第2話 景虎、作家を目指すⅡ
「お帰りなさい、景虎君」
僕が部屋のドアを開けると長い黒髪を一つに束ねているよく見知った女性がドアの前に立っていた。
「うわっ、琥珀姉さん。来てたんですか」
僕の目の前にいるのは纏うことなき僕の従姉である琥珀姉さんである。
「景虎君そんなことよりどこに行っていたのですか」
何故だろうか。琥珀姉さんがとても怒っているように思える。
「えっとですね。ゲームを買いに行ってました」
はぁーという深いため息を琥珀姉さんは漏らしていた。僕の頭の中では疑問がどんどん出てきて何から処理していけばいいのか分からなくなっていた。
「食事をしながら話しましょうか」
僕と琥珀姉さんは玄関から部屋に入り、琥珀姉さんが作ったであろう豪華料理が並んでいた。何故こんなに豪勢になっているのかが僕には全く見当がついていなかった。
「それでなんの話なんでしょうか」
僕は唐揚げを口に運びながら琥珀姉さんに尋ねてみた。
「今日入学式をサボったみたいですね」
...........。
入学式..........。
僕はそのキーワードを聞いたが今日自分の思っている日にちは明日のはずだと思っていた。
「入学式は明日だと思っていたのですが.....」
「そんなことだろうと思いました。だから私は一人暮らしに反対だったんですよ。景虎君はどこか抜けている部分があるので心配だったんですよ」
ひどい言われようであった。僕はゲームをして徹夜したせいで日付感覚が狂っていたようだ。今日はもう入学式当日という事実を確認していなかったのだ。
「.......。ボッチ確定ですね」
「今日はそれを踏まえて話があります。これを」
琥珀姉さんは財布の中から一万円札を取り、僕の前に差し出すのであった。
「お小遣いではないですよね.....」
僕の中には何か確信めいたものがあったのかもしれない。入学式シーズン。それすなわち、月初めであること。
「はい。今月の仕送りとしてこれだけです。足りない分はバイトでもしてください。明日は早いので私はもう行きますね」
琥珀姉さんは、ご馳走と一万円を机に残し、そそくさと帰った行くのであった。
僕は、目を疑った。仕送りとして一万円とはどう足掻いても独り暮らしの僕にはまったくもって生活できるとは思えない。ましてやバイトなどゲームの時間を減らす要因でしかない。
「とりあえずバイト探さないと.....」
ゲームが散乱している机の上に綺麗に取り付けられているカバーを外した。デスクトップが姿を現す。
「えっと.....。とりあえず」
いつも見ているゲームのまとめサイトを覗いていた。もうそれが僕の日課になっていると言っても過言ではない。
「じゃないでしょ」
僕はまとめサイトをマウスのホイールを下にしながら自分に突っ込んでいるのであった。
「どうすればいいんだ....。ん、これは....」
まとめサイトの広告をクリックしてみた。
『東都文庫大賞 ライトノベル部門
あなたもラノベ作家を目指そう。必要なものは書く力のみ』
「これだ」
僕はもう自転車に乗って走り出していた。行き先はというと本屋であった。
ライトノベルは読んだこともないためどういうものかを読む必要がある。
ライトノベルコーナーで僕はわからぬまま一冊の本を手に取った。
『君に捧ぐ歌 作 霧島きな』
店員一押しって書いてあるこれにしよう。
僕はそれを持って店のレビの方に向かっていく。
バンッ
何かにぶつかった。長い前髪の隙間から見えたのは、チャラそうな男だった。
「いてぇなあ」
「すみません」
チャラ男はとてもお怒りの様子に僕には思えたが.....。僕の落としたラノベを拾い上げ、渡してきたのだった。
「ほらよ」
「あっ、ありがとうございます」
「そんな髪なげえから前見えねんだよ。気ーつけろよ」
チャラ男はその言葉を言い残し僕の前から立ち去っていくのだった。
「ふぅ〜殴られるかと思った。見た目はあれだけど、優しい人だったな」
そのままレジの会計を終わらして家に帰って行くのであった。
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