会計を済ませた俺。何も悪いことはしていないのに、まるで犯罪者の気分で白石の元へ戻った。コンビニを出てもう1度白石を見ると、うん。やっぱり白石だった。


「……えっと、同じクラスの佐藤です」

「知ってるよ」


 白石は帽子の中から俺をじっと見上げた。その外見はどこからどう見ても女の子にしか見えなかった。サラサラの髪に、長いまつ毛に、大きな目に、小さな口。思わず見惚れてしまうような美少女っぷりだった。


「あ、はあ、えっと」

「佐藤、今から時間ある?」

「いや、俺今バイトの昼休憩で、えっと、5時に終わるんだけど、えっと」

「……じゃあそこのカラオケの個室にいるから、バイト終わったら来て」

「……はい」

「じゃあ、バイトがんばって」


 俺は謎に白石(女の子バージョン)に見送られて本屋へと戻った。

 昼飯の味も、午後の仕事の内容も、よく覚えていない。頭の中ではずっと、クラスでの白石の姿と、さっき見た白石の姿がぐるぐると回っていた。


 とにかく早く5時にならないかと時計ばかり見ていたら、奥寺さんが話しかけてきた。


「佐藤君、今日はデートなんでしょ」

「あはは、ち、違いますよ」

「へーえ」


 奥寺さんが「若いねえ」とにやにやしながら俺の背中を小突く。俺はその感触だけで1週間は生きていけそうな気がした。









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