あたしたち、チーズ姉妹!
「お、おいしい、おいしい、おいしい!」
人の姿になったグリフォンは日に焼けた肌に波打つ金髪、胸元とヘソとを大胆に出した短い上衣に、これまた大胆なミニスカートという南洋系ギャル。その外見にふさわしいスイーツ好きを発揮して山と積まれたスイーツを次々と平らげていった。
「どんどん食べてくださいね、グリちゃん。チーズは母の愛。チーズを食べればみんな幸せです」
「グ、グリちゃん……?」
カティのその呼び方に――。
ギャルと化したグリフォンは顔を赤らめた。
「あれ、いやでした? ちゃんと『グリフォンさん』って呼びましょうか?」
「ち、ちがう……! その……」
「はい?」
「夢……だったんだ。誰かにあだ名で呼んでもらうのって……」
真っ赤になってモジモジしながらそう言うグリフォンだった。
「なんじゃ。そうなのかじゃ。だったら、そう言えばいいのじゃ。それを、北の果ての頂なんぞにひとりで住んでおるから……」
「なに言ってんの⁉ あたしがあんなところで、ひとりさびしく暮らす羽目になったのはお前たちのせいだろ!」
「
「とぼけないで! かつて行われた陸と空の大戦争! あのとき、お前たち、あたしのことを仲間はずれにしただろ! フェンリルは『おぬしは頭が
――そうなの?
と、海の王であるリヴァイアサンが陸の王と空の王に視線で尋ねた。視線で聞かれた二柱は、
――そう言えば、そんなこともあったなあ。
と言う思いを胸に、視線をそらしてすっとぼけた。
グリフォンはさらに叫んだ。
「そのせいで、あたしは獣の仲間にも、鳥の仲間にもなれずにずっとずっとひとりぼっちで……だから、決めたんだ! 誰よりも強くなって、空も、陸も征服して、鳥も獣もみんなまとめてあたしの配下にしてやるって!」
「そうであったのか?」
「もしかして、おぬし、敵わぬとわかっていて我らに突っかかっていたのは、かまってほしかったからなのじゃじゃ?」
「わ、悪いかよ⁉ お前たちみたいにいつでも仲間に囲まれてるやつらに、ボッチのあたしの気持ちがわかるかあっ!」
グリフォンはそう叫ぶと顔中を口にして盛大に泣きはじめた。
「かわいそう! グリちゃんはこの世界のコウモリさんだったんですね」
カティが叫んだ。
「でも、だいじょうぶ。もうグリちゃんはボッチなんかじゃありません。だって、あたしたちはもうチーズ姉妹になったんですから」
「チ、チーズ姉妹……?」
なんだそれ、と、ギャル化したグリフォンが尋ねる。
「チーズに対する愛の絆で結ばれた女の子、と言う意味です。ここにいるのは全員、チーズを愛し、チーズのために旅をする同志。グリちゃんもチーズのおいしさを知ったいま、立派なあたしたちの仲間です!」
「な、仲間……? い、いいの? ほんとに、あたしが仲間になってもいいの?」
「もちろんです! あたしのことは『お姉ちゃん』と呼んでください」
「う……うわーん、カティねえちゃーん、さびしかった、さびしかったよおっ!」
「もうだいじょうぶです、グリちゃん! グリちゃんはもうひとりではありません!」
カティの胸に顔を埋めて泣きじゃくるグリフォン。そのグリフォンをカティは力いっぱい抱きしめる。
「まあ、素敵……」
と、リヴァイアサンが頬に手を当ててうっとり呟いた。
「これが、感動的光景というものなのじゃじゃ?」
「なにやら、ちがう気もするが……考えたら負けだな」
そして、その日から『カティの愛あるチーズ工房』には、愛らしい幼女と脱力系セクシー美女の売り子に、胸元とヘソと生足とを大胆に露出させた南洋系ギャルという三人目の売り子が加わった。
美幼女、美少女、美女と、三世代そろった花々の共演に『カティの愛あるチーズ工房』はますます絶好調。客の途絶えることがない。
そのなかでカティの元気いっぱい、幸せいっぱいの声が響く。
「よってらっしゃい、見てらっしゃい! チーズは母の愛、チーズを食べればみんな幸せ! 『カティの愛あるチーズ工房』は今日も元気に営業中です!」
完
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