閑話 ひろってください
俺の前には一台のガチャ筐体がある。
コインを入れて回すとオモチャとかの景品が出てくるアレだ。
『ひろってください』と書かれたダンボールに入れられて捨てられていた。
スキルが出てくるガチャで、100万ポイントで1回引け、1ポイントが1円相当のようだ。
ダンジョンで手に入るスキルオーブが安いものでは1万円で取引されていると考えれば割高かもしれない。
幸いなことに、アイテム類も対価としてポイントにできるようだ。
「さて、何を入れようか」
とりあえず、手持ちのポーションを突っ込んでみた。
1000ポイントにしかならない……
市価の十分の一ぐらいだろうか。
やけになって不要物を次々に放り込んでいく。
使わなくなった武器や防具、ダンジョンで拾った謎な本……
「あ、貯まった」
ガチャ筐体が軽く光った。
謎な本が思いの他高かったお陰でガチャ一回分がたまり、部屋の中がかなりすっきりした。
「よし、引くか」
ガチャのレバーをゆっくりと回す。
ころん、とスキルオーブに似た球体が排出され、胸の中に吸い込まれていった。
転売はできなさそうだ。
肝心のスキルは何が手に入ったのかカードで確認する。
―― 『浮遊』
「糞スキルじゃねーか!」
『浮遊』は1メートル程浮き上がることのできるスキルだ。
便利に思えるかも知れないが、『身体強化』で数メートル飛び上がったり、『空歩』で空を駆けたりできる世界で移動もできずただ浮くだけの『浮遊』は無用の長物の代表格だ。
貴重なスキル枠を一つ消費してしまった。
100万使って糞スキルでは割に合わない。
無条件にスキル取得されてしまうのも大問題だ。
持っているだけでデメリットとなる地雷スキルでなかったのが幸いとも言える。
この世界、いわゆるダンジョン発生後の世界においては、初めてダンジョンに入った際に
また、ダンジョンで発見されるスキルオーブからもスキル取得が可能となっている。
超常的な力を秘めたスキルであるが、多くのスキルを得ていれば良いと言う単純なものではない。
アクティブスキルの使用にはMPを使用するし、スキルの取得やパッシブスキルにはMPの容量、つまり最大値の減少を伴うため、自ずと持てるスキル数が制限される。
一般的には多くても6つまでが良いとされ、「スキル枠は通常6つ」と言われる。
スキルオーブに頼らずにスキルを得ることのできるガチャ筐体、これは悪魔の機械だ。
置いておくと引きたくなってしまうかも知れない。
もし、再び引いてしまって、また、『浮遊』のような糞スキルを取得してしまったら……
そう考えると背筋が震える。これ以上目に触れないようにダンボールに封印した。
気が変わらないうちに捨ててこよう。
せめて、誰かが役立ててくれるように、『ひろってください』と書いておこうか。
―― 解説 ――
777文字のオリジナルは、
https://kakuyomu.jp/my/works/16817330655105760065
で公開しています。
このダンジョンがある世界でのスキルの扱いについての軽い解説エピソードでもあり、ちょっとだけ説明を増やしてみました。
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