▽残り四日と三日の狭間

 誰かが掛け布団を引っ張っているような気がした。

 一体誰が?

 と、そこで思考を止める。この感覚は夢かも知れない。夢の中で、誰かに掛け布団を引っ張られているのかも知れない。

 夢だ、そうだ。きっと夢なんだ。

「ズッ……」

 布団をずらすような音が聞こえてくる。これも夢だ。

――いや、本当にそうだろうか?

 もしこれが現実だったらどうする?

 と云うより、俺は今寝ているのか? 起きているのか?

 それすらも分からない。

 その時、首に何かが触れた。そして、俺は〝冷たい〟と感じた。

 俺は今まで夢の中で〝温かい〟や〝冷たい〟と感じたことがあったか? 否、なかった。

 つまり、これは現実だ。

 俺は文字通り飛び起きた。

 体に掛かっていた布団がない。やはり誰かに布団を剥がれていた。

 暗闇に目が慣れ、微かな月明かりで何かが見えてきた。

 やはり、俺のベッドの上に誰かがいる。

「だ、誰だ?」考えるよりも先に口が動いた。

「私……だよ」

「白狐……?」

「そうだよ」

「え、何で? え、俺のベッドの上で何してんだ?」

 白狐は小さな声で云った。「一緒に寝よ」

「はぁ?」

「一緒に寝て。それじゃないと、夜トがどっかに行っちゃいそうで怖い」

 白狐はその不安で目が覚めたのだろうか。いや、それとも元々寝ていなかったのか。

「まぁ、いいけど。枕持ってきな。流石にこの枕二人で使うには小さいから」

「分かった」

 白狐は手探りで枕を持ってきて、俺の隣に置いて寝転んだ。

 俺は足下に下げられていた掛け布団を自分と、白狐にかける。

「……変な気、起こすなよ」前に云った台詞を巫山戯て云った。

「……無理かもしんない」

「え?」

 白狐は俺の服の中に手を入れてきた。

「え、ちょ。ちょっと待て。何してんだ?」

「動かないで……」

「待て待て、待て。駄目だ」

 白狐は云うことを聞かないで、俺の服を胸辺りまで引き上げた。

「何で? 何で駄目なの?」

「白狐を傷つけたくない」

「傷つかないよ」

「だって……初めてって血、出るんだろ」

 それらしい理由を付けてやめさせたかった。

 いや、別に白狐とそう云うことをしたくないという訳ではなかった。だが、心の中で〝まだ早い〟と思っていた。

「そんなのいいんだよ。傷つくに入らない」

「いや、駄目だ」

「何で?」

 俺は何も云わないで、服を戻した。

「何で? 私はこのまま終わるのが嫌なの。ただそれだけ。夜トと一緒になりたい。ただ……ただそれだけなの。それの何が悪いの?」

 白狐は泣きそうになっていた。そこまで、そう云うことがしたいのだろか。そう云うことは、人生最大の愛情表現なのだろうか。ならば、俺に拒否権はないのかも知れない。何故なら、白狐は最大限俺を愛そうとしてくれているのだから。

「……いいよ。好きなように、どうぞ」

 事は俺が想像知っていたとおりに進んで行った。


 行為が終わって、白狐が聞いてきた。「どうだった?」

 俺は率直な感想を云った。「普通に疲れた」

「ははは、なんだよそれ。もうちょっと、何かあるでしょ」

「え? 例えば?」

「例えばさ……っておい。それを女子に云わせる気か」

「ははは。ま、いいじゃん」

 そこで白狐があくびをした。「慥かに疲れたね」

「寝るか」

「そうしましょう」

 白狐は自分のベットに戻らず、俺のベッドで一緒に寝た。

――もしかしたら、これは夢なのかも知れない。

 そう思いながら、再び眠りに落ちた。

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