第11話 あっさりボス攻略

 プラントザウラー。高尾ダンジョンの最終ボス。


 巨大なアンキロザウルスのような地竜に寄生した植物型のモンスター。アンキロザウルスの背に巨大なラフレシアのような花を咲かせ、歩き回りながら獲物を求めて動き回る。

 身体を突き破って生えている無数の触手は意志をもったように動き回り、小型の魔物を捕らえ、花の奥になる捕食口に放り込み魔力を補充している。

 三階建ての一軒家を軽く越える大きさは、上空から見れば活火山のようである。


「巨大な地竜と背中の花に圧倒されますが、本体は体内にあるコアなので完全に消し去るしかないんですね~。肉体に埋め込まれた種が発芽すると徐々に肉体の支配権を奪っていって、気付いたら種に身体を乗っ取られている……怖いですね~」


 と再び謎の解説口調になった一果。


『怖い……あれ、これどこかで聞いたような』『同じことしてる人がいましたねぇ』『怖いな~怖いな~』


 怒濤のツッコミが入るが軽く無視。


「宝箱も確認。よし、戦闘に移るよテフテフ!」

「きゅぴ」


 ボスが守護する宝箱も発見。

 宝箱の中にはボス撃破の証となるエンブレム。そして人類の知らない技術が封印されたデータクリスタルが収められている。

 ちなみに今配信を盛り上げてくれているドローンカメラも北海道オロロンラインの小さなダンジョンで見つかったデータクリスタルから得られた技術で作られたものだ。


「撒き散らせ――【溶解液】最大出力!」

「きゅぴー!」


 毒々しい溶解液を空から撒き散らすテフテフ。


「ぎゅごおおおおおお」


『効いてる効いてる!』『大ダメージだ!』『溶解液強すぎイ』


「さらにワイバーンの【火炎烈弾かえんれつだん】」

「ぎゅっびー」


 ワイバーンの口から放たれた巨大な火球はプラントザウラーの肉体を焼く。


「ぎゅごおおおお」

「さっ……どんどん行くよ!」


 【溶解液】と【火炎烈弾】による連続攻撃。

 まず始めに背中の花の部分が消滅。だが攻撃の手を緩めることはしない。


『敵が膝をついたぞ!』『行ける行ける!』『このまま押し切れ!』『ってかワイバーンかなり強くなってない?』『確かに火球の大きさが……』


「ああそれはねー。私が魔力を込めて能力を底上げしているからだね」


『マジか』『凄まじい魔力量だな』『アンタなんで今まで無名だったの?』『でもこれワーム単騎攻略って言えるのか?』


「言えるはず……言えるよね?」


 そんなやり取りを繰り返している内に、えぐれたプラントザウラーの背から種のようなものが露出する。


「よし、トドメだ【火炎烈弾】最大出力――【業火烈弾ごうかれつだん】!」

「ぎゅっびいいいいいいい」


 ワイバーンの残り全魔力を注いだ巨大な火球がプラントザウラーの全身をバラバラに破壊した。


『すっげえマジで勝った!』『意外と楽勝やったな!』『まさか上級ダンジョンクリアの瞬間が見られるとは!』


「……いや」


 プラントザウラーの身体は消滅した。


 だが、ボスを倒したら開くハズの宝箱は開いてはいなかった。


***


***


***


「ギャス……」スヤスヤ


 魔力を使い果たし眠ってしまったワイバーンを【傀儡糸】から解放した一果とテフテフは周囲を探索する。

 すると、ラグビーボールほどの大きさの種子を発見した。


「これがコア……ボスの本体だね」


『なるほど』『これを破壊しないとクリアじゃないわけか』『けどどうやって?』『見た目は細長いスイカといったところか』


 表面を指でつついてみる。


「確かに表面はスイカぽい。やっぱり植物なんだね。テフテフ――【溶解液】」

「きゅぴ」


 吐かれた溶解液は種子に降り注ぐが、まるでコーティングされているかのように何も起こらずに液が流れていく。


「火炎弾も直撃していた。にもかかわらず無傷なことを考えると……魔力由来の攻撃に耐性があるのかも」


『ん?』『というと?』『どういうことだってばよ』


「つまり物理的な攻撃じゃないと破壊できないってことかな。ちょっとテフテフじゃ厳しいかも」


『マジかー』『ここまで来て勿体ない』『流石ボスしぶとい』『くやしいですね』


