第6話 DiD

―― 配信が再開されました……


 かなり高いところから落ちたようだ。落ちた衝撃でお腹に刺さっていた角は抜けている。というか、一緒に落ちた角兎はお亡くなりになったのだろう。体は痛いが動かせないことはない。


◯[動いた!!]

◎[わん太ー、生きてるー?]

▽[お腹のあたりが大きく裂けてないか、あれでは……]


「あー、あーっ、うん、声は出るね。だいぶ落ちたみたいだけど一応大丈夫かな」

 天井の穴の先がかすかに光って見えるがとても戻れそうな高さではない。


❤〚わん太くん、大丈夫?〛

∀[ちょっ、腹が裂けてるぞポーションとか持ってないのか]


「あー、確かに角兎にがっつりやられたからハラワタが出てるね。まあ、ぬいぐるみだからお腹の中は綿100%なんだわん」


◎[ぬいぐるみジョーク?]

▽[いや、大丈夫なのかよ!?]


 リスナーさん達を心配させすぎてもいけないので、はみ出てる綿を押し込んで、せっかくなので新しい綿も追加する。ちょっと縫いづらいけど『裁縫』スキルも使用してちゃちゃっと傷口を塞いだ。


「うん、これで大丈夫。『裁縫』スキルは怪我の時の修復もできて優秀だわん」

 立ち上がって他に怪我がないかくるっと見回した。


▽[いやいやいや、なんでそれで大丈夫なの!?]

◆[そもそも『裁縫』スキルで怪我を治せるって聞いたことない]

∀[確かにぬいぐるみを修繕するなら『裁縫』はありかも?]

◇〚納得……以前にぬいぐるみ系VTuberとは? マジでぬいぐるみ?!〛


「どこからどうみてもぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太です。チャンネル登録もお願いしますわん」

 アピールのためにくるりと一回転するついでに現在地の把握をする。地面が崩れて落ちてきたここは何らかの遺跡のようだ。この空間には特に何もなく、長い道だけがどこかに続いている。


「やっぱり、この先に進むしかないよね? 上に登るのは無理そうだし……って、もしかして上の穴塞がった?」

 天井に空いていた大穴がいつの間にかなくなっており、きれいな石の天井となっていた。


∀[な、まさか、ダンジョンなのか? いや、しかし……]

◯[言われてみると明かりもないのにうっすら明るいし遺跡型のダンジョンぽいな]

◆[いやいや、ダンジョンなはずが……でもダンジョンな方がしっくりくる]


 この空気感はダンジョンだと思うけど、何かそんなにおかしいことでもあるんだろうか?

「この魔素エーテルの充満具合や壁の頑丈さはダンジョンで間違いないと思うわん。まあ、入り口から入った訳では無いけど、遺跡型のダンジョンってこんなものじゃないの?」

 遺跡型に限らず、ダンジョンは元の地形の影響を受けやすい。そのため、遺跡型のダンジョンでは入り口が複数あることも珍しくはない。


◆[まず、そこにダンジョンがあることがおかしい。そこがダンジョンだとするとフィールド型の初級ダンジョンの中に遺跡型のダンジョンがあることになる]

∀[そうそう、それにフィールド型のダンジョンは1層のみの構造なのが通説なんで仮にそこが2層目だとしても大発見だな]

◯[ダンジョンじゃなくても未踏破領域の大発見!]

◎[確かに!]


「それはともかく、ここを抜け出して戻らないことにはねぇ」


∀[あ、一応救援要請も出しといたぞ。新発見でもあるし、救援費用もいらないらしいから安心していい]

◯[それなら救援くるまでじっとしてるのもあり?]


「これまでここが発見されていないことを考えると待ってて助かるのは期待薄かな。それにほら、ボクは探索者シーカーだからね。未踏破領域の探索を他に譲るなんて考えられないよ」

 それに配信者としてもこんなにおいしい配信はない。


「それでは、ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太の未踏破ダンジョン探索始めるよ!」

 わくわくと気持ちが高揚するのを感じながら注意深く長い道を歩き出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る