第14話 挑戦状

 ランキングバトル2位の男、神龍寺司しんりゅうじ つかさ


 彼の持つチャンネル【俺と嫁竜チャンネル】はその資料性の高さとチャンネル主の奇行から大人気。

 チャンネル登録数はなんとチャンピオンを越える250万人。

 テイマー界隈どころか日本でも有数のトップ配信者である神龍寺司の投稿した動画が話題となった。


『【挑戦】俺は仮面のテイマーと戦いたい!』


「高尾ダンジョンでの配信を見させて貰った! 素晴らしい……俺は貴様を気に入ったぞ仮面のテイマー。貴様は俺と同じ【最強】を目指す者と理解した。それはすなわち俺のライバルということだ! そこでだ! この俺と直々に戦う権利を与えてやる! 来週の日曜……18時! 我が神龍寺財閥の所有する神龍寺ドームにてこの俺とテイマーバトルをしてもらう! 逃げることは許さん! 貴様もそのワームも叩き潰してくれるわははははははは!!」


「あの神龍寺さん……その時間の神龍寺ドームは野球のナイターが……」


「そんなもの、俺の権限で中止とする!」


「「「「えええええええええ」」」」


「あと仮面のテイマーよ! 俺はお前のチャンネルを登録したしお前のSNSもフォローした。なのに何故リフォローしないのだ! 俺が勝ったら俺のSNSをフォローして貰うからな!!」


***


「何これ?」


 華の金曜日をなんとか浅い残業で終えた一果は自宅にて二虎、泉と夕食をとっていた。

 そんな中で泉が「そういえば神龍寺司の挑戦は受けるんですか?」と聞かれて「何それ?」と返したのがきっかけで、この動画を視聴しはじめたのだ。


「あはは、ビックリするくらいイケメンなのに挙動と言動がすべてを台無しにしているねこの人」


 と無邪気に笑う一果。


「ですが神龍寺財閥といえば、系脈を辿れば先輩の会社もその傘下に収まっているのでは?」

「よく見たら物凄くイケメンだねこのお方は」

「おい」


 二虎の突っ込みにペロリと舌を出して笑う一果。


「というか、ここ数日あれだけ話題になっていたのに当事者の先輩は知らなかったんですね」

「う~ん。今週はずっと残業だったからなぁ」


 チャンネルのことも殆ど泉に任せてしまっている。

 その分のお金はきっちり払うつもりだが、元々親しい仲ということもあって頼りすぎてしまうのだ。


(泉ちゃんとっても有能な子。独立して法人化して……なんとかこの子を引き込めないかな)


 と密かに画策している一果だった。


「ってか神龍寺司をあまり知らないなんて珍しいね。CMとかもバンバン出てるのに」

「芸能人もテイマーも興味ないからね。そもそもテレビ見ないし。あ、でもこっちは知っているよ」


【俺と嫁竜チャンネル】のトップ画面に写る白い竜を指差す。


 プラチナム・ロード・ヴァルキリー・ドラゴン。縮めてプラチナムドラゴンと呼ばれる白き竜。

 一果たちがこの前戦った地竜や飛竜などの恐竜系とは違う、正真正銘のドラゴン種である。


 プラチナムドラゴンはドラゴンの中でも最も希少とされていて「この世で最も美しい生命体」「神に最も近い存在」と言われている。


 現状確認されている個体は3体。


 その3体全てが神龍寺司によってテイムされている。


「しかしこれほどのドラゴンを3体も従えておいて、どうして彼はランキング2位なんだい?」


 一果は当然の疑問を口にした。


「ランキングトップを決める年末のリーグ戦はテイマーがモンスターを7体使う7VS7のフルバトルで決まるのです」

「なのにこの神龍寺司って男は『俺はプラチナムドラゴン以外使わん!』って言って、3体で挑むのよね」

「なるほど。7体きっちり揃えてきてるチャンピオンには敵わないってことなのね」

「そゆこと」


 逆に言えばチャンピオン以外には3体だけで勝っているということ。

 もしルールさえ守れば1位でもおかしくない実力者ということだった。


「それで、結局どうするのですか?」

「う~んどうしようかな」


 テフテフがどこまでも強さを求めるのなら、いつかは戦ってみてもいい相手だ。

 だが冷静な分析として、今のテフテフではまだあのドラゴンには届かないのではないかと思った。


「私は挑戦した方がいいと思うよ~」


 と言うのは二虎。


「配信者なんて目立って上等の世界だし。あ、あくまで健全な方法で……だけどね」

「私も賛成です。本来なら頭を下げて一緒に仕事をして頂くような日本のトップ配信者が向こうから絡みに来てくれているのです。ここはコラボだと思ってオーケーしても良いのでは?」

「コラボって……」


 そう言われると急に肩の力が抜ける。


「テフテフはどう思う?」


 珍しくパソコンの画面を食い入るように見つめるテフテフに尋ねてみる。


「きゅっぴ!」

「この白い竜と戦いたいの?」

「きゅぴきゅぴ」

「あれ違うの? それじゃあキミはどうしたい?」

「きゅっぴ!」

「……ッ!? そっか。そうなんだ」


 テフテフの言葉に一果は静かに頷いた。


「え、何何?」

「先輩、テフテフさんはなんと言ったのですか?」


「『戦いたいんじゃない。勝ちたい』ってさ」


「まったくもう……この子は」

「流石ですね。それでこそテフテフさんです。ということは先輩は?」


 泉の言葉に一果はゆっくり頷いた。その目には熱い闘志が宿っている。


「この話、受けるよ。それで泉ちゃん。向こう側とのやり取り、お願いしてもいいかな?」

「もちろんです! お任せください」


 キラリとメガネを輝かせ、頷く泉。


「で、一果はどうするの? 準備期間、実質明日しかないんでしょ?」

「一果先輩のことです。あのプラチナムドラゴンを倒す秘策が何かあるんですよね?」


「う~ん、正直かなり微妙かな」


 一果の弱気な発言に驚く二虎と泉。


「何よ、珍しく弱気じゃない」

「私はいつも弱気だよ。いつも、いつだって『これでよかったんだろうか』って思ってる。でもさ」


 いいつつ、テフテフの背を撫でる。


「この子が勝ちたいと願うなら、自分のすべてを賭けて勝たせる。それがテイマーなんだよね」


 一果の言葉に二人が頷いた。

 テフテフは未だに画面に写るプラチナムドラゴンを見ている。


「わかりました。では諸々の手続きは私がやっておきます。明日1日、先輩の時間はテフテフさんのために使ってあげて下さい」

「いつも悪いね」

「いえ。先輩に尽くすのは私の幸せでもありますから」


さらっととんでもないことを言われた気がするが気のせいだろうか。


「それで一果はどうするのよ?」

「最強種のプラチナムドラゴンと戦える機会なんて滅多ないからね。ちゃんと準備をさせてもらうよ」



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