第12話 望まれぬ来客
「ふう……上手くいきましたね」
「上出来も上出来よ! 同接3200人! チャンネル登録者は今日だけで2000人! もう明日にでも収益化可能だわ」
配信後の高尾ダンジョン施設内のカフェテリア。
有料個室席にて喜ぶ二虎と泉。
「はい。これからこの配信の見所を切り抜き動画として順次アップロードしていく
予定ですので、チャンネル登録者はどんどん増えていくでしょう」
「当たり前よ! これだけ凄いことをしんたんだもん!」
「二虎先輩、まるで自分のことのように誇らしげですね」
「親友が凄いことを成し遂げたんだから、誇らしくて当たり前でしょう! アンタは違うの?」
「……違いありません。大好きな先輩の活躍、テンションがブチ上がりました」
「正直でよろしい。はぁ……これで一果も脱サラできるのね」
「はい。まだ万全とは言えませんが、会社を辞めても問題ない収益は確保できるでしょう。データクリスタル獲得で国から報奨金も出るでしょうし」
データクリスタルは国に回収されてしまうものの、国の技術に発展に貢献したとして報奨金が支払われることになっている。
ちなみに税金は……掛からない!
「はぁ~なんか今日は大学時代に戻ったみたいで楽しかったわ」
「ですね。ゼミにいた頃は毎日こんな感じでした」
「一果が仕事辞めたらさ。またこうやってみんなでワイワイ楽しめるかな?」
「ええ。大丈夫ですよ。きっと」
砂糖多めのコーヒーを一口啜り、二虎はアンニュイな様子で言った。
「私ね……ずっと一果が心配だったんだ。あの子、会社じゃ本当の自分を殺して頑張っているみたいで」
「……ええ」
「わかってはいるんだよ? 自分の好きなことで生きていける人間は限られてる。殆どの人はそれを我慢して、歯を食いしばって必死に働いているって。でも一果は……」
「半年ほど前にお電話を頂いたとき、一果先輩はこう言っていました。『食事? ああ、最近はめんどくさくてさ~』と。ほぼプロテインとサプリメントだけしかとっていないとおっしゃっていました」
「……なまじスペック高いからそれでもなんとかなるだけどね、あの子」
皆、自分の事に無頓着な一果を心配していた。
職業柄時間に融通の効く二虎が定期的に家に押しかけ、鍋パやたこ焼きパーティーをして一果に無理矢理食事をさせていたのだ。
「だから私、あの子には感謝してるの」
「テフテフさんですか?」
「うん。あの子のお陰で、一果は変わった。きっといい影響を受けているんだと思う」
「テフテフさんは強い子です。身体ではなく、心や精神が」
「うん。なんかテフテフと一緒の一果は安心して見ていられる。だからあの子が来てくれて本当に良かったって思うんだ」
「私もです。きっとテフテフさんが私たちを再び繋いでくれたのでしょう。今日は久々にお二人にお会いできて、本当に楽しかった」
「私もー。でも今日だけじゃないよ。これから一果とテフテフはもっともっと有名になって……きっと凄いことをするんだ!」
「フッ。違いありませんね」
ブーブー。
その時、二虎のスマホが鳴った。
「なんだろう、一果かな? あ、違う……
六花こと
泉よりさらにもう一つ学年が下だった、一果の大学時代の後輩である。
そして、現在捨てモンスター保護のボランティアをしている大学生。
保護したワームを一果に手渡し、二人が出会うきっかけを作った人物である。
『あ、二虎先輩!? 良かった繋がった~』
「どうしたのよそんなに焦って」
『二虎先輩、一果先輩と一緒じゃないですか? 一果先輩には繋がらなくて』
「一緒っちゃ一緒だけど……どうしたのよ?」
『良かった。だったら今すぐそこから離れて下さい!』
「離れるってどうして……?」
「六花。一果先輩はまだダンジョンから出てきてません。理由を説明してさい」
『泉先輩もそこにいる!? と、とにかく離れて下さい』
「いいから事情を説明しなさいよ!」
六花から事情を聞いた。
どうやらテフテフがバズった時、テフテフの前のテイマーから六花の元に連絡があったらしい。
『あれは元々僕のモンスターだ。返せ』と。
「あんた……まさか一果のこと売ったんじゃないでしょうね?」
『そんなことしません。新しいテイマーの個人情報は守秘義務です。教えていません……けど』
「なるほど今日の配信……高尾ダンジョンを攻略していると知れば……」
『そう……前のテイマーさん、高尾でワームを返して貰うから、そしたら払った罰金も返して貰うからなって』
テイムモンスターを不法に捨てた場合、国に安くない罰金を支払わなくてはならない。また放したモンスターによっては禁固刑もありあえるのだ。
今回のテイマーは家が裕福だったため、父親が罰金を肩代わりし、軽い口頭注意だけで終わってしまったのだ。
「何よそれ!? 自分勝手過ぎるでしょ!」
「二虎先輩。都内から高尾まではおよそ1時間から2時間……配信を見て出かけたのだとしたら……」
「もうこっちに着いてるってことじゃない!」
二虎と泉は急いで配信機材を片付けると、カフェを後にした。
『もちろん法的にも倫理的にも先輩がワームちゃんを返す必要はありません。ただ相手がどんな手を使ってくるか……すみません、私も今そっちに向かってますので、先輩を守ってあげてください』
***
***
***
一果とテフテフが外に出ると、チャラそうな外見をした男が立っていた。
年齢は大学生くらいだろうか。
整った顔立ちに軽薄そうな笑みを浮かべている。
「私に何か用なのかな?」
「そんな感じです。あ、配信見てましたよ? チャンネル登録はしてませんけど」
「そりゃどうも」
「きゅっぴー!」
「何、テフテフ知り合いなの?」
「きゅっぴ!」
「お~久しぶりだなテフテフ~元気だったか~?」
「きゅっぴ!」
「もしかしてキミは?」
「そう。テフテフの前のテイマー。ってかお姉さん結構綺麗ですね~。仮面なんて外せばもっと人気でそうなのに」
全身をなめ回すような視線に、一果は嫌悪感を抱く。
「それは個人の自由でしょ? で、用件はなんなの?」
目の前の男の態度に警戒を強める一果。
何故なら、一果はこの男の言うことがわかっていたからだ。そして男は案の定、一果の予想通りの言葉を口にした。
「ええ、今日はお姉さんにお願いがあって来ました。そのワームを……僕の大切な友達……ワームを僕に返してくださいってね」
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