第9話 ビスケット
「ダンジョンの長い隠し通路を抜けるともふもふだった」
❤〚もふもふ〛
◯[わん太ほうけてる場合か?]
∀[戦闘にはなりそうにないけど、何ここ?]
隠し通路を抜けた先は円形のドーム状となった広い空間だった。野球場ぐらいの広さはあるかもしれない。
「畑だよね?」
ある程度区画整理されたような畑では角兎たちがごろごろ転がっている。
◆[右側の畑は多分薬草系、正面のは……人参な気がする]
◯[左奥に見えるのはキャベツだろ?]
∀[ともかく、あの中央の光ってるとこに行くしかないな]
そう、この部屋の中央に何か光っているのがある。あからさまに怪しいが行くしかないだろう。
「ところでボクが追ってきたうさぎさんはどこいったのかな?」
つぶやくボクの前に二匹の角兎があらわれた。
「きゅっきゅう」「きゅきゅう」
なんだがとても物欲しそうな目をして、そわそわしている。
ビスケットを取り出すとじっと見つめている。
「これが欲しいの?」
「きゅっきゅっ!」「きゅきゅきゅっ!」
うさぎさんたちは激しく頭を縦に振っている。
❤〚かわいー、分けてあげて〛
∀[敵対する意志はなさそうだし、餌付けしてもよいんじゃないか?]
「もう、しょうがないなぁ」
ビスケットを一つづつ渡すとぴょんぴょん踊っている。
「きゅきゅきゅー」
一匹のうさぎが人参らしきものを差し出してきた。
「くれるの?」
「きゅきゅっ!」
くれるというのであればもらうのもやぶさかではない。
「きゅうきゅっ!」
もう一匹も薬草らしき草を差し出してくる。
「きゅっきゅう!」
「えっ、キミもくれるの? ってかビスケットと交換ね。はい、どうぞ」
いつの間にか別なうさぎさんが来ておりビスケットとの交換を希望のようだ。
「きゅきゅっきゅー!」
◎[なにこのビスケット配給列]
❤〚きゃわきゃわ、並びたい〛
▽[わん太はどんだけビスケットを持ってきてんだ?]
「知らないの? ビスケットは叩くと増えるものなんだよ」
次々とくるうさぎさんとビスケット交換会を行う。人参、薬草、キャベツに小瓶、果てはなんかのアクセサリーとも交換した。
いつの間にか列整理をしているうさぎさんも居る。
「きゅっきゅー」
「え、これで最後?」
一匹のうさぎさんが中央の光っている玉の前までボクを引っ張っていき、そこに落ちていたクルミ大の半透明な実をくれた。
「ビスケットをこの光る玉の前におくの?」
「きゅきゅっ!」
「お供えかな?」
せっかくなのでいろんな種類のビスケットを光る玉の前に山積みにする。
◯[よく見ると、その玉浮いてない?]
▽[ダンジョンの奥で、台座の上に浮いていて、人の頭ぐらいの光る玉……]
∀[いや、まさか、本当にあったのか……]
「ん、もしかして、この玉のこと知って……、えっ、ビスケット消えた!」
うっすら光ってビスケットが消えた。代わりに光の玉が喜んでいるようにぴかぴかしている。
それを見ていたうさぎさんたちが玉の周りを囲むように集まってきた。
「きゅーきゅーっ」
「え、この玉を触るの?」
ちょっと寂しげな目をしたうさぎさんがうなづく。
◎[それはダメなやつでは?]
◆[ダンジョンから抜け出せる可能性がワンチャン]
◯[忘れ物はない?]
「出れるのかなぁ、もうちょっと探検したい気もするけど、とりあえず、言われたとおり触ってみるよ」
おそるおそる光る玉に触れると温かい力が溢れてきて……視界が白い光に包まれた。
▽[おわっ、目がー]
◯[目がっ、目がっー]
∀[サングラス越しでも眩しいぞ……って、あれ?]
フワッとした浮遊感を感じた後、とっさに瞑っていた目を開けると、朽ちた塀や家の跡が視界に入ってきた。
「ここは……ダンジョンに落ちる前にいた丘の上の廃墟……かな?」
狐につままれたような気がして自分のほっぺをつまんでみるが、痛い。
「夢じゃないみたいだわん」
❤〚わん太くん大丈夫?〛
∀[ダンジョンの外に出たか! とりあえず、そこを動くなよ。すぐ誰か向かわせる]
◆[最初にダンジョンに落ちた場所っぽいね]
―― 「いたぞー、丘の上だー!」「無事かー? ギルドの救援隊だー! 怪我はないかー」
次々と冒険者達が丘を登ってくる。
「あ、受付のおねーさんもいるや」
これで、どうやら無事にダンジョンから帰還したと言えるだろう。
「無事にダンジョンから出れそうと言うことで、初級ダンジョン配信は一旦終了とするわん。みんな、長いこと付き合ってくれてありがとうわん。この後の顛末については後日配信するからそれまで待っててね、それではバイバイわ~ん」
❤〚わん太くん、おつかれー〛
◯[ばいばいわーん]
▽[おつかれー、しっかり休めよー]
―― 本日の配信は終了しました……
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