第8話 隠し通路

「隠し通路だわん」

 廊下の壁に高さ30センチもないぐらいの穴が偽装されていた。角兎でもギリギリ通り抜けられるかというぐらい小さな穴である。


◯[普通は入れないサイズだな]

▽[まあ、普通はあきらめるしかないよな]

❤〚わん太くん、はいるの?〛


 そう、ボクの身長は40センチ程なので狭いことは狭いが這っていくほどでもなくなんとか進めそうなのだ。

「結局、このループから抜け出せそうにもないし、ここは進むしかないわん」

 少し屈んで偽装された壁を触るとなんの抵抗もなくすり抜ける。狭くのびだ隠し通路はうっすら明るく、ダンジョンの一部であることを示していた。


❤〚うさちゃんたちいないね〛

◎[流石にもう逃げ出してるみたいだな]

◆[そんな事よりこの隠し通路の先に何があるかだよ]


 てくてく、てくてくてくてく、進んでも進んでも角兎の姿も出口も見えない。

「この隠し通路、またループしてないよね?」

 ちょっと屈んですすむのもだんだん疲れてきた。


◆[時々曲がってるし、壁の苔が異なってるからループはしてなさそう]

△〚あれ、出口じゃないか?〛


 薄暗い通路の先に何やら明るい光が指しているのが見えた。


 慎重に通路の出口から外を覗く。

「部屋……だね。何もなくは……ないか」

 ひと目で見渡せるぐらいの小さな何もなさそうな部屋の中央にボクの身長よりは高いガラスのテーブルと、その上に怪しげな小瓶があった。


◎[お宝来たー! 隠し通路はお宝部屋行きだったか]

∀[いやいや、どう見ても罠だろうがw それに先に入ったはずの兎たちもいないぞ]


「罠とわかっていても見逃すわけにはいかないわん」

 ガラスのテーブルまで近づいてスキルを使用する。

「『浮遊』」

 ふわっと浮き上がりガラスのテーブルの上に立つ。

「ちょっとばかし行儀はわるいけど勘弁してもらうわん。そして、この小瓶のポーション?はどうみても罠だわん」

 きれいな高級そうなガラスの小瓶には文字が書かれた付箋が貼り付けてあった。


―― 『ノンデ』


◎[いや、だれがのむかーーっ!]

▽[リスナー受けを狙うVTuber様ならワンチャン飲んでくれるかも?]

◯[ワンちゃんw]


「流石のボクでもこれは飲まないわん。それより消えた角兎たちの行方の方が大事だわん」

 角兎を追いかけて入った隠し通路でなければこの小瓶をお宝と思って引き返したかもしれないが、ここまで一本道なのは間違いなく、そうするとまだ隠れた出口があるはずだ。


 とりあえず小瓶は仕舞っておいて周囲の壁をトントンしていく。


❤〚トントン〛

◯[コンコンコン]

◎[はいってまーす!]


「あっ! 抜けた」

 ちょうど入り口の反対側の壁に同じような隠し通路を発見した。ちなみに他の壁に隠し通路は発見できなかった。


◆[何のひねりもなくまっすぐ進むだけの簡単なお仕事]

△〚まあ、そこまで意地悪なダンジョンではないということで良いのでは?〛

∀[十分意地悪な迷宮だと思うぞ、むしろわん太意外では隠し通路を見つけても入れない……]


「確かにボク以外だとこの隠し通路は多分通れないよね。そういう意味ではラッキーだったかな」

 未発見ダンジョンのしかも隠し通路。これをラッキーと言わずしてなんと言おう。


「さてさて、次なるお宝を求めて進むよ!」

 偽装された隠し通路にやっぱり少し屈んで侵入した。

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