第7話 モンスターを戦わせただけなのに
部屋に来た二虎から事の経緯の説明を受ける一果。
先日のバトル終了後から切り抜きの動画がSNSで拡散。
まず「本物かフェイクか」で論争が起こり。
そしてとある学者のアカウントが「本物だろう」と発現したことで人々の興味は「ワームがどうやったらこんな技を使えるようになるのか?」というところに移っていった。
だがSNS上にその真実を知るものはなく……。
「動画配信者やテイマー関係なく、いろんな有名人がこの【仮面のテイマー】の正体を探っているって状況ね」
「ただバトルさせただけなのに……」
頭を抱える一果。
だがワームは餌をあげればすぐに懐いてくれてテイムしやすいモンスター。
テイマーなら一度は育成したことがあるおなじみのモンスターなのだ。
なんなら小学生男子が夏休みの自由研究の題材にしたりする。
それ故に誰もが最弱と信じて疑わないモンスターでもある。
そんなモンスターの活躍を見れば「どんな育成をしたのか是非教えて欲しい」と思うのはテイマーならば当然のことなのだ。
動画で使っている【粘着糸】も【脱力糸】も【麻痺糸】も今まで全く使われたことのない技。それをワームに使わせるにはどうすればいいのか?
今のSNSで一番ホットな話題なのだ。
「ってかぶっちゃけ聞くけど、こんな強力な技、一果は誰に教えて貰ったわけ?」
テイマーは絆を極限まで深めたモンスターから技の情報を貰い、それを別のテイムモンスターにラーニングすることができる。
それはある程度上を目指すテイマーなら当たり前にできる技術ではある。
ではこれほど強力な技を一体どこで教えて貰ったのか? という疑問もある。
「ネットだとワームに教えられる技はないってみんな言ってるけど?」
「ええと昨日使った糸技はね。子供の頃に仲良くなったデモンチュラスに教えて貰ったんだ。すごく大きなクモのモンスターだったんだけど、今思い返すと典型的なスケベジジイみたいな性格してたね」
懐かしいなぁと昔を思い出しほっこりする一果の横で、こっそり【デモンチュラス】というワードを検索する二虎。
「そのデモンチュラスってモンスターの情報、何も出てこないんだけど?」
「そうなの? 実家近くのダンジョンによく居たけど。インターネットって意外とダメなんだね~」
「……」
訝しげな目になる二虎。
この高度情報化社会において、検索しても何も情報が出てこないなんてことはありえない。
(私の親友はいったい何と仲良くなったんだろう……)
深く追求してはいけないような気がした二虎はとりあえず一果のチャンネルを作ることにした。必要な情報を打ち込んでいく。
「へぇ……以外と簡単なのね」
「チャンネル名は【テフテフチャンネル】でいいの?」
「うん。主役はこの子だから」
にんじんをもしゃもしゃ食らっているテフテフを見つつ一果が言った。
「可愛いテフテフがダンジョンで強いモンスターを倒していく! そんな感じのチャンネルコンセプトで行こうと思う」
「わかりやすくていいね」
これで動画投稿と動画配信が出来るようになった。
「お疲れ様。ありがとう二虎」
「きゅぴ!」
「どういたしましてー」
「さて。配信は土日にやるとして……試しに何か動画を投稿しようかな? 早く収益が欲しいしね」
「チッチッチ。甘いな一果~」
早く収益が欲しいという一果に現実の厳しさを教える二虎。
一果や二虎が使おうとしている動画サイトで収益を得るためには、まずチャンネル登録者1000人を目指さなくてはならない。
「で、チャンネル登録者数1000人のチャンネルの一ヶ月の平均的な動画再生回数は2万回。それで収益は2000~6000円って言われてるの」
「せ……千人も人を集めてたったそれだけ……。先は長そうだね」
1000人なんて一体何時になるやら。
「あくまで平均だけどね。登録者1000人にたどり着けない人だって沢山いるし、逆に1日で100万人集める人だっている。寧ろ一果は運がいい方だよ」
「ん?」
「ワーム使いの仮面のテイマーっていう追い風が吹いてるじゃん! 今動画をアップすれば興味持ってくれた人たちがきっと動画を見てくれる!」
「なるほど……今が収益増加脱サラ独立の絶好のチャンスという訳ね!」
「そういうこと。鉄は熱いうちに打てってね」
「それじゃあ、早速何か作ってみようかな……」
簡単な動画ならスマホ一つで作れる時代である。
「きゅぴ?」
一果は相も変わらずにんじんをもしゃもしゃするテフテフにカメラを向けるのだった。
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