第12話 リバースカードオープン! 女教師の罠(意味深)を発動するぜ!

 陽は陰り、空模様は茜色染まり始めていた。

 日中の暑さは和らぐことはなく、湿度の高さを感じる粘り気のある風だけが、わずかな清涼感を提供してくれている。


「ここやっぱりいいよね。屋内と違って風に当たりながらごはん食べれるし、フードカート形式で色んなお店があるから」

 映画鑑賞から始まり、次に水着を選んで貰い、その後もあれこれウィンドウショッピングして楽しんだ私たちは、夕食を東光イン自慢の屋上庭園エリアで取っていた。

 朝から始まった私とまーくんのデート。

 それはテーブルに最後残ったフライドポテトをまーくんが口に入れたことでついに終わりがみえ、後私がすることはただ一つ――思いを再度告げるだけだ。


「ああ、男の俺なんかはこういう方が楽で好きだけど、中のちゃんとしたレストランの方が、女の子的には良かったんじゃないか?」

「そんなことないって。私ジャンクな食べ物好きだし、別にいつも高いところでお姫様扱いのエスコートをしろ!なんて思ってないよ」

 私は緊張していた。

 それは心臓がバクバク脈打つといった表れ方ではなく、むしろ静かに深く心の奥底を居座り、決して消えることなく存在し続ける何かに起因する感情だった。


「いやいや、どこでもこの芽岸正幸がエスコートさせて頂きますよ、姫様」

 一方私の幼馴染はいつも通りだった。

 過去のデート同じく明るく、こちらを気遣い、時にくだらないことを言って私を楽しませてくれる。


 改めてほんとによくできた男の子だと思う。

 同年代の男子なんて大抵男らしさと乱暴さをはき違えたガキ丸出しの奴か、母親以外の異性とまともに話したことがないのが丸わかりの根暗が大半なのに、私の幼馴染はとても自然にこちらに合わせてくれ、しかもそれがまったく押しつけがましくないのだ。


 例えば今日もそうだが、デートの時食事代をまーくんは出してくれる。それでいてそれが私の負担にならないように軽いノリで会計を済ませてしまうので、毎回奢って貰っているのにそれが面倒くさく感じない。

 これが女の子としてはとてもありがたい。何せ高々会計の端数を多めに払ったぐらいで恩着せがましく言ってきたり、払うにしても奢ってやりましたと言わんばかりに居丈高な態度をしてくる輩が多い中、まーくんは毎回全額気持ちよく会計を済ませてくれるのだから、いっそ感心するぐらいだ。


 また、お店選びもセンスがあって、決して高過ぎず、かつちゃんとおしゃれでおいしい場所に連れて行ってくれる。特に値段が高すぎない手頃の価格というのがポイントで、こちらも高校生なのだから、高い食事を毎回出させるのは気まずい。というか、男子はどうも基本的に高ければ高いほどいいと思っている節があるけれども、食事に限らずプレゼントでも高すぎるのは嬉しいというより引く気持ちの方が強くなってしまう。


 要するに女の子の事情や気持ちを察して振舞えという話。

 そんなに難しいことかと女の私は思うが、これが出来る男子は正直まれで、私の幼馴染はしっかりその辺を抑えて私をリードしてくれる。


 そして、まーくんは中身だけでなく、外見もしっかり整っていて、隣にいて何ら恥ずかしくない。

 顔はまあ平均よりは上かなといったレベルだけど、髪型はすっきりとしたショートのツーブロック、上は白のシャツに明るいグレーのサマーカーディガンを羽織って、下は濃い目のデニムに黒のスニーカーというコーデで、十分合格点をあげられる。下手にごちゃごちゃした服装より、やはりこういうさっぱりした清潔感のあるシンプルな組み合わせが良い。


 加えて、肝心の服の中身、つまり身体に関してはもうはっきり最高だ。

 何せ芽岸正幸は全国区の水泳選手であり、その裸体は当然ながら完璧に絞られたもので、泳ぐところを見る度に、まーくんで言うところのおかしな気分になりかけてしまう。顔が良くてもだらしない姿勢やたるんだ身体つきだと萎えるので、一八〇センチ半ばの高身長に理想の肉体美を備えた私の幼馴染は、スタイルという面ではほぼ女の子が考える理想形とさえ評価できるだろう。


 私はこれからそんないかにもモテる男の子を落とそうとしている。

 そう考えれば、ちょっと緊張するぐらいはご愛嬌。

 この開けた場所を選んだのだって、人で込み合った建物の内で告白するより、周りにあまり他人のいない状況の方が幾分楽な気になるという理由なのだ。もう素直に今の自分を認めて、初めの時と同じように開き直って素直に思いを告げてしまえばいい。


「それに……、これから私がしようとしていることを考えたら、あんまり混んでるお店の中だと恥ずかしい」

「恥ずかしい?」

 さあ、言おう。

 不動優理香が芽岸正幸に抱く全てを。


「うん。だって――」

「こんなところで何をしているの」

「っ⁉」

 私が思いぶつけようとしたまさにその直前、背後から声が掛かる。 


「男女が二人きりで休日に食事だなんて。校則で交際が禁止なことぐらい知っているでしょう」

 振り向けばそこいたのは予想通りで、最悪の人物。

 私のクラスの担任、柄本智だった。

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