高校に入学したばかりのころは新しい生活になじむのに一生懸命で、でもいつもまにか常に一緒にいるグループは出来上がっていっていた。

 俺は1年の時も今現在2年になっても、当たり前のようにいわゆる「陰キャ」の集団に属していた。

 そこで仲良くなったのが森川。森川は下の名前が「ゆい」で、女っぽいから絶対に呼ばないでくれと念を押されている。


「俺のこのビジュアルで唯、はないだろう」


 森川は黒縁の眼鏡に角刈り、そして筋トレマニアという、どっからどうみても唯とは言えないような容貌をしている。


「まあ、確かにな……」

「最近は中性的な名前を付けるのがブームなんだ、っていうネットの記事に踊らされた母親の馬鹿さにはあきれるよ」

「中性的ねえ。なんでまた」

「ほら。ここんとこジェンダーレスってのが浸透してきただろう。性に捕らわれない生き方。もし俺の中身が女性でもいいように、最初から女でも男でもいける名前を付けよう!ってわけさ」

「……なるほどね。で、お前の性はどうなんだ」

「1200%男だな。残念ながら、俺は自分の外見にそぐわない唯、という名前を一生背負っていくはめになる。こんなムキムキのゲーヲタなのに。ほら、あの椎名とかくらいだったら全然違和感ないだろう」




 森川がそっと指さした先には、やたらと明るくて垢抜けた集団がいる。

 その端っこで笑っているのが白石椎名しらいししいなだった。白石はクラスの中でもかなりの陽キャ。まん丸い目に小さい鼻に、茶髪のショートカット。背もそんなに高くないから女子の中に混ざっても違和感がない。


 入学した当時は3年の女の先輩たちが椎名を見に来ては「めっちゃ可愛い!」と興奮していたらしい。しかし本人はそんなのどこ吹く風で、今も大股を開いて大爆笑している。その笑い声は思ったより低くて野太い。



「あれくらい見た目が中性的なら、ゆいだって、しいなだって、なんだってイケるだろう」

「あー、そうね」

「俺は自分があの容姿だったら、と思う。この名前で幾度となく馬鹿にされてきた人生をやり直したい」

「でも髪型は角刈りなんだろ?」

「そりゃあ、角刈り愛好家としてそこは譲れないな」

「……俺は今のお前の方がいいな」


 



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る