「ねーこんなスイカみたいな見た目ですぐ割れそうなのに……スイカ……スイカ……そうだ!」

「きゅぴ?」

「ねぇテフテフ。【弾力糸】を細い輪っかにできる?」

「きゅっぴ!」


 一果の言っていることを理解したテフテフは、器用に【弾力糸】で輪ゴムを作ってくれた。


「輪ゴムより強力な力を持った糸輪ゴムの完成! テフテフ、これを沢山作れる?」

「きゅっぴー!」


『輪ゴム……あ』『輪っか気持ちよすぎだろ』『スイカ……輪ゴム……あ(察し)』『あんた、まさかアレをやるつもりか!』


「お察しの通り。テフテフ製のこの輪ゴムを……んっ。よし。引っかかった」


 プラントザウラ―の種子に輪ゴムをひっかける。


「これをひたすら繰り返す」

「きゅぴ」


『マジで輪ゴムスイカ割りやるんかw』『持ち良すぎだろ』『こんなんでボス倒せるか?』『でもちょっと変形してきたぞ』


 そこから10数分、ひたすら輪ゴム状の【弾力糸】をコアにひっかけていく。

通常の輪ゴムより伸縮性が強いためか、短い時間でコアは変形していき……。


――バゴオオオオン


 力に耐えきれず、砕け散った。


 そして、それと同時に宝箱が開く。


『おおおおおおおおお』『割れたー!』『上級ボスがこんなんでw』『グロいww』『マジでワーム単騎でクリアしやがった!』『ワイバーン「俺もいるぞ」』『歴史的瞬間や!』


「最後は昔のオモシロ動画みたいになっちゃったけど、なんとかテフテフの力だけでクリアできたみたいだね」

「きゅっぴ!!」


『宝箱!宝箱!』『早く中を見せてくれ!』『ダンジョンクリアの瞬間ってなかなか動画になってないんだ!』


「へーそうなんだ。別に面白いものは入ってないけどね~」


『なんだその何回もダンジョンクリアしているような口ぶりは』『まぁこの人なら驚かない』『ワームだけじゃなくてこの人もかなり凄い人だよな』


 一果が宝箱に手を突っ込む。


「これがこのダンジョンをクリアした証……エンブレム」


 長さ10cmほどの山と数字の8を象った金属製のエンブレム。


「そんでこっちの水晶みたいなのがデータクリスタル。ね、面白くないでしょ?」


『いや面白いが?』『スゲェ初めてみた!』『ここから新しい技術が生まれるのか!』『いや未知過ぎて解析できないことが多いらしい』『ってかこれ個人の所有物にできないんだよね?』


「そう。ダンジョン内で得たものは全てダンジョンの管理人……まぁ国だね。国に渡すことになっているよ」


『マジかー』『国許せん!』『いやダンジョン入る時に誓約書書くし』『じゃなきゃ金かけてダンジョン運営なんてしないって』『せめてこのクリスタルを役立ててくれることを祈る』


「あはは。それにね、全部を国にとられるわけじゃない。ダンジョンで手に入るものもあるよ」


『え?』『それは何?』『まさか……』


「そう。思い出! ここまでの冒険が何よりの宝物だってね」

「きゅぴ!」


『くっさ』『wwww』『おもんな』


 最後に微妙なことを言いつつ、一果はこの配信を終えようとする。


「さて、それじゃ今日は見てくれてありがとう。配信って初めてだったけど、楽しかったよ。またいつかやりたいな」


『是非!』『次はどのダンジョンを攻略するんだw』『ってか国から依頼来るだろw』『えーもう終わり!?』『もっと話が聞きたいぜ』


「ん~続けてもいいけど……ここから数時間はただの帰り道だよ?」


 ゲームと違い、クリアしたら入り口までワープというようなことはない。

 一果はこれから今来た道を歩いて戻らなくてはならないのだ。


 因みにテフテフは疲れてウトウトとおねむ状態だ。


「まぁみんなが雑談付き合ってくれるなら暇潰しになるかなー」


『乙でしたー』『楽しい配信だったぜ』『チャンネル登録しました。じゃ』『気をつけて帰って下さいね』『家に帰るまでがダンジョン探索だぜ』


「えーみんな冷たいなー」


 その後、走って出入り口まで戻っているところでテフテフが復活。

 適当なワイバーンを操って出入り口まで戻った。


「ワイバーンタクシー最高」

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