第15話 こみあげる思い
俺たちは、俺がカスタマーに喋ってはいけない能力の内容にまで言及しそうになった(実際には、出だしのところは話してしまった)部分まで聴き終えた。
「きっと、あらゆる場面で吉田様の転生ライフを助けることになるかと存じますが、大変申し訳ありません、あまり詳しいことはお伝えできかねるものでございます」
俺は内心頭を抱えそうになったし、すごく恥ずかしかった。
「これは私が割って入ったから阻止できたものの、能力について明かしてはいけないことは、画面にも書かれている通りだから」
と、ユリヤから軽くお叱りを受けてしまう。
「うっ……、申し訳ない」
「まぁ、初めてだったわけですし」
と、ウリアナに慰められてしまった。
「そう言ってもらえると助かるけれど、あのとき、あとから確認したら、確かに『ここから先は案内不可』って出てたから」
そうなのだ。後から知ったことなのだが、相手が言う内容について「合っているかどうか」を伝えることはできても、能力そのものの案内をしてはいけないそうなのだ。
そんなの知らなかったから、とか、初めての受電なのだから、とか、なんとでも言える。実際、その通りだ。
だけど、電話応対は、たとえマニュアルがあったとしても、決まりきったことばかりが起こる仕事じゃない。まったくその正反対だ。毎回すべてが初めて起きること。ライブだ。
だから、知らなかったとか初めてなんていう言葉は、ただの言い訳でしかない。
知らないことを減らすために知識をつけるのはもちろんだが、知らないことが降ってくるかもしれない状況で、どうやってオペレーションするか、なのだ。
この心構えを間違えてはいけない。
彼女たちを研修するうちに、俺は、俺の中にあったオペレーター魂に火がつくのを感じていた。
そうか。俺は思ったよりもコールセンターの仕事を愛していたのかもしれない。
ただ長くいるだけだと思っていた。
ただ給料が欲しくて働いているだけだと。
でも、違ったのかもしれない。
「ちょっと、休憩にしようか」
動揺した俺は、そう申し出た。
受電ブースの端に身を寄せた俺は去来した胸の思いをやり過ごそうと必死だった。
仕事に誇りを持っているなんて絶対的に良いことのはずなのに、なぜだろう、こんなにざわめきを覚えるのは。
「大丈夫?」
と、ユリヤが顔を覗かせた。
「あ、ああ……」
俺は曖昧な返事しかできない。
「どうする? 1回目の研修はこれでおしまい?」
「そ、そうだな。あまり一度に詰め込みすぎてもいけないし」
「トールが言ってた、ロールプレイはどうする?」
「あ、ああ……、えっと……」
戸惑っている間に、ユリヤがちゃっちゃとまとめてくれた。
「トールもぶっ続けで研修は大変だろうから、本当に今日はここまでにして、各自復習。ロールプレイはまた明日にしよう。昼食休憩のあと、2つめのグループにさっきと同じ研修をしてほしいんだけど、いける?」
「わ、わかった……」
そうだな。こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
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