◆二:インターネットのない世界とレターガール協会はマジでクソ、って話

 2019年4月。インターネットが日本中から消えた。

 パソコンはただの箱、スマホもただの板。あらゆる通信は電話とFAXと手紙へと急速に逆戻り。可能な通信はトランシーバーぐらい。

 そうなった理由は加速する少子高齢化だった。

 若者の税金で長生きする老人が増え優秀な人材は海外へ流出。選挙も老人の入れる票で既存のゴミ政権が残り続けた。

 そして老害への忖度が繰り返されついには「インターネットは怖い、よくわからん」という声に負けてしまった国は、インターネットを禁止する《インターネット禁止法》を2019年4月から施行してしまったのだ。

 結果は言わなくてもわかるだろう。クソだ。

 すぐに若者を中心に法案の撤廃が求められたが、一度決まった法律を覆すのは簡単なことじゃなかった。

 企業の業務や国民の日常生活に多大なダメージを与えるも《ネットわからん民》の声が大きく強すぎて、力のない弱者、若者は屈服するしかなかったのだ。

 不便すぎる世の中、閉ざされた情報社会――になるかと思いきや、そこは国もバカじゃない。

 すぐに《レターガール協会》なる組織を立ち上げたのだ。

 レターガール協会はインターネットがなくなった現代の通信インフラをまとめた組織といえる。

 テレビ、ラジオ、新聞、FAXや手紙。そういった国民が頼る情報源を一括管理、配信、配達し国民を支えるのが目的だ。

 特にSNS、メールがなくなった現代での主なやり取りは手紙かFAXしかない。

 手紙の量は莫大に増えそれらを迅速に配達する“美少女配達スタッフ集団”それがあたしたち《レターガール》だ。

 レターガール協会の業務規模から考えると、それでも手紙が占める割合は少ないほうだが、老人には“気持ちを届ける”というようなフレーズが効くということから親しみやすいレターを全面的に押し出すことにしたそうだ。

 なのであたしたちレターガールの本質は、テレビの修理、新聞の勧誘、手紙や郵便物の配達などまさに情報を届ける何でも屋だ。

 ネットが消えた世界で経済は一度ガタガタになり、海外に出ていった若い労働力も戻ってくるはずもなく。――必然的にその仕事に就くことになったのは高校一年から三年生の女子高生がメインになった。

 その理由も「若いほうが客ウケがいいから」というゴミクズな理由。

 そして時給も安い。

 若くて社会の知識が乏しい女の子たちを集めて、センシティブな格好で愛想と紙を振りまかせれば、レターガールの完成――というわけだ。

 やっぱ国はバカじゃねーのか???

「クソがっ!」

 ネットさえありゃなぁ……。

 違法でもネット使いてぇなぁ。

 でも見つかったら島流しからの洗脳コースだ。それにあたしが今到着した現場も。


「ここか」


 さっきのばーさんの家からすぐ近くのボロアパート。それが今回の“現場”だ。

 レターガールの間で現場、案件といえば“違法インターネット使用者の潜伏先”だ。このアパートに、さっきテレビで見たような違法にインターネットを使う輩が潜んでいる。罰則さえなけりゃ羨ましい話だよ、ほんと。

 あたしは支給されている肩掛けポーチの中からメモを取り出す。

「まだ給料日まで二週間以上あるってのに残金六千円かぁ……」

 レターガール協会では一つの案件を本部に引き渡せば特別ボーナスが10万円出る。

「……やるか。仕事だし」

 あたしはメモをポーチに戻す。これも肩紐が胸を強調する感じになってしまい以下略。ほんとクソだ。でもこうやって掛けないと落とすんだよなぁ、これ。

 モヤモヤしながらあたしはその一室に踏み込んだ。


「レターガール協会だ! その場から動かないで両手を上げて端末の場所を教え――ろっ!?」


 踏み込んだアパート。そこは小さな1LDKの部屋。そこに天井まで届くぐらいに積みあがった本やCDは完全なタワー。そんなタワー数本に囲まれながらちょこんと座り、今は文鎮と化したスマホを熱心にのぞき込んでいるは――あたしとおんなじレターガールの制服を着た女の子だった。

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