放課後、俺も森川も部活には入っていないので、そそくさと帰宅する。

 教室では明るい軍団が「今日カラオケ行く人ー」と点呼を取っていた。俺には縁のない世界だ。



 森川は駅の近くのカードゲームなんかを売る店でバイトしているらしく、そのシフトを鬼のように入れている。ゆくゆくは店を乗っ取って店長になるためらしい。


「じゃあな」

「おう、また明日ー」


 ムキムキの腕を駅前で見送った後、電車に乗ってバイト先に向かった。俺の就労場所は学校から3駅先にあるビルの中に入っている本屋だ。


 本屋。それは陰キャ界にもたされた希望の光!!普通の接客は無理!な俺でもなんとか働ける唯一の場所!!



 いつものようにスタッフルームに入り、制服を脱いで動きやすい服装(ただの白シャツにズボン)に着替えて黒いエプロンを着ける。本屋の店員ってなんでみんなエプロンなんだろう?という素朴な疑問は今も誰にも聞けていない。


 売り場に入ってチーフの指示を聞いて、レジをしたり漫画にカバーをかける作業をしたりする。新刊が出た時はさりげなく表紙をチェックして内容を妄想。お客様が荒らしていった本の整理。そんなこんなしていると、俺のバイトの時間、午後5時~8時までの3時間はあっという間に過ぎる。あとは社員さんかバイトの人と交代して帰宅するだけ。


 最初の頃はビビりまくってレジミスなんかもしたけれど、慣れてしまえば大丈夫だった。本屋にくるお客さんは様々だけれど、なにかあってもどうせもう会うこともないんだ、と自分に暗示をかけて乗り切っている。



「お疲れ様でした」

「佐藤くん、明日って暇?なんか予定ある?」


 シフト表を小脇に抱えて、やたらとニコニコした店長が話しかけてきた。

 明日は土曜日。健全な男子高校生なら友達と遊んだり彼女と遊んだり予定があるのだろうが、生憎俺の予定は1年先まで真っ白だ。


「暇してます」

「明日、10時から5時までお願いしてもいいかなあ?パートの結城さん、風邪ひいてお休みなんだよね」

「分かりました」

「わー!助かるよー!じゃあよろしく!」


 軽快な足取りとか裏腹に、店長の後頭部には大きなハゲができていた。いろいろ苦労してるんだろう。俺なんかで力になれればいつでも働きますよ!ここ、時給もいいし!



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