第9話 千代、お出かけするⅠ
時間は土曜日の午前九時。私は、絶賛悩み中である。何故なら、十時に待ち合わせがあるからだ。
「お姉ちゃん、出かけるんじゃなかったの」
下から妹の声が聞こえてくる。しかし、まだ服を決めることができないのであった。
「昨日のうちに決めとけばよかった」
私は少し嘆くように鏡を見ながら服を放っては投げ、放っては投げを繰り返していた。
「もういや」
いつもは、ジャージという女の子らしからぬ服装をしてるせいで悩んでるのが馬鹿に思える。そもそも、ただの友達とラノベを買いに行くだけ。なのに何でこんなに服装ごときに苦悩しないといけないのか、デートじゃあるまいし。
ああ。そうだ、友達ができたからか。
「これにしよう」
結局、帽子にジーンズ、そしてカーディガンという無難中の無難な服装にした。ふと、時計を見ると、九時三十分。今の時間だと、十五分オーバーになってしまう。どうしたものか。私のメアドだけじゃなく、臼井君のもらっとけばよかった。
「とりあえず、急ごう」
私は、すぐに家を出てバスに乗った。バスに乗り遅れてしまった。おそらく、三十分オーバーになるのがここに確定してしまった。
バスに揺られ、いざ駅前に着くと、ものすごく見えやすいところに臼井君がいた。ちらちらと時計を見ているところから、長い時間を待たされて怒ってるかもしれない。私は意を決した。
「臼井君、おはよう」
「おはようございます。結城さん」
「・・・待たせたよね」
私は臼井君の顔色をうかがいながら、問いてみた。
「僕も今来たところです」
「・・・・はい?」
「だから、僕も今来たところです」
思ってもみない言葉に動揺して聞き返してしまった。どうしたものか。絶対待ったはずなのに気を使ってるのかしら。いや、まさか・・・。
「あのその言葉は」
「えっ。定型文みたいなものだと。信長君が」
「はぁ。そういうことね。実際どのくらい待ったの」
「えっと・・・・。一時間ぐらいですかね」
一時間・・・。予想以上に待っている。まさか、三十分前集合してるなんて。久我君の入れ知恵かしら。
「それより、行きましょう。結城さん」
「えっ。ええ」
私の友達のお出かけはスタートしてしまったのだ。私達は、とりあえず当初の目的である駅近くのショッピングモールにある本屋に突入した。
入ってすぐのところには、店員おすすめの本が多数置かれていた。臼井君は私を置いてそこに向かっていった。手に取って、後ろのあらすじなどを見ては置くの繰り返しをしていた。私はそこに行き、その作業に夢中になってる臼井君の肩をポンとたたいた。それに気づいて臼井君は後ろを振り向いた。
「裏表紙見るのって楽しいですね。なんか、ゲームのパッケージ裏を見るみたいで」
「いや、でも、あなたの持ってるのって。一巻じゃないでしょ。そんなの見て楽しいの」
「それもそうですね。最初から読まないと意味は分からないですけど。でも、面白いですよ」
この人なんか面白いかも。
「こっちじゃなくて、とりあえずラノベコーナーに行きましょう。たくさんの種類あるし、ね」
私は、夢中になってる臼井君をラノベコーナーに引っ張っていく。
「家の近くよりやっぱ品ぞろえ多いんですね」
なぜだか、目をキラキラさせている臼井君。こっちに来ても、私を置いてけぼりにして裏表紙を見ている。私はそれをさておき自分のおすすめの本を第一巻だけ数本とると臼井君のもとに持っていく。
「臼井君。これが私のおすすめなんだけど」
少し驚いている。私の存在を忘れているのかしら。
「ああ、結城さん。ラブコメと異世界ファンタジーものですか」
「うん。この二つはなかなか感動もするわよ」
「そうなんですか。じゃあ、これにします」
「結構あっさりなのね」
「自分では分からないですからね」
なかなかあっさりしてる人なんだと私は実感した。優しい人なのかも。初めにきつく当たったのは間違いだったわね。ただ、また私を置いてとっととレジの方に行ってしまった。それ治らないのかしら。心の中で笑ってる自分がいた。
「あの・・・。お願いがあります」
レジから買い物袋を持ってこちらに向かってきた臼井君は、私にいいたいことがあるようだ。
「なんでしょう」
「ゲーム見に行っていいですか」
何かと思えば自分の趣味の物だった。私は笑顔で答えるのであった。
「どうぞ」
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