7
次の日、俺はぼんやりと起きて母親に頭をはたかれながら、バイトの準備をして家を出た。
土曜の朝だというのに電車は相変わらず混んでいて、たくさんの大人たちが働いているのだと実感する。そりゃ、そうだよな。
開店と同時に仕事が始まって、俺も忙しく働いた。平日と比べるとやっぱり客の入りは多い。在庫を出したりレジ打ちをしていると、すぐに時間が過ぎた。
「佐藤君、お昼どうぞー」
アルバイトの奥寺さん(美人な人妻)に声をかけられてふと気が付いた。俺、昼飯持ってきてねえじゃん。
「あ」
「どうしたの?」
「昼飯忘れたので、買ってきてもいいですか?」
「うん、エプロンと名札は外していってね」
奥寺さんはにっこり笑って手を振ってくれた。はあ、年上の女の人っていいな。
ロッカーでエプロンを外し、同じビルの一階にあるコンビニへ向かう。
適当におにぎりとカップ麺を選んで、一応デザートコーナーにも寄っておくか、昼から長いしな、とそちらへ足を進めた。
デザートの棚の前には女の子がいた。帽子を目深にかぶっているので顔は見えないが、真剣にケーキを見つめているようだった。うーん、なんだか選びにくい。なんとなく横に並ぶのも気が引けたので、腕だけを伸ばして隅っこにあるプリンを取ろうとした瞬間。
「あっ」
女の子が手に持っていたケーキを落としかけた。
俺はつい条件反射でその落っこちそうになったケーキを掴む。(だてにゲームを愛しているわけではない。毎日コンマ何秒のタイムを縮めるために画面にへばりついているのだ。こういう落下物への反応速度は速い。)
「あ、これ」
「あ、すみませ……」
帽子の中の女の子と目が合う。
あれ?どっかで見た顔……。
「あ、あ」
女の子は声にならないような低い声を出した。口をパクパクさせて、まるで酸欠の金魚だ。
……ん?
……あれ?
ギュルギュルと俺の少ない脳みそがフル回転を始める。記憶の中のクラスメイトの男を引っ張り出してきて、目の前の女の子の顔と照らし合わせる。
ピコン!と脳みその中が正解の合図を出しているのだけれど、俺には目の前の光景が1ミリも呑み込めなかった。
だってスカート履いてるし。他人の空似?それとも、あ、あれか、白石って双子の姉ちゃんがいたのか!うん!でも、あれ?さっきの声は確実に教室で聞いたことのある声だったような……。
どういうこと!?なんで白石がスカート履いてケーキ買ってるの!?
「……し、し、し、しら、しら」
「……まず、会計してきたら」
やっぱり白石椎名だーーー!!
「……あ、あい」
白石は帽子を深くかぶりなおして、会計を済ませる俺を後ろからじっと眺めていた。
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