第96話クーデター2

 僕の指摘に対して義母は溜息をつく。

 

「ミゲルの言う通り、次期大公は決まっていないわ。ただ、アイゼンシュタイン侯爵が今回のクーデターの首謀者である事は間違いないわ。クーデターで大公家は壊滅状態。大公家は幼い子供に至るまで殺されているわ」


「見せしめですか?」


「今回ばかりは違うみたいだわ。一族総出でクーデターを起こしたのよ。いうなれば戦死ね」


「戦死……」


「クーデターで戦死と言うのもおかしな話だけれど、そう言うに相応しいものだったそうよ。御年輩の方から幼い子供まで武器を持って戦ったという話だわ」


 なんでそこまでするのか理解できない。

 まあ、クーデター起こしたこと事態に理解が及ばないけど。



「大公家……この場合はアイゼンシュタイン侯爵というべきでしょうか?侯爵はクーデターが成功すると思ったのでしょうか?」


 ブリジットが首を傾げて尋ねると義母は大きくため息をついた。

 その様子だけで答えが出ているようなものだ。

 僕達にとっては良い迷惑だし、巻き込まれる方はたまったものではないだろうなと思う。


「成功する確率は低いと分かっていたはずです。けれどこの機会を逃がしてしまうと次は無いのも確か。一か八かの賭けに打って出たのでしょう。危い賭けではありますが、チャンスである事も確かです」

 

「なぜそのような危険な事をしたのでしょうか?失敗しては元も子もありません。勝算が低いのなら尚更ではありませんか」

 

「侯爵も後がないと感じたのでしょう。正規軍が勝っても連合軍が勝っても大公家に未来はありませんからね。大公家は今もまだ反王家の看板を下ろしていない状態です。かと言って、ぺーゼロット公爵家と親交がない。数で勝る正規軍が連合軍に押されているのを見てこちらに付こうと考えてもおかしくはないでしょう。大公家にしてみれば王家が勝つよりも公爵家が勝った方がいいと考えたのでしょう。王家が勝った場合、下手をすれば大公家そのものが無くなる恐れがありますから。いいえ、大公家に属していた者達の死すらあり得たかもしれません。エンリケ王子と宰相にとって彼らは邪魔な存在以外の何物でもありませんからね」


 つまり、どちらに転んでも死ぬ可能性が少なからずあると言う事か。


「座して死を待つよりは……と言ったところでしょうか?」

 

「そうかもしれないわね。このクーデターが成功していれば私達も彼らの功績を無視するわけにはいかないわ。同じ反逆者だと言われればそれまでですもの。それに、彼らが恭順してくるならそれを拒否する事も出来なかったでしょうね。公爵家と王家にとっては意味のない行為だけれど見方を変えれば意味のある行動だわ」


 確かに見方によってはそうだ。

 大公家もまた生き残る事に必死なのだろう。

 





 


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