導きの鏡と死の古城

ぐーすかうなぎ

第1話 バラバラ事件

 あぁ、お母さん。またやってしまいました。

 ユミちゃんからのプレゼントを、私、転んで潰してしまったんです。


『ヨリコちゃん。はい、これ!皆にもプレゼントしてる、大きい動物のクッキー!』

『わっ、ありがとう!』

『あ、でも、なんの動物だったか後で教えてね?』

『え?どういうこと?』

『実は市販のお土産クッキーなの。でも中のクッキーはランダムで、何が入ってるかは開けてからのお楽しみってわけ!だから私も知らないのよ。食べた後でいいから教えてね♡』

『うん!』


 というわけで中身は、動物さんのクッキーが入っていたに違いないのですが、紙袋をのぞいて見るとクッキーは完全に粉々で、何の動物だったのかわかりそうになくて。

 どうしよう、ユミちゃんに謝らないと。


 そうは思いながらも、ユミちゃんのいる遊具部屋から、だんだんと遠ざかってしまう私なのでした。


 私はあまり使われていない、奥の方にある作品室に入りました。

 作品室というのは、この孤児院の生徒が作った図工作品を展示するスペースで、普段は誰も来ないところです。


「えぇっ?」


 私はビックリしました。

 クリアボックスの中に納まっていた模型作品やパズル作品のほとんどが、床にぶちまけられていたからです。


「だ、誰がこんなヒドイこと……」


 ユミちゃんのお土産クッキーを粉々にした私が言えることではありませんが、とても切ないです。

 クッキーとは違って、なおせる希望はある気がするけど……、そうは思っても私は途方にくれてしまいました。


 ショックの連続で、動く気になれません。


 私は扉近くの壁に寄っかかり、しゃがみこむと、声をおし殺して泣いて、泣いて、そしていつしか眠ってしまったのでした。



 私が重いまぶたをこすって目覚めると、何やら光の中で動く存在がいることに気づきました。

 人の気配です……。


「だ、れ……?」

「おはようございます。僕の名前はスグルです。泣いたんですか」

「スグル君?」


 そんな子いたっけ?遊んだことないかもしれません。新しい生徒かな。

 スグル君は、さっきまでバラバラだった模型を何の迷いもなく手にしていて、私はそっちの方に驚きました。


「ダ、ダメ。いじったりしたら……あの」

「大丈夫です。大丈夫です。もとに戻すだけです。作品のネームプレートがここにあるので、形は大体想像がつきます」

「えぇっ?な、な、なおせるの?」

「はい。さっき一個完成させました」


 私はスグル君が指さした方を見ました。

 そこにはいつしか見た、ドラゴンの模型がありました。信じられない、さっきまでバラバラに壊れていたのに。


「す、すごい……」


 あっけにとられていると、秒針の音がカチカチと耳に入ってきました。

 壁掛けの時計からのようでした。時間を見ると、ちょうど午後二時。


「大変。あと一時間しかないわ」

「一時間後は、おやつの時間です。皆が集合する時間です」

「そうなの。ユミちゃんに会って私、謝らないと」

「謝る。謝る。悪いことでもしたんですか」

「あのね、私……私、どうしようっ。貰いもののクッキーをバラバラにしちゃったの」

「見せてください」

「え?」


 スグル君はティッシュを広げると、そのうえで私が渡した粉々のクッキーをパズルのピースのように扱い、三十分ほどで動物の形に戻してくれたのでした。


「これは……、ゾウさんだわ。ゾウさんだったんだぁ」

「泣かないでください」

「スグルく~んっ‼ありがとう!本当にありがとう!」

「はい」

「そうだ。一緒に食べよう?」

「いいえ。これはヨリコのものです」

「え?どうして名前を知ってるの?」

「ネームプレートに書いてあります」

「あ、そっか。でもね、これはスグル君のおかげだもの。一緒に食べよう?」


 結局スグル君はクッキーの小さな欠片だけを渋々食べて、それ以降は食べませんでした。


 午後三時まで、残り三十分かぁ。


「あ、そうだ!そうだった!」


 私は正体不明の大富豪・名雪(なゆき)さんがくれた不思議な手鏡のことを思い出し、自室にてマイベッドの枕の下からそれを取り出したのでした。

 これは通称、導きの鏡です。この導きの鏡に映るのは、なんと私自身ではありません。


 ≪何?なんか用?≫

「神崎(かんざき)君、あのね……」


 そう。これは誰にも秘密なのですが、このアンティーク調の手鏡には決まって神崎君という男の子が現れるのです。

 そして、私が迷った時には必ず答えをしめしてくれるのです。


 ≪なるほど?クッキーバラバラ事件は解決したけど、そのユミって子に謝るか謝らないかで迷ってると≫

「そうなの。本当はね、正直に話したいの」

 ≪なら、話せば?って言いたいけど、引っかかるんでしょ?黙っていれば、きっとヨリコの胸はつっかえる。けど、ユミちゃんは何も知らないまま元気でいられるかもって思うと、そっちの方がいい≫


「……でも秘密って、いいことじゃないよね」


 ≪……。ウソと秘密はね、相手への配慮があれば、その形は変わってくる。ヨリコのは思いやりだよ≫

「そっか。ありがとう。神崎君」

 ≪別に≫


 その後、私はスグル君がゾウさんにしてくれたことは無碍にもできない、ユミちゃんに変にフォローをさせたくない、ということを考えて、正直に話して謝ることはしませんでした。


「あのクッキー、ゾウさんだったよ!ありがとう!ユミちゃん!」

「そうなんだ~!いいよいいよ、どんどん太れ?」

「あ、それが狙いだったの?もう!」



 後日、作品室のバラバラ事件の真相は、先生たちのヒソヒソ話で知りました。

 どうもあれは前日に起きた地震のせいだったみたいです。だけどバラバラになった作品たちは、一日ですべて綺麗に戻っていたので怪談話のようにウワサが広まっていきました。


 その犯人のスグル君と私はといえば、今でも孤児院の怪談話を増やし続けていたり、いなかったり……。

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導きの鏡と死の古城 ぐーすかうなぎ @urano103

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