第17話 ランチタイム
取り繕った笑顔をみんなに向けて「えーっと、お昼ご飯とか、みんなどこで何を食べてるのかな?」なんて言ったけれど、俺の心臓はバクバク鳴っていた。
「そっか。トールはここの食べ物のこと、わからないよね」
「何かとってきてあげる」
「ちょっと待ってて」
と、ユリヤを含め何人かから、親切に言われて、俺はブースの端っこで待つことになった。
だけど、本音で言えば顔面蒼白だったし、万が一にもすごく美味しそうなものが運ばれてきても、胸がいっぱいでたべられるかどうかわからない。
それもそのはず。
転生・転送者を検索するシステムで自分の名前を調べたら、エラー表示になってしまったのだ。
ここの世界の理屈で言えば、俺はどう考えても転送者の部類に入るはず。それなのに、なんの情報もないだなんて。
パニックを起こすとしたら、もっと早い段階で起こして然るべきだった。目が覚めた時点で、変な連中に囲まれて、俺はめちゃくちゃになってもおかしくなかった。
だけどここがあまりにも転送前の職場と同じ雰囲気で、既視感でいっぱいだったから、なんか「妙なことが起きた」っていうより、「日常の延長」だったんだ。
それが、今になって急に、頭が真っ白になるほどの混乱に叩き落とされていた。
「おまたせー」
と言って、外から運ばれてきたのは、見たこともないカラフルな、原色の黄色とか赤とかの木の実? フルーツ? で、SNSで見る外国のお菓子みたいだった。
「こ、これ、食べられるのか? このままで?」
添加物めいっぱい使いましたって感じの色してるけど。
「うん。割って食べるんだよ。美味しいよ」
ほら、こんなふうにねって感じで、手のひら大の大きさの真っ赤な木の実を、ユリヤがパキッと二つに割ると、中身は真っ青。
あ、だめ。
見るからにまずそう。
「なんかいかれた配色なんですけど」
「ハイショク?」
通じないのか。
仕方がないので、俺も教えられた通りに割ってみる。
すると、中からパイナップルみたいな匂いがしてきた。甘いような、ちょっと酸味があるような。
外見が赤くて中身が青いのに、本来黄色いはずのパイナップルの匂いがするとか、視覚と嗅覚がちぐはぐになる。
しかし、そんな妙な気分と、フルーツの甘い匂いとで、俺はさっきまでの絶望的な気持ちを忘れかけた。
ひとくち、齧ってみる。
うん、悪くない。
確かにパイナップルっぽい。見た目よりも匂いの方が正確だった。
見た目よりもずっとジューシーで、まさにフルーツって感じだ。
「これ、いけるな!」
「でしょ。おいしいよね」
でも、こんなフルーツだけで栄養は大丈夫だろうか。とはいえ、この人たちに栄養学の基礎知識があるようにも思えない。
まぁ、もういいか。どうなったって。
彼女たちはこれを毎日食べて、元気に生きてるんだから。
「ほかにどんな食べ物があるんだ? サラダとか、パンとか、肉や魚は?」
聞いても首を傾げられてしまった。
仕方ない。食べ物のことは、おいおい聞いていくとしよう。
昼休みでも電話は相手の好きな時間にかかってくるというもの。
休憩をとっている俺の斜め向かいのブースで、受電があった。
応対者は、ロロルだった。
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