第9話 ダンジョンと初配信
その後の打ち合わせで二虎と泉は地上に残ることになった。
泉は元々サポートとして地上に残る予定だったので問題ないが、二虎は不満そうだった。
「初心者用ダンジョンならともかく上級者用ダンジョンはゴールドライセンスがないと入れませんから仕方ないです」
「私の荷物……」
と膨れていた二虎だったがどこかホッとしたような様子を見せる。
泉から一通りの機材の扱い方のレクシャーを受け、一果はダンジョンへと向かう。
厳かなゲートくぐりエレベーターを下る。
するとそこには広い草原が広がっていた。
「きゅっぴー!」
「う~ん広いね。少なくとも高尾じゃ見られない草原だ」
そよ風を感じつつ【上級者向けエリアはこちら】と書かれた方向へ進む一果とテフテフ。
「ちょっとちょっとちょっとお客さん!」
すると、早速係員に止められた。
「ここから先はテイマーランク【ゴールド】以上の人しか通せないよ……って、え!?」
「はい。プラチナテイマーライセンス。これで通れますよね?」
「し、少々お待ちを」
係員の人は一端事務所小屋に戻ると資料のようなものを持ってきて、そこに書かれたプラチナライセンスと一果のカードを見比べる。
「し、失礼しました。初めて見たものでつい……偽造などの痕跡もありませんでしたので、どうぞ冒険をお楽しみください」
「ご苦労様です。では」
「し、失礼ですが連れて行くモンスターはそちらの……」
「はい。この子だけです。あ、でもピンチになったら【コール】で他の子を呼ぶので」
テイマーはライセンスカードに魔力を込めることで【コール】という魔法を使うことができる。
これはテイムしたモンスターを呼び出すことができるという強力なもので、主に未知の驚異に遭遇したときのための切り札として使われる。
一回使うとライセンスカード内の回路が破壊される強力な魔法のため、使うとまた役所に行って再発行してもらう必要がある。
ダンジョンを探索するテイマーの奥の手という訳だ。
(ま、ピンチになるとは思ってなけどね)
「育成登録数は151体……これなら安心ですね」
係員さんに見送って貰いながら、一果はついにダンジョンの上級者エリアに足を踏み入れた。
瞬間、空気がピリついた。
「きゅぴぴ!?」
「感じた? そう、これがダンジョンだよ」
自らのテリトリーに入ってきた侵入者への牽制か、何者かの殺気を肌で感じ取ったテフテフは身震いした。
「大丈夫。私がついてる」
「きゅっぴ!」
「さてそれじゃ、泉ちゃんの言ったとおりに配信を始めようか」
持ち込んだ二つのカメラを起動する。
一つは一果のつけている仮面に装着した小型カメラ。
これにより、一果目線の映像をお届けできる。
そしてもう一つはドローン型カメラ。
「前に会ったギャル配信者ちゃんと同じヤツだね」
起動すると、自動で一果たちを追ってくれる。そしてAIによる制御で常に迫力のあるカメラワークを実現してくれる優れものだ。
ただしちょろちょろ動き回るためにモンスターに狙われやすい。
「ダンジョンで壊されても保証対象外だってさ。このカメラも守ってあげよう」
「きゅぴ!」
『一果先輩、準備ができたようですね』
「うん、大丈夫だよ泉ちゃん」
マイクも兼ねたワイヤレスイヤホンに外にいる泉の声が届く。
配信の設定や作業、映像の切り替えなどは外にいる泉と二虎がやってくれる。
なので一果はダンジョン探索に集中出来るというわけだ。
『カメラと映像のチェックをしたいので軽く動いてみてもらっても良いですか?』
「こんなかんじかな?」
軽く走り回ってみる。ドローンカメラは一果を追いかけてきた。
『オッケーです。それでは、次はズボンを脱いでみましょ痛っ』
『一果に何させる気よアンタ! 一果、映像は問題ないから、そろそろ始めるわよ』
「二人とも仲いいね……」
学生時代から変わっていない二人のやり取りを懐かしみつつ、一果とテフテフの初配信はスタートした。
『これ以降、アクシデントがない限りは私は喋りません。ちなみに視聴者のコメントはソフトが読み上げます。適当に反応して盛り上げて下さい』
「ソフト……あああの変な声のやつね。了解」
かくして配信は開始された。
とはいえ一果は配信者としては全くの無名。すぐに人が集まってくるハズもなく。
ただじっとしている訳にもいかないのでのんびりと歩いて行く。
「きゅっぴ」
「3……4……5……6体くらいがこっちを気にしているみたいだね」
さてどうしたものかと思っていると、耳に独特な声が聞こえてきた。
『ワーム単騎で上級ダンジョン凸と聞いて』『自殺配信かな?』『あの仮面しとるやん! 本物?』
どうやら人が集まってきたようだ。
「いらっしゃいませ~今日は高尾ダンジョンの上級を攻略するから是非見ていってね~」
「きゅぴー」
『本当にここ上級?』『流石にワームじゃ無理』『つかワームじゃ初級でも無理だろw』『コイツが本物の仮面のテイマーだったとしてもここのモンスターには勝てんやろ』
「あれれ……せっかく来てくれたのにみんな信用してくれてない感じかな?」
「きゅぴぴ」
言いつつ早足で歩いている。
すると「ドカドカドカ」と音を立てて、何かが近づいてきた。
それは馬ほどの大きさのある恐竜のようなモンスターだった。
「あれはダッシュラプター。地竜系のモンスターですね~。そう。ここ高尾ダンジョンの上級には竜のモンスターが多く生息しているんですね~。竜とは言ってもドラゴンじゃなく、地竜や飛竜なんかの恐竜ぽいモンスターかな。で、竜のうんちは魔力的な栄養価が高いから強力な植物系のモンスターも多く生息しているんですね~。全部ウィキペディアで調べてきた知識だけど」
『馬鹿馬鹿逃げて』『解説してる暇あったら逃げろ』『ガチで死ぬぞ』『ひいいいいい』
ガチで心配のコメントで溢れる配信。
だが当の一果は……。
「ダッシュラプターはジャンプ攻撃が得意だから……テフテフ、敵の足下に――【溶解液】」
「きゅっぴー!」
テフテフの口からドピュっと紫色の液体が放たれる。
それは丁度こちらに飛びかかろうと踏み込んだダッシュラプターの足に命中。じゅっと音を立ててダッシュラプターの足首から先が消滅し、バランスを崩して倒れる。
「が……ギャオ……ス」
足が無くなった痛みに悶えるダッシュラプター。
『ふぁ!?』『なんだ今の……』『えっぐ……』
「うん。威力は申し分ない。けど強力過ぎて対人戦じゃ使えないね」
「きゅぴ」
『俺たちの知らない技にその身のこなし』『もしかしたらもしかして』『本物の仮面のワーム使いなのか!』
「そうだよ。この子があのレッドオーガを倒したワーム……名をテフテフ。よろしくね」
「きゅっぴ!」
『やっべ本物だw』『もしかして本当にワームでダンジョン攻略するんか』『テフテフかわいい』『本物認定!! 拡散するわ』『ちょっと疑ってたけどコイツなら本当に攻略しちゃうかも』『野生のダッシュラプター前にしてあの胆力は相当だよ』『さぞ名のある猛者と見た』
『泉です。お見事です先輩。現在の視聴者数120人。物凄い勢いで増えてます。この調子で行きましょう』
「オッケー。それじゃテフテフ、行こうか?」
「きゅっぴー!」
ダンジョンのゴール目指し、一果とテフテフは歩き始めた。
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