▽残り三日と二日の狭間

 すまない、すまない、すまない、息子よ……!

 そう思いながら、俺は車を走らせる。何故こんなことをしているのかは分からない。だが、現に今、体が動いているのだ。息子に会おうとしているのだ。

 自分でも、馬鹿馬鹿しいことをしていると分かっている。第一、あの町に息子が留まっていると云う保証はない。皆が避難しているところに避難しているかも知れない。だが、何故か俺は信じている、確信がある。あいつはあの町にいる、と。

 普通なら血の繋がりがあるから分かる、と云えるのだろうが、それを云うことは出来ない。何故なら、俺は息子と血の繋がりがないからだ。

 だが、それでも一緒に過ごしてきた日々がある。あいつに暴力を振るってしまった自分を呪い、どうにかあいつを幸せにしてやろうと思っていた日々が。犯罪に加担しそうになったあいつを、寸前で止めてやった日々が。反抗期で嫌われながらもあいつを心配し続けた日々が。あいつがなりたいと云っていた小説家のことについて馬鹿みたいに調べた日々が。あいつの書いた文を読んで、あいつを取り巻く環境を呪い、そして暗くも綺麗な文章に圧倒された日々が。あいつが海外の和訳された難しい作品を読んでいて、その内容を教えてくれと頼んだ日々が。小説を書いていて、心情を上手く書くのが出来なかったのか、父さんならこう云うときどうする? と聞いてきた日々が。読んだミステリの結末がいまいち理解できなくて、あいつに聞きに行った日々が。俺もあいつをまねて小説を書いて何食わぬ顔で、書いてみたんだけど、どうだ? と聞いて、話の軸が全くないと一蹴された日々が。母親が死んだことをネタにしてあいつ書いた話を読んで、吐きそうになった日々が。二階の部屋から泣き声が聞こえて見に行くと、机に突っ伏して泣いているあいつがいて、ドアの向こうからすまない、と謝っていた日々が。不良の奴にそそのかされて煙草を手に入れたあいつを叱った日々が。たまにあいつが晩ご飯を作ってくれた日々が。

 そんな日々があるから、血の繋がりがなくともあいつの事を分かる――そう信じて、車を走らせる。

 まだ、世界が終わるまでの時間はある。世界が終わるまでに、あいつのことを一目見ることが出来れば――叶うならば話すことが出来れば、俺はそれで満足だ。

 俺はあいつに伝えたいんだ。

 ありがとう。

 って。

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