオス、ヴィクトリアで軍の包囲から逃げ失せたこの船を感知するようなのがいたら、大変だよ」
「ケンの言う通りだ。じゃ、第二惑星の近くへ転移してみようか」
「賛成!」
短距離転移で、第二惑星の軌道に移動した。
第三惑星と同様に、水のない乾いた惑星だが、恒星に近い分だけ大気温は高い。
しかし惑星表面には第三惑星同様の廃墟が見えるだけで、生物の痕跡はない。
ここも放棄された惑星のようだった。
「第四惑星に移住した人類だけが生き残ったのね」
「第四惑星は、地球型の大気を持っているのだ」
「第二惑星へも降りてみたい?」
「いや、オレはもういい。探査機を送ろう」
「そうだね。先ずはそれで様子見だ」
コリンが探査機を何台か抱えて転移し、すぐに戻って来る。
「意味ねーよ、それ」
「コリンが行ったんだから、自分で調べて来ればいいじゃん」
「いや、ここから探査機を発進したら、地上に着くまで時間がかかるかなって思ったんだけど……」
「もういっそのこと、今すぐコリンが第四惑星に行って様子を見て来れば?」
「そうね。住民に失礼があるといけないから、ニアはダメよ」
「すぐ喧嘩になるから、シルもダメなのだ」
「わたしは一緒に行く!」
「だ、ダメだよ、そんなの。全員を強制的に同行させるからね」
「や、やめてよね!」
「勘弁してほしいのだ」
「とにかく、この惑星の調査が先だ」
「うーん、それならニアと二人で第二惑星に行こうか。探査機と離れた場所を調べれば、時間の節約にもなるし」
「はいはい、気を付けてね」
「ニアは、宇宙人と出会っても、いきなり攻撃してはいけないのだ」
「しないよ!」
軽口をたたきつつ、二人の姿が消えた。
「うわっ、もう行きやがった」
「あいつらの前じゃ、うっかり冗談も言えないな」
「今更何を言っているのだ。いつもの事なのだ」
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